悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

12よりみち女学生

公開日時: 2021年9月22日(水) 20:05
文字数:2,094

 私とミー先輩、そして制服姿のエイダは、商店街を目指して歩く。

エイダは常にメイド服を着ているのだが、学園で制服を借りてきた。

それには、私がメイド付きの者であることを隠す意外にも理由がある。

けれど、ミー先輩はその理由を知らないようだった。



「あの、なぜエイダさんは服を着替えたんですか?」


「あら? あなたはあの商店街の成り立ちをご存知ないのかしら?」


「えっと……、闇市から商店街へと発展したとは聞きましたけど……」


「ええ。その闇市の発祥に、問題がありますの」


「問題?」



 まだ商店街に着くまでは時間がある。

歩いている間の暇つぶしに、少々歴史のお勉強会をするとしよう。



「商店街の名前になっている、英雄リンゼイ。彼女が関わっている話ですわ。

 平民の方が、詳しいと思うのですけどね……」


「それなら聞いたことがありますね。

 戦後すぐ、焼け出された平民たちに、食料などを配って回ったという方ですよね?」


「ええ。その配布場所となったのが、いまのリンゼイ商店街ですの。

 けれど、彼女は平民にとっては英雄ですけれど、貴族にとっては重大な戦争犯罪者ですわ」


「ええ? どうしてですか?」


「彼女の配った物資、それは軍の補給物資でしたの。

 平民を救った英雄は、横流しの罪で罰せられることになりましたのよ」


「そんな……」


「けれど、どんな罪になろうとも、彼女に救われた人々にとってみれば、英雄に違いありませんわ。

 ですから、本来処刑となるところを、流刑に処されたのです」


「それは……、良かったんでしょうか?」


「どうかしらね。手を下せば反乱が起きる可能性があった。

 だから生き延び、帰還する可能性の低い地に飛ばすのが、流刑というものですもの。

 流刑先で苦労したのは確実でしょうね……」



 流刑とは、地位あるものからすれば処刑とさほど変わらぬ刑だ。

生き延びられたとして、今まで築いた地位は剥奪されるし、生活環境もひどく悪化するのだから。

だが、命だけは助けるという一点は、民の反感を抑えるには十分な効果を持つ。


 だからこそ、未来を記したという小説の中に登場した、女王となった私は、両親を流刑に処したのだ。



「…………。どうされました?」


「いえ、少し思い出したことがあって……。大したことではありませんわ」



 いつか私も、両親すら追放する女王になるのだろうか……。

そのような思いは、言葉を詰まらせるのに十分だった。



「ともかく、そういった過去を知る者からすれば、貴族は嫌われて当然ですの。

 だから、英雄リンゼイの名を関した場所で商売する者は、貴族を敵対視しているのです」


「なるほど……。だから、貴族の関係者は絶対に使わないって話があるんですね……。

 でも物資の横流しって、そんなに重罪なんですか?」


「私も父も、軍事関係者ではないですし、ことの重大性はわかりませんわ。

 けれどその物資が、当時敵国であったロート連邦へ一部流れたそうですの」


「つまり、敵に加担したとみなされたんですか?」


「ええ、そういうことね」


「それは、処刑も仕方ないかもしれませんね……。

 けれど、どうして闇市で配ったものが、隣国まで届いたんですか?」


「元々あのあたりは町外れでしたし、軍部の目が行き届かない地域でしたの。

 ですので、ロート連邦からの移民も、スパイも、多く紛れ込んでいたらしいですわ」


「へぇ……。今じゃ、街の中心地に近いって言われてますけどね」


「それだけ、戦争が終わってこの街が発展したということですわ」



 街並みを見れば、石造り建物が所狭しと建ち並び、高さを競うかのように、空へと手を伸ばすように背伸びしている。

発展した街ではあるが、その裏に様々な思惑や、黒い動きがある街並みだ。

けれど幼い頃の私には、全てが輝いて見えていた。



「それにしても、エリヌス様はお詳しいんですね。

 歴史の授業でも、そんなの習わなかったですよ?」


「ええ、授業ではやりませんわ。教えず忘れさせたい話ですもの。

 昔にちょっと調べたから、知っているというだけですわ。それと……」


「それと、なんですか?」


「私のことは、エリーと呼んで下さいまし」


「えっ……。それって……」


「商店街の中では、ただの女子生徒だと思われなければいけないでしょう?」


「あ、そういうことですか……」



 少し残念そうにするミー先輩だが、何がそんなに残念なのだろう?

ともかく、この先は公爵令嬢と気づかれてはいけない場所であることは確かだ。

私も気を引き締めておかなければ危険だろう。



「では、少しの間だけエリーさんと呼ばせていただきますね!」


「ええ。私も、ミーさんと呼びましょうか。

 先輩が後輩に丁寧な言葉遣いだと、違和感がありますもの」


「ふふっ……。なんだか、エリヌ……、エリーさんと同級生になったみたいで、嬉しいです!」


「それは良かった。あ、エイダももちろん、同じように呼ぶのよ?」


「かしこまりました。エリーさん」


「ぷっ……。なんだか、エイダさんがそんな呼び方してるのは、ちょっと不思議な感じがしますね」


「ええ。私も自分で指示しておいて、違和感に驚きましたわ」


「では、できるだけ黙っていることにいたします」


「いつも通りね」


「ですね」



 笑う私たちに、エイダも静かに笑みを見せた。

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