悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

ミー先輩の潜入捜査

01上の空昼休み

公開日時: 2022年3月4日(金) 21:05
文字数:2,222



「あらミー先輩、ごきげんよう」



 お昼休み、私の名前を呼ぶ声に振り返る。

そこには長い金色の髪をかきあげながら、透き通る青い瞳で私を見つめる、エリヌス様の姿があった。

いつもなら人懐っこい子犬のような笑顔なのに、今日に限って少し困り顔に見える……。なんていうのは、私の思い違いだろう。



「こ、こんにちは……」



 どうしてこんな時に限って会ってしまうのか……。

いつもなら、いつエリヌス様に出会ってしまってもいいように、身なりも整えているというのに……。

きっと、さっきまでの上の空のボーっとした顔も見られてしまってるわ!



「エリヌス、知り合いかい?」


「ええ。こちら、二年生のミー先輩ですわ。ご縁がありまして、時々お昼をご一緒しておりますの」


「そうかい。いつもエリヌスがお世話になっているね」



 エリヌス様の声が続き、今さら隣に立つ人物を見つめた。

エリヌス様の隣に立つ、柔らかな声の男性、それはこの国の第一王子である、オズナ王子だった。

あー……。そっか、そうだよね。確か許嫁だとかいう話が……。



「いえそんな、とんでもない! では、失礼します!」



 うっかり出そうになったため息をぐっと飲み干して、一礼して教室へと逃げ帰る。

人ごみをすり抜け、教室の引き戸を勢いよく開け、席についてうなだれるように突っ伏した。



「ホント、なんでこんな時に会ってしまうのよ……。しかも王子まで一緒だなんて……」


「ミーやん、どったの? 散歩行ってたんじゃなかったっけ?」


「はっ!? いつからそこに!? というか聞かれてた!?」



 突然の声にガバッと顔を上げれば、声の主は同じ特待生のクラスメイト、バンヒだった。



「いやここ、アタシん席だし? それに何も聞いてないよ?

 えーっと、運命の王子様に出会っちゃったってくらいしか」


「聞いてるじゃない! しかも微妙にかすってすらいない程度の、意味が違う感じに!」


「ははは〜、最近ミーやん上の空だし? ついに運命のヒトと出会っちゃったのかなーって」


「うっ……。いえ、違う。絶対違う!」


「何が違うのさ?」


「多分……、違う……」


「さては、アタシと会話を成立させる気ないな〜?」


「だって! だって!!」


「うん、だってなに?」


「私にはエリヌス様が……」


「全然話が見えてこないぞー?」



 バンヒは苦笑いだ。まったく、こんなに悩んでるっていうのに……。

はぁ、とため息ついたら、なんだか力が抜けてまた机にべったりと頭を置いてしまう。

そうしていれば、ポンポンと頭に温かい手が置かれた。

ちらっと見れば、苦笑いしながらバンヒが頭を撫でている。



「まー、よくわかんないけどさ! 話す気になったらおねーさんにも教えておくれよ。

 愚痴でもなんでも、聞くだけ聞いてあげるからさ!」


「んー……。でもここでは……」


「あ、意外にも話す気はあるんだ? それじゃ、場所変えよっか」



 腕を引かれ、教室を出てゆく。いつの間にか、バンヒってば私のお弁当まで持ってるし……。

なんというか、ちゃっかりしているのよねこの子。

連れてこられたのは、人気の少ない大聖堂裏。お昼休みに大聖堂を使う人はいないし、校舎からも遠い。

だから一人になりたい時には、ちょうどいい場所なんだけど……。



「それじゃ、洗いざらい吐いてもらおうか!?」


「取り調べ!?」


「うそうそ、冗談だってば。それで、なにがあったのさ?」


「その……。私、気になる人がいて……」


「ほうほう」


「その人は貴族の方で……」


「はいはい」


「でも平民の私にも親切にしてくれて……」


「あー、ちょっといい? まさかエリヌス様だとは言わないよね?」


「なんで知ってるの!?」


「いや知ってるというか、前からずっとエリヌス様エリヌス様って呪文のように念じてたじゃん」


「えっ……」


「あ、自覚なかったんだ? ミーさんや、念じてる時のキミ、完全に恋する乙女の顔でしたよ?」


「嘘っ!?」


「嘘だったらよかったのにネー」



 バンヒが悪い笑みを浮かべてる!

え? もしかして嵌められた!? さっきの話全部うそで、カマかけてきたんじゃない!?

いやでも、私がエリヌス様を慕っているのは事実だし……。

でも……。



「でもさ、それって一学期中からそうだったじゃん?

 最近の上の空はなにさ? もしかして、許嫁の王子様が転入してきて、ヤキモチ妬いてるのか〜?」


「それは……。うん、それもあるんだけど……」


「あるんかーい!」


「でもそれだけじゃなくて……」


「それだけじゃない? なになに? 他になにがあるのさ?」


「その……、バンヒは『鉄の死神』って知ってる?」


「あー、あの商人や貴族を狙う暗殺者?」


「うん、それ」


「噂は聞いたことあるけど、詳しくは知らないなー。

 聞いた話では、誰も捕まえられないどころか、姿を見たことすらないって話だし?

 あ、もしかしてアレ? エリヌス様がソイツに狙われるんじゃないかって心配で、夜も眠れないー! とか?」


「えーっと、心配は心配なんだけど……」


「だよねー。どういう理由でターゲット選んでるかもわかんないみたいだしねー」


「それでね、私、その鉄の死神について調べてて……」


「えー? 意外ー! ミーってば、そんなことするタイプじゃなかったでしょ!?」


「うん、そうなんだけど、なりゆきで」


「それで、犯人の目星はついたの?」


「えっと……。犯人を見たの……」


「えっ!?」



 驚くバンヒの大声が響き、小鳥たちが空へと逃げ出した。

もう! 私もびっくりして、心臓飛び出しそうになったじゃない!

まあ、本人も自分で思った以上の声が出て驚いたみたいね。口を押さえて、目を丸くしているもの。

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