悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

03圧力

公開日時: 2022年7月25日(月) 21:05
文字数:2,119

 私とセイラを組ませて理由、それはニスヘッドによると、カミーユのスキルを確定させるためだという。

さて、ここで問題になるのは、この場合私の対応はどれが正しいかだ。もちろんここで言う「私」とは、「悪役令嬢としての私」のことだ。


 セイラとの不仲は周知の事実であり、そのように二人で茶番を繰り広げているのだから、ここはワガママを通してでも離れるのが自然だろう。

それに、多少そのような横柄な態度を取ったとして、誰も私を責めない事は分かり切っている。

なぜなら私は公爵家の娘であり、王位継承権も最下位ながら持つのだ。そのような力を持つ人物には、長いものには巻かれておけと頭をヘコヘコ下げるのが、貴族という生き物なのだから。


 私の前に立つ二人も、それぞれ地方を治める貴族の娘だという話だし、立場の違いを分からせるという意味でも、私が少々強く出たところで問題など全くない。

けれど……、なんだか無邪気な笑みを浮かべ、人懐っこい大型犬のような仕草にも見えるニスヘッドを見てしまうと、そんな考えがバカバカしくなってしまった。



「そういうことでしたのね。私はてっきり、何か別の意図があるのかと勘ぐってしまいましたわ」


「そそそ、そんな滅相もないっ!」


「カミーユさん、そんなに慌てることはありませんわ。私、これでも私情を挟むほど落ちぶれてはおりませんの。

 この国を支えるべき貴族であるならば、この学園の存在意義であるスキルの発掘のため、多少の理不尽も受け入れるべきだと思いませんこと?」


「理不尽だとは思っているんですね」


「ちょっ、ニスってば……」



 あわあわと焦るカミーユとは対照的に、ニスヘッドの方は失言がボロボロとこぼれだす。

まったく、お母様のようにメンツと立場を第一に考える相手だったら、きっと今頃学園追放のためにうらで工作されているところですわよ……。



「そうね、文句がないと言えば嘘になりますもの。けれど、それとこれとは話が別。

 それになによりカミーユさんのそのスキル、本当に目論見通りの能力であるのなら、とても有用だとは思いませんこと?

 目利き、つまり見極めの力があれば、内政・経済面はもちろん、軍事面での有効活用もできるでしょう。しかし、それもどの程度の精度かによりますわね」


「私が思うに、カミーユのスキルはかなり精度が高いと思いますよ?

 昔っから私だけじゃなく、父の相談役もしていたくらいなんですから!」


「ちょっと!?」


「へぇ……。すでに領地運営にも活用しているほどのスキルですのね。それは楽しみですわ」


「あの、これはその、ニスが大げさに言っているだけでっ!」


「あら、嫌味で楽しみだなんて言ったわけではありませんわよ?

 それに今回の件であなたのスキルが活かせたのであれば、十分な精度だという証明にもなるでしょう。

 なにせ私も、あのニブい平民と組んだところで、うまくいくとは到底思っていませんもの」


「うっ……」


「本人でさえ気づかぬ相性まで測れるのであれば、これ以上の証明はありませんわよね?」


「ううっ……」


「よかったねカミーユ! エリヌス様も協力してくれるって!」


「ニスぅ……」



 春の陽気の中咲き誇る赤いチューリップのようなニスヘッドの笑顔を、今にも泣きそうな顔でカミーユは睨みつけている。

彼女には悪いが、協力は惜しまないという建前と、セイラとは組みたくないという本音。その両方を抱え込んだ悪役令嬢ならば、この程度の重圧くらいはかけてくるものだろう。


 まあ、そのおかげで彼女は失敗できないと、胃に穴が開きそうな心境ではあるだろうけれど……。

それでもこの程度で済ませているのは、まだ生ぬるい方よね。お母様ならきっと、もっとえげつない追い詰め方をしていると思うもの。



「お互い、結果が楽しみですわね」


「はいっ! あ、でも、せっかくの球技大会なんですから、競技自体も楽しみましょうね!」


「ええ、そうですわね。チームリーダーの働きにも期待しておりますわよ」


「任せてください!」



 ドンッと胸を張るニスヘッド。どうやら彼女には、嫌味やプレッシャーという言葉を脳の記憶容量に書き込んでいないらしい。

そんな彼女を、隣でお腹を押さえるカミーユは呆れたような、でもちょっとうらやましそうな雰囲気を出しながら見つめている。


 なんだかちぐはぐだけど、なかなか面白い二人組だと笑みがこぼれそうになるのをぐっと抑え込み、少し高飛車な雰囲気を顔に張り付けてはいるけれど、そろそろ頬が緩みそうで辛くなってきた。

そろそろ二人には、お帰りいただくとしましょうか。



「それではそろそろ、お二人の期待に応えられるよう練習いたしたいのですけれど」


「おっと、すみません。では、失礼しますね!」


「失礼します……」



 ペコっと二人は頭を下げ、片方はシャキシャキと、もう片方はおずおずと下がってゆく。

その背中を張り付けた高飛車顔を外し、少し笑って見送った。すると、隠しきれていない小声が耳に届く。



「な? エリヌス様はいい人だって言っただろ?」


「ニスぅ……。もう、知らないっ!」



 ふいっとそっぽを向くカミーユは、相当辛かったようね。

彼女には悪いけれど、今回の目利きスキルは、外させてもらうことにするわ。

だって私は、あなたと違ってスキルを隠したいんですもの。

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