悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

ヴァイスの秘密ノート(1)

公開日時: 2021年7月12日(月) 21:05
文字数:2,564

 翌朝、こりもせずヴァイスは私に組み伏せられながら、文句よりも先に言葉を発した。



「お前の言う通りになったぞ」


「何がかしら?」


「フレックスが死んだ」


「あら……」



 やはりヴァイス、情報を掴むのが早いわね。

もしくは前のように、ことが起こってから二時間経たずして、すでに知っていたのかもしれないけれど。


 こういう時は、少し困った表情で薄い反応をするのが最善手。

変に食いつくなど、何か知っていると教えるようなものだ。



「死神は、救世主なのかもな」


「違うわ。ただの人殺しよ」


「そうか……」



 ヴァイスは立ち上がり、隣を歩く。

なんだか、私の言葉が意外だと言いたげな雰囲気だ。

少し、こちらの様子をうかがっているというか……。

いつもなら、いくらで情報を買うんだと言い寄って来るはずなのに。


 そんな彼は独り言のように呟いた。



「皆、誰かの犠牲の上に立ってる。今回の犠牲者が、たまたまアイツだっただけさ」


「なに? もしかして、慰めてるつもり?」


「そりゃ、知ってるヤツ、それも最近会ったヤツなら、気にしてるかなってな」


「お気遣いありがとう。けれど、彼はやりすぎたのよ」


「かもな」



 なんだかいつもと違い、歯切れが悪い。

売るような情報がないのかもしれないが、一歩引いているという感覚だ。

それに、私と目を合わせないようにしている気がする。


 これは、触れないで欲しいときの様子だ。

彼は嘘をつけない。だから、喋らないのが精いっぱいの抵抗なのだ。

なら、どうしてわざわざフレックスのことを伝えに来たのだろう……。

何か引っかかるけれど、聞かないでおくのもやさしさかもしれない。



 そうして昇降口の近くまでやってくれば、花壇の花に水をやる、ミーさんが見えた。

彼女はこちらに気付くと、晴れ渡る空と同じような笑顔でかけてくる。



「おはようございます!」


「おはようございます。ミーさん」


「あの……。私、学園を辞めなくてよくなったんです!」


「そう、よかったわね」


「それで、関係者さんが来て教えてくれたんですけど、エリヌスさんが色々とお願いしてくれたおかげで、上の人が変わったとかで……。

 詳しい事情はよくわからないんですけど、ありがとうございます!」


「いえ、私はなにもしてないわ」


「そんなことありません! 全部エリヌスさんのおかげです!

 それで、お礼といってはなんですが、これを……」



 彼女は、小さな紫色の花を差し出す。

それは花壇にはない花で、可愛らしいリボンで束ねられていることから、わざわざ用意したものなのだと分かる。

もしかして、私が来るのを待っていたのかしら?



「あら、ありがとう」


「本当に、ありがとうございました。

 もしなにか困ったことがあったら、相談してくださいね!

 今度は、私が力になりますから!」


「ええ。頼らせていただくわ。先輩」


「えへへ……。あ、私、そろそろ行きますね!」



 ぺこりと一礼し、彼女はジョウロ片手にかけてゆく。

本当はこんなにも、明るい先輩だったんだと、少し驚いた。



「俺も手伝ったんだけどなー」


「あなた、影が薄いのだから仕方ないじゃない。

 それにしても彼女、本当に花屋にでもなるつもりかしら……」


「サクラソウか……。お前も、花咲かしちまったかもな」


「え? 私が?」


「あぁ。百合の花をな」


「? どういうこと?」


「教えねえ」



 気持ち悪い笑みと共に、ヴァイスは歩いてゆく。

そんな態度の幼馴染には、飛び蹴りを喰らわせてやろうと、私は駆け出した。



 ◆ ◇ ◆ 



(特殊アイテム【ヴァイスの秘密ノート】を入手しました)


(暗号の一部解読に成功しました)


(以下、解読した文章を表示します)



 ◆ ◇ ◆ 



【ヴァイスの秘密ノート1】


 これが読めてるってことは、どうやら暗号を解読したようだな。

さぞかし楽しい謎解きだっただろうが、まさか解読されるとは、想定外もいいとこだな。

なんてな、もし解読したヤツが居た時用に、こんな感じで書き始めておくぜ。


 で、これがなにかってのが一番気になってるだろ?

なんたって、世界の全てを知る(俺調べ)ヴァイス様が、ざわざわ暗号化までするノートだ。

王族の弱味か? それとも金銀財宝の隠し場所か?

そんな期待してるんじゃねえの? ま、あながち間違いではないけどな。

だが、お前さんにとっては、ただの文字の羅列かもしれないな。

なにせ、この先にあるものがどれほどの価値を持つかは、使い方次第だからよ。


 前置きはこれくらいにしておこうか。

さて、これがなにかってのを先に説明しようか。

これは、俺が集めた色んなヤツの情報をまとめたノートだ。

自己紹介に書けるものから、書けないものまで色々だ。楽しんでくれ。


 それじゃ、まずは俺からいこうか。

ん? わざわざ暗号化したノートに自己紹介書くなんて、自己顕示欲が強いって?

ま、例題みたいなもんさ。次のページからもこんな風に書いてある、その見本とでも思ってくれ。

ま、楽しんでくれよな。




【名前】ヴァイス・モサド


【身分】準男爵・長男


【性別】男


【魔法適正】F(A~F評価)無しってことだ


【スキル】隠伏


【誕生日】5月18日(16歳)


【髪色・髪型】黒・短髪


【体型】身長174・体重58


【特徴】つり目・視線を悟らせない糸目


【雑記】

情報屋として名の通ったヤツさ。俺のことだけどな。

スキルの隠伏は、誰からも存在を認識されなくなるぜ。

唯一エリヌスには効かないが、他のヤツに見つかったことはない。

目の前に居て、凝視されていたとしても、一瞬で意識できなくなる程度の強ささ。


スキルが強すぎるせいもあって、魔法適正はない。

おかげで、こう見えて日々苦労してんだぜ?

どっちつかずよりはマシかもしれねえけどな。


あ、知ってる前提で書いたが、スキルが強いほど魔法適正は低くなる。

F評価は、スキル特化型。世間じゃ魔法が使えないってのもあって、無能力者なんて呼ばれているな。

そんなヤツがスキルを自覚できずにいたら惨めだろうが、大抵スキルが暴走して気付くはずだ。


俺もガキの頃もスキルが暴走して、親にすら認識されてなかったぜ。

目の前に居るのに「跡継ぎがいない」なんて話をされた時にゃ、ちいとばかり傷ついたもんさ。

ま、今じゃスキルを自在に操れるようになったし、ありがたく利用させてもらってるけどな。






 こんな感じで書いていくぜ。

この先も読むつもりだろうが、暗号の難易度を上げておくから楽しんでくれ。

それじゃ、最初の1ページはこのへんで。

次のページで会おうぜ!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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