悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

05不愛想な女

公開日時: 2022年3月18日(金) 21:05
文字数:2,019



「それじゃ、よろしくね」


『お嬢の期待にお応えしてみせやしょう』


『定期報告は朝昼晩の三回だったな。そんじゃ、また昼に来るぜ』



 スンとすました顔で、その小さな体に凛とした空気を纏わせて歩き去る猫と、バサバサと羽ばたき空へと舞い上がる鳩。他の人が見たら、きっと私が嫌われて逃げて行ったように見えるんでしょうね。

なんて考えながら、お店に戻ろうと立ち上がり振り向いた瞬間、そこには桃色のショートカットの女の子が立っていた。

まさか、今までの話聞かれてたりしないよね……?



「お、おはよう、セイラさん」


「おはようございます、ミー先輩」



 怖い……。無表情なのが怖い!

いやいや、セイラさんは実の父親ですら「愛想のない子だ」と言うほど、親の欲目フィルターすらぶち抜く不愛想無表情っぷりだから、いつも通りではあるんだけど!

でもこう、後ろめたいことがあると圧を感じるのは仕方ないことだよね!? 誰に同意求めてるの私は!?



「あの……、いつからそこに?」


「さっき来たところ。猫と鳩の頭を撫でてましたね」


「あ、そうなんだ! セイラさんは猫は好き?」


「私は犬派」


「そ、そう……」



 無表情でそれはやめて。別に猫派じゃないけど、なんか心にクる!

でも、少なくとも動物嫌いではないってことでいいのかな?

それに、あの子たちに頼んだことを聞かれたりはしてないみたいだし、一安心。



「冗談。猫も好き」


「冗談なの!? 冗談っぽくなかったけど!?」


「そう……」


「あー、なんかごめんね? 怒ってないからね?」


「別に気にしてない」


「そ、それならいいんだけど……」



 ホント! ホントにやめて! めちゃくちゃやりにくいから!

ちょっとは表情にだそ? ね? ね? 本人には言わないけど!



「リボン……」


「え? あ、さっきの子たちのリボン?」


「そう」


「あれは、カノさんにもらったリボンで……」


「知ってる」


「あ、そうだよね」


「飼うの?」


「そういうわけじゃないけど……。えーっと……」



 これは考えてなかった! というかリボン付けるのも思い付きだし!

そりゃそうよね、首輪代わりにリボン付けてたら、飼うのかなって思うよね。

いやでもあれはあの子たちにとっての目印であって、私が飼うのとは違うし、何よりあの子たちとの関係はそういう飼う飼われるでもなく……。

じゃない! なんとか誤魔化さないと!



「その、飼ってるのとは違うんだけど、前から世話してる子だから、誰かに拾われても嫌だなって……」


「そうなの?」


「そうなの! お店のお手伝い初めてしばらくして見つけてね、こっそりごはんをあげてたのよ!

 でもパン屋さんだし、野良猫と遊んでるのってあんまりよくないかなって思って……」


「なんで?」


「えっと……。食品扱ってるし?」


「別に気にしないと思う」


「そ、そうかな?」


「そう」



 な、なんとか誤魔化せたかな? それにしても、こんな言い訳がポンポンと思いつくなんて、私自身びっくりだわ。

まあでも、これで一応時々お世話してる野良猫ってことにできたし、大丈夫……。だといいんだけど。



「もうすぐ開店」


「えっ!? もうそんな時間!?」


「私、先行くから」


「えっ!? 私も行くー!」



 って、それって私を呼びに来たってことだよね!? なのになんで一人で行こうとするかなぁ!?

ホント、カノさんが不愛想だって飽きれるわけよ。まあ、根は悪い子じゃないんだけど……。



「って、待って待って! 私も一緒に!」



 ちょっと考えごとしている間も、待つ気なく歩いて行くんだから……。

うーん、根っからの不愛想なのかしらね。やっぱ根も悪い子じゃない! 愛想が!


 なんて私の考えが、テレパシーに乗って相手に伝わるはずもなく、追いかけてやっと追いついたころには、すでに店の前だった。



「おう、二人ともおかえり。そいじゃ、今日も店開けるぞー」


「はい、よろしくお願いします!」


「…………」


「ははは、ミーちゃんは今日も元気だな! それに比べて……。

 まあいい。今日もいつも通り、ミーちゃんはレジへ立ってくれ。

 セイラは配達な。今日のルートはカゴに地図入れてるから、迷うんじゃねえぞ?」


「…………」



 どんな言葉にも返事はない。けれどそのかわり、こくりと首を縦に振っていた。

せめてうんとかすんとか言いなさいよ! ってウチの親なら言いそうなもんだけどなー。

でもあれかー、カノさんって愛想はいいけど、教育方針は背中で語る的な? そういうのかもだしー?

もしくはもしくは、ただただ娘に甘いだけの可能性も……。



「おーいミーちゃん、早くレジやってくれー」


「あっ、はーい! すぐ行きます!」



 なんてことを考えながら、配達へ向かうセイラさんの後ろ姿を見ていると、もうすでにお客さんが来ていたようだった。


 あー、色々考えることはあるけど、しゃきっとしなきゃ!

まあ、だいたいの考え事はどうでもいいことなんだけどね。


 つまりそれは、現実逃避ってやつ。

だって、エージェントたちが事件に遭遇してしまうとか、その後あの情報屋とやり取りして犯人を追うことになるとか、そんなの考えたくないんだもん……。

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