「あ? 俺があの後どうしたかだって?
そりゃ、鉄の死神を追いかけたに決まってるだろ?」
次の日の昼休み、私はヴァイスにお礼を言うため、一年生の教室を覗いていた。
あんな雑な扱いでも、一応は私のためを思って、事件現場を見せないようにしてたみたいだしね。
だけどもちろん、彼を見つけることなんてできなかったんだよね。
結局いつも通り、彼は突然背後に現れたのよ。驚かせるのが好きなのはいいけど、心臓に悪いわ。
ただ、いつも飄々とした感じなのに、今日はちょっと機嫌が悪そうだったな……。
ともかく、昨日のあの後の話を聞くことになったの。
「屋根の上からアイツは狙ったのは、音の出どころと、玉の射角から見て明らかさ。
なんで、野ざらしの商品をつたって屋根に登って、ヤツのいたであろうところへ向かったわけよ」
「意外と身軽ね」
「たりめーだ。情報屋舐めんな」
「それで、相手は見たの?」
「ああ。といっても、白いローブ姿だったんでな、全然特徴がなかったぜ。
ただ、多分男だろうな。胸が無かったしな」
「えぇ……。そこに目がいくなんて、やっぱりあなたも男の子なんだね」
「そうじゃねえよ!? 服の上からでも一番分かりやすいから見てるだけだっての!」
「そういうことにしといてあげるわ。それで、他に特徴はないの?」
「さすがにな、相手も見られる可能性を考えて、対策してたんだろうよ。
顔も、へんちくりんなマスクをつけてたせいでわからなかったしな」
「変なマスク?」
「ああ。なんて言えばいいのか……。
革製っぽいヤツで、目のところはガラスになってる感じ。
で、口のところにクチバシみたいなのが付いてて……。
絵を描いた方が早いか。俺に絵心はないんだがな」
そう言って、メモ帳に軽く描くヴァイス。
けれどそれは、舞踏会に行くようなマスクでも、身元を隠すためのマスクとも違うものだった。
クチバシと表現したものの先には、二つの丸が描かれてて……。
なんなんだろう? 見たことないものだってのは、絵心のない絵からでも伝わってきた。
「こんなの付けてたら、逆に目立ちそうなものだけどね」
「そうだな。あとは、杖も持ってたな。黒い杖なんだが、それも見たことないモンだ。
真っ直ぐな棒に、なにやら装飾とは違う、同じく黒い箱がくっつけてあるような……」
「杖なら、やっぱり魔術師みたいね」
「そうだろうが……。なんか違和感あるんだよなぁ……」
そう言って芝生に寝転がり、空を見上げるヴァイス。
色々な情報に触れている彼が、わからないものを持っている。その上、違和感を持たせる相手。
思ってたよりも、面倒な相手なのかもしれないな。
「でもね、あなたなら捕まえられたはずじゃない?
だって、相手に気づかれず近づけるんだもの」
「あー、それがだな……。
そのつもりだったんだが、途中でヤツと目が合ったんだよ」
「え? ということは、相手はあなたのスキルが効かないってこと?」
「んー……。そこは分からんな。
なにせ俺も急のことだったし、頭に血が上ってたのもある。
なんで、いつもみたいに完璧な隠匿ができてたのか……」
「意外ね。あなたがそんなふうに、自信なさげに言うなんて」
「仕方ないだろ? 俺も予想外のことばっかだったんだからよ。
しかもその後、相手は魔道具で俺の目を眩ませて逃げちまったんだよな」
「魔道具?」
「これさ」
ポケットから取り出し、放り投げられたものをキャッチする。
手に収まったのは、金属製の小さな筒。
開けられるようにはなってなくて、筒の上の丸い部分には、真ん中に小さな穴の開いた突起がついている。
「なにこれ?」
「詳しくはわからん。
だが、そのでっぱりから白いガスが出て、そいつのせいで目と鼻がやられてな……。
追いかけることもできず、逃げられたのさ」
「煙幕みたいなものなのね」
「そんなチャチなもんじゃねえよ。軽く死にかけたんだからな」
「それは御愁傷様……。にしても、手強い相手みたいね」
その言葉に彼は、ため息で返事をした。
機嫌が悪いというよりは、少し自信を失っているようにも見える。
「まあ、俺も甘くみすぎていたかもな。
まさか鉄の死神の方が、一手先を行ってるとは思わなかったぜ」
「一手先?」
「昨日事件を起こしたってことは、すでに相手は、標的の見極めを終わらせてたってことだ。
おそらく、商店街への嫌がらせの段階で、処分するつもりだったってことだな。
もしくは、放火なんて目立つことしやがったから、計画を早めたか……」
「計画を早めた? どうして?」
「そりゃ、目立たれちゃコトを起こしにくくなると考えたんだろうよ。
なにせ、エリーちゃんも嗅ぎ回ってたくらいだしな」
「エリヌス様……」
「意外とケロッとしてたぞ。話によれば、他にも色々首突っ込んでるみたいだしな。
しかも、狙われるに足る奴らばっかりをな」
「それって、危険なんじゃ……」
「ああ。けど止めたところで、アイツが素直に聞くわけねえ。
ま、あのメイドが付いてるから、心配することもねえだろうがな」
そっか、あの雨を降らせた人が付いてるから、もし鉄の死神に狙われるようなことがあっても、妨害魔法くらいは展開してるはずよね。
それに、エリヌス様は平民に恨みを買うようなことはしてないし、まず狙われるはずもない……。
何もできない私が心配したって、意味ないもんね。
でも……。
「ヴァイスさん、絶対に鉄の死神を捕まえましょうね!」
「あ? なにいきなりやる気出してんだよ」
「だって、エリヌス様も貴族なら、狙われるかもしれないもの!
私、絶対そんなことさせないんだから!」
「あーっと……。目の前の俺も一応貴族なんですけど?」
「そうだった。それじゃ、ついでにあなたのためにもね」
「あー、そっすか……。ま、いつまでも不貞腐れてらんねえな!
そんじゃ、今後もよろしく頼むぜ、ミーセンパイっ!」
「任せてっ!」
私たちの調査はこれからも続く。
鉄の死神を、この手で捕まえるその時まで。
これにて第二章終わり!
次回は秘密ノートを挟み、第三章へと続きます!
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