悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

05金貨一枚の情報

公開日時: 2022年8月2日(火) 21:05
文字数:2,199

 エイダによって用意された、木漏れ日の落ちる芝生の上に敷かれた敷物のの上と腰を下ろせば、柔らかな風が首筋を撫でた。

波乱の体育の授業も終わり、お昼休みの中庭での休憩が、いつもよりも心地よく感じる。


 冷えた紅茶をカップに注ぐエイダを尻目に、あの残念な守備練習を思い出す。

棒立ちのセイラの様子に頭を痛めたニスヘッドたちだったけれど、結論を言えば私も人のことを言えるほど上手くはなかったのだ。

だって私は、スキルのおかげで投げるのは届きさえすれば完璧だけれど、ボールを拾うことに関しては、ズブの素人なんだもの。


 あの後、授業の終わりぎわにニスヘッドたちの会話が聞こえてきたけれど、本人たちもポジション決めが失敗だったんじゃないかって、反省会じみたことをしていたわね。

まあ、これで無駄に目立つピッチャーなんて守備位置から変えてもらえるなら、それはそれで問題ないのだけれど……。



「よっ、エリーちゃん。待たせたな」


「お、お疲れ様です……」



 そうこうしていると、ヴァイスがミー先輩を連れて現れた。

ドカっと遠慮なく座るヴァイスとは違って、ミー先輩はしおらしく、遠慮ぎみに席へ着く。

まったく、このくらいの配慮をヴァイスにも覚えて欲しいものね。



「お疲れ様です、ミー先輩。またお昼をご一緒できて嬉しいですわ」


「おいおいエリーちゃん、俺は無視か?」


「あなたはどうせ、呼ばなくても私の周りを嗅ぎ回っているでしょう?」


「違いねえな」



 ケラケラと笑うヴァイス。それをミー先輩は、訝しげに眺めている。

そんなに心配しなくたって、ヴァイスに尻尾を掴まれるほどボーッと生きてるつもりもないし、掴ませる尻尾も持ち合わせてない。

だから軽く貴族ジョークは受け流して欲しいけれど……。まあミー先輩は平民だし、戸惑うのも仕方ないか。



「あの、ご一緒できるのは嬉しいのですけれど……。

 今日は、オズナ王子はご一緒ではないのでしょうか?」


「そのことでしたら、先輩が気にすることありませんわ。

 オズナ王子は今、球技大会のチームメイトとお昼を召し上がっているところですもの」


「そそ。野郎どもは、球技大会に向けてチームの結束とやらを強めてるんだとよ。

 だから俺がお前さんを呼んできてやったってワケよ」


「そうだったんですか」



 恩着せがましそうな言いぶりに、ちょっとイライラさせられるけど、お使いを頼んだのは事実だし放っておこう。

けれど少しばかりの嫌味は言いたくなるものだ。



「ところでヴァイス、あなたはその結束を深めるとやらに参加しなくてよかったのかしら?」


「は? 王子と俺は別のチームだぞ? それに、俺がそんなバカバカしいことに参加するとでも思ってんのか?」


「思えないわね」


「思えないですね」



 ふいにミー先輩と声が重なって、顔を見合わせる。

なんだかおかしくなって、ぷっと噴き出す私と、恥ずかしかったのかうつむくミー先輩。



「お前ら、仲良いのな」


「それはそれとして、男性陣は球技大会に向けて熱心なものね。

 私のチームなんて、全員素人なのはともかく、無気力でチームリーダーが頭を抱えてますのよ」


「ま、むさ苦しいのは野郎どもの特権さ。

 それに、王位継承権第一位と同じチームとなりゃ、必死にもなるだろうよ」


「どうしてここで、王位継承権の話が出るのかしら?」


「お? エリーちゃんは六位のクセに知らないのか?」


「なんだか、癪に触る言い方ですわね」


「へへっ……。どうしようかねぇ? 教えてやってもいいが、俺は情報屋なものでなぁ?」


「はぁ……。まったく……」



 私のため息の意味を察知したエイダは、すかさず小袋を取り出す。

その中から数枚の金貨を取り出せば、すでにヴァイスはにやけづらだ。



「けっ……、一枚だけかよ」


「本当に王位継承問題に関わる話なら、私にも少しばかり話が来ているはずですわ。

 それがないということは、どうせ大した話でもないでしょう?」


「よーくお分かりで」



 私たちにとってはいつものやり取り。けれど、それを目の当たりにしたミー先輩は、驚いた様子で口を挟めずにいた。

そりゃまあ、平民にとっては金貨一枚であっても大金だし、情報ひとつにそんな金額が動くとは思ってもみないでしょうから、当然の反応ともいえるんでしょうけどね。



「さ、御託はいいから早く話しなさいな」


「ま、簡単なことさ。こういう行事ってのはな、力を示すにはうってつけなんだよ」


「へぇ……。私は、ただのお遊びだと思っていたのだけど?」


「まあな。でも考えてみな? そのお遊びですら、統率力を見せられない次期国王候補なんて、期待できると思うか?」


「さあ? 私はどうでもいいわ」


「そりゃお前は、投票する方じゃなくされる方だからな。だが、他の貴族にゃ死活問題さ。

 国王は貴族による投票で決めんだから、さすがにコイツにゃついて行けねえと思い知らされたんなら、継承権の順位を無視して別の奴に票を入れても文句は言われねえだろうよ」


「ということはなに? お遊びであっても、全力を見せろと期待されてるってわけね?」


「少なくとも今回の球技大会は、王位継承権持ち同士がやりあう試合もあるからな。

 誰も言葉にはしねえが、動向に注目してるワケよ」



 私に関係ないところで、意外にも王位継承権争いは激化してたのね。

それにしても直接対決か。男女別だから私には関係ないけれど、オズナ王子はアイツと戦う様子を注目されてるのね……。

今回ばかりは王子に同情するわ。私なら面倒くさくて、絶対相手にしたくないもの。

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