悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

12白状

公開日時: 2021年8月16日(月) 21:05
文字数:2,124

 私とセイラの関係に違和感を持ったエイダ。

さて、台本にない名探偵の登場に、私はいったいどうすべきか……。

まあ、はぐらかすしかないわね。



「ふふっ……。想像力が豊かね。

 いったい私に、なんの理由があってそんなことをする必要があるの?」


「理由……。そうですね、これが関係しているかと、わたくしは考えておりますが……」


「それは……」



 彼女がゆっくりと歩いて向かうのは、本棚の一角。

そして一冊の本を取り出した。



「少々悪趣味な、お嬢様を主人公とした小説。

 これに関わっているのではないかと考えたのです」


「あなた、それを読んだの?」


「はい。見慣れぬ本でしたので……」


「まったく……。勝手に私物を覗くなど、メイド失格よ」


「申し訳ございません」



 深々と頭を下げるが、問題はメイドとしての資質うんぬんではない。

取り出した本は、セイラに渡された本なのだ。

そんなものを、どうやって誤魔化せというのか……。



「それは、私の書いたものよ。

 恥ずかしくて見られたくなかったから、そうやって隠しておいたのよ」


「木を隠すは森。本を隠すは本棚と……」


「ええ」


「であれば、手書きでないことがおかしいですね。

 この本は、活版印刷されております。いえ、活版印刷ともまた違う……。

 わたくしの見たことのない印刷法によって作られた、本として完成されたものです。

 個人で制作したものにしては、少々立派すぎるかと考えます」


「…………。お小遣いを使って、業者に頼んだのよ」


「挿絵も依頼したということでしょうか。

 まるで似顔絵のような、わたくしも描かれておりますね。

 似顔絵師に、私をこっそり見せて描かせたのでしょうか」


「…………」



 あの本は、私でも見抜けるほどの異質な本。

観察眼が鋭く、些細な変化も見逃さない彼女が、その異常性に気付かないはずがない。

そんなものの言い訳を、一体どうやってしろというのだ……。



「お嬢様、わたくしはお嬢様の味方です。

 わたくしども父娘を、こうして拾ってくださった御恩は、一生かけてお返しするつもりです。

 不都合があるというのなら、絶対に口外などいたしません。

 ですが、お嬢様の未来がこの本のようにならないために、真実を知っておきたいのです」



 真っ直ぐに見つめられ、そう説かれては返す言葉がない。

どれだけ敵に回すと危ない相手だと直感が発信していようとも、今までの彼女の行動は、私を裏切ることなど一度としてなかった。

ならばこれからも対立することはないと信じるべきだと、そう思えたのだ。



「はあ……。まったく、あなたには敵いませんわね。全てお話いたしますわ」




 ◆ ◇ ◆ 




「この世界がゲーム……。ですか……」


「ええ。彼の話によればね」


「まさか、信じたわけではありませんよね?」


「もちろん、全てを信じてはいませんわ。

 けれど、全てが嘘であるとも言い難いと思いません?」


「スキルを言い当てた以外に、何かそう思う根拠があるのでしょうか?」


「勘……。と言いたいところですが、一応他にもありましてよ」


「お聞かせ願えますか?」


「この本の存在ですわ」



 未来が書かれているという本を手に取る。

貴族ですら見たことのない本。それを平民が作れるとは思えない。

けれど、それ以上に説得力のある仮説を、私は母のお説教中に思い至ったのだ。



「彼は言ってましたの。自身のスキルは、物体を思い描いた物へと変化させるものだと。

 けれど、想像上のものに変化させられるほど、万能ではないとも言っていましたわ。

 つまり、これは彼の空想上のものではなく、実際に存在していたものということ。

 それが別の世界のものなのか、もしくは未来を記した書物を作るスキルを持つ、この世界にいる誰かが作ったものか。そのどちらかと思い至りましたの」


「誰かが作った作り話の本を、彼女が生成したという可能性もあるのではないでしょうか」


「でしたらその方は、私のことをよく知り過ぎているのではないかしら?

 本の中には、あなたも、ヴァイスも、そして他に様々な方が出てきましたわ。

 それも、誰も彼もが本物、本人のような行動を取りますのよ?

 そのような方がいらっしゃるとすれば、観察眼が鋭過ぎて、少々恐怖を覚えますわね」


「…………」



 考え込み、思案するエイダ。おそらく反論の言葉を探しているのだろう。

けれど、出てきたのは小さなため息だった。



「まいりましたね。考えを巡らせても、お嬢様を納得させるような……。

 いえ、わたくし自身が納得できる反論が、思い浮かびませんでした」


「私だって同じよ。信じられないし、これが未来を記した本だなんて信じたくありませんわ。

 けれど、前提として受け入れなければ、先に進めませんのよ。

 もちろん、疑いの心は、常に少々持ち合わせていないと危険ですけどね」


「ええ。相手の手の内が全て見えているわけではありませんので、警戒するに越したことはありません。

 万一のことがあれば、わたくしがいたしますので、なんなりとご命令下さい」


だなんて物騒ね。しょせん相手は平民の、無能力者でしてよ?」


「わたくしは、お嬢様を守る盾であり、仇なす物へ向ける刃にございますので」


「そう……。ま、そんなことにならない事を祈るわ」



 いつもながら、エイダは大袈裟だ。

仕事に対して真面目すぎるのが、長所であり、短所でもあるのよね。

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