悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

17追いかけた先に

公開日時: 2021年8月1日(日) 21:05
文字数:2,375



「あ? 俺があの後どうしたかだって?

 そりゃ、鉄の死神を追いかけたに決まってるだろ?」



 次の日の昼休み、私はヴァイスにお礼を言うため、一年生の教室を覗いていた。

あんな雑な扱いでも、一応は私のためを思って、事件現場を見せないようにしてたみたいだしね。

だけどもちろん、彼を見つけることなんてできなかったんだよね。


 結局いつも通り、彼は突然背後に現れたのよ。驚かせるのが好きなのはいいけど、心臓に悪いわ。

ただ、いつも飄々とした感じなのに、今日はちょっと機嫌が悪そうだったな……。

ともかく、昨日のあの後の話を聞くことになったの。



「屋根の上からアイツは狙ったのは、音の出どころと、玉の射角から見て明らかさ。

 なんで、野ざらしの商品をつたって屋根に登って、ヤツのいたであろうところへ向かったわけよ」


「意外と身軽ね」


「たりめーだ。情報屋舐めんな」


「それで、相手は見たの?」


「ああ。といっても、白いローブ姿だったんでな、全然特徴がなかったぜ。

 ただ、多分男だろうな。胸が無かったしな」


「えぇ……。そこに目がいくなんて、やっぱりあなたも男の子なんだね」


「そうじゃねえよ!? 服の上からでも一番分かりやすいから見てるだけだっての!」


「そういうことにしといてあげるわ。それで、他に特徴はないの?」


「さすがにな、相手も見られる可能性を考えて、対策してたんだろうよ。

 顔も、へんちくりんなマスクをつけてたせいでわからなかったしな」


「変なマスク?」


「ああ。なんて言えばいいのか……。

 革製っぽいヤツで、目のところはガラスになってる感じ。

 で、口のところにクチバシみたいなのが付いてて……。

 絵を描いた方が早いか。俺に絵心はないんだがな」



 そう言って、メモ帳に軽く描くヴァイス。

けれどそれは、舞踏会に行くようなマスクでも、身元を隠すためのマスクとも違うものだった。

クチバシと表現したものの先には、二つの丸が描かれてて……。

なんなんだろう? 見たことないものだってのは、絵心のない絵からでも伝わってきた。



「こんなの付けてたら、逆に目立ちそうなものだけどね」


「そうだな。あとは、杖も持ってたな。黒い杖なんだが、それも見たことないモンだ。

 真っ直ぐな棒に、なにやら装飾とは違う、同じく黒い箱がくっつけてあるような……」


「杖なら、やっぱり魔術師みたいね」


「そうだろうが……。なんか違和感あるんだよなぁ……」



 そう言って芝生に寝転がり、空を見上げるヴァイス。

色々な情報に触れている彼が、わからないものを持っている。その上、違和感を持たせる相手。

思ってたよりも、面倒な相手なのかもしれないな。



「でもね、あなたなら捕まえられたはずじゃない?

 だって、相手に気づかれず近づけるんだもの」


「あー、それがだな……。

 そのつもりだったんだが、途中でヤツと目が合ったんだよ」


「え? ということは、相手はあなたのスキルが効かないってこと?」


「んー……。そこは分からんな。

 なにせ俺も急のことだったし、頭に血が上ってたのもある。

 なんで、いつもみたいに完璧な隠匿ができてたのか……」


「意外ね。あなたがそんなふうに、自信なさげに言うなんて」


「仕方ないだろ? 俺も予想外のことばっかだったんだからよ。

 しかもその後、相手は魔道具で俺の目を眩ませて逃げちまったんだよな」


「魔道具?」


「これさ」



 ポケットから取り出し、放り投げられたものをキャッチする。

手に収まったのは、金属製の小さな筒。

開けられるようにはなってなくて、筒の上の丸い部分には、真ん中に小さな穴の開いた突起がついている。 



「なにこれ?」


「詳しくはわからん。

 だが、そのでっぱりから白いガスが出て、そいつのせいで目と鼻がやられてな……。

 追いかけることもできず、逃げられたのさ」


「煙幕みたいなものなのね」


「そんなチャチなもんじゃねえよ。軽く死にかけたんだからな」


「それは御愁傷様……。にしても、手強い相手みたいね」



 その言葉に彼は、ため息で返事をした。

機嫌が悪いというよりは、少し自信を失っているようにも見える。



「まあ、俺も甘くみすぎていたかもな。

 まさか鉄の死神の方が、一手先を行ってるとは思わなかったぜ」


「一手先?」


「昨日事件を起こしたってことは、すでに相手は、標的の見極めを終わらせてたってことだ。

 おそらく、商店街への嫌がらせの段階で、処分するつもりだったってことだな。

 もしくは、放火なんて目立つことしやがったから、計画を早めたか……」


「計画を早めた? どうして?」


「そりゃ、目立たれちゃコトを起こしにくくなると考えたんだろうよ。

 なにせ、エリーちゃんも嗅ぎ回ってたくらいだしな」


「エリヌス様……」


「意外とケロッとしてたぞ。話によれば、他にも色々首突っ込んでるみたいだしな。

 しかも、狙われるに足る奴らばっかりをな」


「それって、危険なんじゃ……」


「ああ。けど止めたところで、アイツが素直に聞くわけねえ。

 ま、あのメイドが付いてるから、心配することもねえだろうがな」



 そっか、あの雨を降らせた人が付いてるから、もし鉄の死神に狙われるようなことがあっても、妨害魔法くらいは展開してるはずよね。

それに、エリヌス様は平民に恨みを買うようなことはしてないし、まず狙われるはずもない……。

何もできない私が心配したって、意味ないもんね。

でも……。



「ヴァイスさん、絶対に鉄の死神を捕まえましょうね!」


「あ? なにいきなりやる気出してんだよ」


「だって、エリヌス様も貴族なら、狙われるかもしれないもの!

 私、絶対そんなことさせないんだから!」


「あーっと……。目の前の俺も一応貴族なんですけど?」


「そうだった。それじゃ、ついでにあなたのためにもね」


「あー、そっすか……。ま、いつまでも不貞腐れてらんねえな!

 そんじゃ、今後もよろしく頼むぜ、ミーセンパイっ!」


「任せてっ!」



 私たちの調査はこれからも続く。

鉄の死神を、この手で捕まえるその時まで。

これにて第二章終わり!

次回は秘密ノートを挟み、第三章へと続きます!


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