悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

07 本音と建前

公開日時: 2022年1月24日(月) 21:05
文字数:2,285



「おい、建前って……。今までの話はなんだったんだよ!?」



 フリードが学校医をやっている理由、それを長々と語った最後のオチが「それは建前なんだけどね」なんてものだったら、ヴァイスでなくたってこういう反応をするだろう。

けれど本当にそうなのだから、私にはどうすることもできないのよね……。



「今までのは、あなたの情報網なら拾える情報でしょう? その程度のものに、価値を見出せるのかしら?」


「そう言われりゃそうなんだけどよ。まさかこの先は有料ってか?」


「あなたじゃあるまいしそんなことしないわ。ただね、あなたも相手の弱みだけじゃなく、他の情報も仕入れるようにした方がいいんじゃないかとは思うわね」


「そりゃご忠告どうも」



 と言いつつも、ヴァイスが他の細々とした情報を仕入れていないわけではないことは、私も重々承知している。

どんな些細な事柄であっても、それをうまく活用……。いえ、使われる方にとっては悪用されて、窮地に立たせるのがヴァイスという男のやり口だもの。

だからこそ彼相手には気が抜けないし、万一の時は覚悟を決めなければならない……。



「それで、本音はなんなんだ?」


「ああ、フリード様の件ね。結局は、弟たちと学園生活を送りたいって話らしいわ」


「うわぁ……。病的な弟狂いが意味不明な動機で学園に忍び込んでやがる……。

 情報を仕入れなきゃよかったなんて思う日が来ようとは、思いもしなかったぜ」


「気持ちは分からないでもないわ。次男のオイゲン様とは4歳差、三男のテオ君とは6歳差。

 3年で卒業なのだから、どうやっても一緒に過ごすことはできないもの」


「留年するって手もあるぜ?」


「面白い冗談を言うのね」


「面白いのに笑ってないのな」


「笑うほどの面白さではなかったわ。ま、あなたには留年が見えてるかもしれないけれど」


「俺の心配はいらねえよ!?」



 心配はいらないと言うけれど、今だって授業をサボってるのよね……。

彼の気配を消すスキルを悪用すれば、カンニングなんてし放題でしょうし問題ないと思っているのでしょうけども。



「まあ、あなたの成績の話は置いておくとして、フリード様は優秀な方よ。

 飛び級でさっさと学園を卒業して、その上で医師免許も取ったんだもの。

 そして今、こうして学校医として学園へ戻ってきている。誰かさんにも見習ってほしいものね」


「だが、その動機が重度の弟狂いなんだよな」


「家族仲が良いのは喜ばしいことよ」


「そうかいそうかい。まったく、それで被害を被ってるのに褒めちぎるなんざ、まさかお前さんはいつの間にやら聖女にでもなったのか?」


「昔からお父様がよく言ってたのよ。主観と事実は切り離しておいた方がいいとね。

 感情はものの見方を変えてしまう。好意と敵意は特にね」


「まったく、お前の親父さんが言いそうなことだ。さすが仕事が評価されて公爵にまで這いあがっただけのことはあるな」


「誉め言葉として受け取っておくわね」



 ヴァイスにしては、失言に近い言葉選びだ。けれど、彼はたいして気にも留めていないみたいね。

情報屋として、出す情報の端々には気を付けているはず。だからただ失態を犯したとは考えにくい。

もしくは、あえてそのような言い方を選んだ可能性もあるけれど……。考えても仕方ないことね。


 それに今は、わざわざフリードとの様子を見せつけるためにここへと連れてきた、セイラの動きの方が重要事項だもの。

ふたりの様子はと見れば、今までと変わらず世間話を続けているようだった。

学業の方は順調かとか、家の仕事は大変ではないかとか……。って、どうしてフリードがそんなことを事細かに聞いているのかしら。


 元々面識があった? いえ、そうじゃないわね。彼はフリードも攻略対象と言っていたのだし、おそらくは私が知らなかっただけで、今までも関りを持っていたのだろう。

どの程度の仲なのかは知らないが、今は様子見だ。人の交友関係に探りを入れるのがちょっと楽しくなってきたっていうのは、気のせい気のせい。

私は噂好きでも情報屋でもないもの。ええ、そうよ、これは必要なことだもの!



「それにしても、彼女を君が連れてきてあげるなんて、お人よしすぎやしないかい?」



 紅茶を淹れなおしながら、フリードはそう切り出した。

どうやら彼もまた、私とセイラの関係は知っているようだ。



「体育で二人組になったので……」


「だからって、いつも嫌がらせをしてくる相手を連れてくるのは、嫌じゃなかったのかい?」


「いえ、あの……」


「ふふっ……。隣で寝ている人のことを悪く言うのは気が引けるかな」


「そうではなく……」


「それとも、公爵様を敵に回すのが怖いのかな?」


「えっと……」


「なに、言わなくても分かるさ。彼女が居なければ、君の学園生活はもっと良くなるだろうね……。

 けれど君は平民。まさか公爵様相手に、喧嘩をふっかけることなんてできないと思っているのだろう?」


「…………」


「もし……。もし君が望みさえすれば、私が彼女を追い出すお手伝いをしたってかまわないのだよ?」



 ええと、フリード様? 一応私がここに居ること分かってらっしゃいますよね?

なんて言葉をかけてやりたくなる話が聞こえてきたのだけど……。


 ええとそれはつまり、フリードは私を学園から追い出そうとしている?

どうしてかしら……。って、考えるまでもないわね。

フリードは弟の件で私を嫌っている。そしてセイラは表向き私にイジメられているため、私を煙たがっているはず……。


 だからセイラのためという建前をもって私を追い出し、来年入学してくるテオ君と、バラ色の学園生活を謳歌しようということかしらね。また子供っぽい嫌がらせを思いついたものね……。

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