自称転生者のセイラ、元の名を正良と名乗る男は、私の理解を超えた話をその後も積み上げていく。
途中からめんどくさくなって、話を聞き流していた私に対し、彼は話した内容を紙へとまとめたのだった。
それを読めば、なんとなく言いたいことは見えてきた。
といっても、今まで話していたこと以上は、情報は増えていないようにも思う。
ひとつあるとすれば、転生時に男性から女の人へと変わってしまったということくらいか。
「というわけでござるよ」
「結局、信用に足る情報は新しく出てきてないじゃないですの」
「あ……」
「これでは、想像力豊かな方ということしかわかりませんわ」
「むむむ……」
自身の考えたことを喋るのに精一杯で、私を納得させようという考えはなかったようだ。
たとえ真実だとして、納得させるにはあまりに現実味がなさすぎる。
もしこれがヴァイスによってもたらされた話であるなら、もしくは信用しただろう。
なぜなら、彼は信用によって商売しているからだ。
別の言い方をするのならば、ここで嘘をつけば信用を失い、今後の収入源が絶たれることになるということ。
未来の利益を失ってまで嘘をつくはずがない。その後ろ盾こそが、彼の言葉を信じさせているのだ。
対しこちらはどうか。ここで嘘を言っていても、失うものがないのだ。
私からの信用を失ったとして、人生を左右するほどの損はない。
ヴァイスとは、根本的に違っているのだ。
「証拠がなければ信じられない、それは当然でしょう?
それとも、何か納得させられるだけのものを持っていらっしゃるのかしら?」
「…………。では、こういう話はどうでござるか?」
「まだ妄想を垂れ流すおつもり?」
「たとえば、令嬢とヴァイス殿が出会った時の話など……」
「っ……!?」
「本当の出会いは誰も知らないはずでござろう?」
「本当の、ね……」
この物言いから、私は身構えてしまう。
公爵家と準男爵家。貴族という同じ枠に居ても、繋がるはずのない二つの点。
その出会いを知るのは、情報通程度では片付けられないのだ。
それも、表に出していない方の話であるのならなおさら。
「かまをかけたって無駄でしてよ?
ヴァイスと私の接点が不自然だなんて、誰もが思うことですもの。
それを指摘したからといって、勝ったと思わないでいただきたいですわ」
「では、追加でメイドのエイダとの出会いはどうでござろう?
あの方も、なかなか不思議な出会い方をしておりますな?
いえ、実際に出会われたのは、彼女の父上かも知れませぬが……」
「…………。私を試していらっしゃるのね?
彼女が平民の出自だと知って、交渉材料になると考えたのかしら!?」
「ちょっ……。そんな喧嘩腰にならないで欲しいでござる……。
拙者はただ、信用してもらいたいだけで……」
「白々しい! うまくつけいろうったって、そうはいきませんことよ!」
「落ち着いて。はい、深呼吸でござるー。
貴族も平民も関係なく、能力で採用するラマウィ父娘は、平民には慕われているでござるよー?」
「口ばかりうまいことおっしゃるのね」
「本当のことでござる……」
平民を専属メイドになど、貴族にとってみれば異例中の異例。知られれば、嘲笑の的になる話だ。
本来メイドとして付けるのは、躾役として相応に歳を重ねた、位の高い出自の女性を付けるものなのだ。
同い年の、それも平民を付けるなんて、正気の沙汰とは思えないというのが、貴族たちの共通認識である。
だからこそ、私は彼女を見下す相手なら、誰であろうと叩き潰すつもりだ。
たとえそれが、公爵令嬢という立場の悪用であったとしても。
「それで、二人との話が本当であれば、信用してもらえるでござるか?」
「…………。確かに、あまり知られていない話ですわ。
けれど、あなたがそんな話を知っているわけが……」
「拙者にはゲーム知識と、その後日談である、小説の知識があり申す」
「つまり、誰も知らないはずのことも知っていらっしゃるのね?
であれば、信用に足るはずだと……」
「そういうことにござる」
彼の言うことは筋が通っていると思う。
私以外知らない話を知っているなら、確実に嘘はないといえるのだから。
けれど、だからといってどこかから情報が漏れたため知っているという可能性は否定できない。
私は、こう見えて疑り深いのだ。貴族という、二枚舌の人たちを多く見てきたせいでね。
ならば、一番信用に足ると思える情報とは何か。ぐるりと思考を巡らせ、ふっと浮かぶ。
誰かが知っている情報で足りないのならば、誰も知らない情報を提示させればいいのだ。
「では、あなたはご存知のはずよね? 私のスキルを。
それを当てることができるのでしたら、信用して差し上げますわ」
「へ……? そんなのでいいでござるか?」
「そんなのって……。私のスキルなんて、私ですら知らない情報ですわよ?」
「えー……。ヴァイス殿ならすでに気づいてるはずでござるが……。
それに、ご令嬢の母上も気づいたからこそ……」
「回りくどいですわ! 知っているなら、さっさとおっしゃいなさいな!」
適当な言葉ではぐらかそうとする彼を一喝すれば、少々バツの悪そうな表情を浮かべる。
やっぱり、なんでも知っていると見せかけているだけではないか、そう思ったのだが……。
「令嬢のスキルは必中。狙った的に、必ず当てることができるスキルでござるよ」
私の知らない私のスキルを、確信を持つようにさらりと述べたのだ。
そこには、誤魔化そうと思考を巡らせるような間も、嘘を見抜かれないかと怯える様子もなかった。
もしこれが本当であるのなら、私は彼の言うことを信じるほかないだろう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!