ヴァイスを一緒に探して回った、飴屋の娘エイダ。
けれど彼女には、目の前に居る目的の人物を認識することはできなかった。
「誰とと言われましても……」
「お前こそ誰だよ」
「飴屋の子ですわ。一緒に探すのを手伝っていただきましたの」
「え? あ、名前ですか? エイダです。
あの、それで、探しにいかなくていいんですか?」
エイダの様子は、オロオロとし始めて落ち着かない。
それもそうだ、私が突然独り言を話し始めたなら、何事かと怖がって当然だろう。
でも、私も私で、どう説明していいのか分からず困っていた。
「あー。多分コイツ、近すぎて影響出てるな」
「近すぎる? どういうことですの?」
「俺って、本当に見えていないわけじゃなさそうなんだ。
実際は見えているけど、居るのが分からない感じ?
だから俺が無理やり相手に近づくと、こんなふうに怖がるんだよ」
「そうですの……」
その話を理解できたわけじゃない。けれど、納得はできた。
人ごみの中、彼の周りだけ皆が避けたのも、彼の開ける扉を誰もが不思議がらないのも、そのせいなのだ。
存在するけれど、認識できないもの。彼の能力とは、そういうものだったのだ。
ならば、もしかすると彼を強制的に認識させる方法があるかもしれない。そう考えたのだ。
「それならいっそ……、こうですわ!」
「きゃあっ!?」
私と手を繋いで逃げられないエイダの手を、ヴァイスへと押し当てる。
突然のことに驚く二人。けれど、それは二人にとって思わぬ結果となる。
「えっ!? 何この子、いつからここに!?」
「は!? 嘘だろ!? お前、俺のこと見えてんのか?」
「あら、勘でやってみましたけど、うまくいきましたわね!」
「勘って……」
ヴァイスからはため息、エイダは未だ混乱の最中といった様子。
そこに得意げな私と、三者三様の反応だった。
「でもこれで、エイダさんにもあなたのことが見えるんですから、いいじゃないですの」
「…………。まー、確かに。
これで、一応俺のことを相手に見えるようにする方法もわかったもんな。けどさ……」
ふいっと手の代わりに顎でエイダを見ろと言うヴァイス。
横を向けば、青い顔して震える少女の横顔があった。
「どうされましたの!?」
「いえ、あの……。気分が……」
「体調がすぐれないのね!? どこか休める場所へ移動しましょう」
「はい……」
突然のことに、慌てながらも近くのベンチを探す。
だが、祭りの人の多い時に、空いている場所なんてあるはずがなかった。
「どこもかしこも、人がいっぱいですわ」
先に座る人を羨ましく眺めながらも、次を探そうとする私に、ヴァイスは無言で見てろといった様子で、得意げにベンチへと近づく。
すると、なにか用事を思い出したかのように、すっと座っていた人たちは立ち上がり、逃げるように人混みへと消えた。これもまた、彼の異常性だ。
「な、便利だろ?」
「あまり良い気分ではありませんが、今はそれどころじゃありませんわ。
さ、こちらで横になってくださいまし」
「うぅ……」
ベンチへとエイダを寝かせようとするも、ふるふると首を振り、座るだけにとどめる。
どうやら、やはり落ち着かないようだ。
「あの、なんというか……。体調が悪いというわけではなくて……。
その、見てはいけないものを見てしまったような感覚で……」
「つまり、俺を見てしまったからそうなったんだな?」
「今もここにいちゃいけないって感じがして、今すぐに帰りたく……」
「ん? あれ? また俺が見えなくなってないか?」
会話の違和感にヴァイスは気付く。
思った以上に彼の能力は面倒だと、この時思い知ったのだ。
「はあ……。もう一度ですわね」
「へ? なんのことですか?」
「はい、タッチですわよ!」
「ひゃっ!? まだいたんですか!?」
ぺしっとヴァイスへと無理やり手を伸ばさせると、再びエイダは叫んだ。
まったく、つくづく便利な能力ながら、不便な能力だ。
「へへへ、俺が見えるってことは、お前はもうすぐ死ぬ!」
「ひえっ!」
「こら、脅かさないの!
エイダさん、彼が私の探していた、お友達のヴァイスですの。
少々特殊な方でして、他の人には見えていないそうですわ。
多分、彼のスキルだとは思うのですけど……」
「えっ……。あ、そういうことですか……。
あの、私はエイダです。よろしくお願いします」
顔を青ざめさせながらも、エイダは深々とお辞儀をした。
まるで、できる限り彼を視線に入れたくないがゆえに、地面を見ていようとするように。
そして、ゆっくりと頭を上げた時……。
「あれ? ヴァイスさんはどこへ?」
「…………。目の前に居ますわ」
「もしかしてこれって、一回目をそらすとまた見えなくなるやつか?」
「どうやら、そうみたいですわね」
二人で小さくため息を漏らしながら、再び私はエイダの手をヴァイスへと押し当てるのだった。
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