翌朝、こりもせずヴァイスは私に組み伏せられながら、文句よりも先に言葉を発した。
「お前の言う通りになったぞ」
「何がかしら?」
「フレックスが死んだ」
「あら……」
やはりヴァイス、情報を掴むのが早いわね。
もしくは前のように、ことが起こってから二時間経たずして、すでに知っていたのかもしれないけれど。
こういう時は、少し困った表情で薄い反応をするのが最善手。
変に食いつくなど、何か知っていると教えるようなものだ。
「死神は、救世主なのかもな」
「違うわ。ただの人殺しよ」
「そうか……」
ヴァイスは立ち上がり、隣を歩く。
なんだか、私の言葉が意外だと言いたげな雰囲気だ。
少し、こちらの様子をうかがっているというか……。
いつもなら、いくらで情報を買うんだと言い寄って来るはずなのに。
そんな彼は独り言のように呟いた。
「皆、誰かの犠牲の上に立ってる。今回の犠牲者が、たまたまアイツだっただけさ」
「なに? もしかして、慰めてるつもり?」
「そりゃ、知ってるヤツ、それも最近会ったヤツなら、気にしてるかなってな」
「お気遣いありがとう。けれど、彼はやりすぎたのよ」
「かもな」
なんだかいつもと違い、歯切れが悪い。
売るような情報がないのかもしれないが、一歩引いているという感覚だ。
それに、私と目を合わせないようにしている気がする。
これは、触れないで欲しいときの様子だ。
彼は嘘をつけない。だから、喋らないのが精いっぱいの抵抗なのだ。
なら、どうしてわざわざフレックスのことを伝えに来たのだろう……。
何か引っかかるけれど、聞かないでおくのもやさしさかもしれない。
そうして昇降口の近くまでやってくれば、花壇の花に水をやる、ミーさんが見えた。
彼女はこちらに気付くと、晴れ渡る空と同じような笑顔でかけてくる。
「おはようございます!」
「おはようございます。ミーさん」
「あの……。私、学園を辞めなくてよくなったんです!」
「そう、よかったわね」
「それで、関係者さんが来て教えてくれたんですけど、エリヌスさんが色々とお願いしてくれたおかげで、上の人が変わったとかで……。
詳しい事情はよくわからないんですけど、ありがとうございます!」
「いえ、私はなにもしてないわ」
「そんなことありません! 全部エリヌスさんのおかげです!
それで、お礼といってはなんですが、これを……」
彼女は、小さな紫色の花を差し出す。
それは花壇にはない花で、可愛らしいリボンで束ねられていることから、わざわざ用意したものなのだと分かる。
もしかして、私が来るのを待っていたのかしら?
「あら、ありがとう」
「本当に、ありがとうございました。
もしなにか困ったことがあったら、相談してくださいね!
今度は、私が力になりますから!」
「ええ。頼らせていただくわ。先輩」
「えへへ……。あ、私、そろそろ行きますね!」
ぺこりと一礼し、彼女はジョウロ片手にかけてゆく。
本当はこんなにも、明るい先輩だったんだと、少し驚いた。
「俺も手伝ったんだけどなー」
「あなた、影が薄いのだから仕方ないじゃない。
それにしても彼女、本当に花屋にでもなるつもりかしら……」
「サクラソウか……。お前も、花咲かしちまったかもな」
「え? 私が?」
「あぁ。百合の花をな」
「? どういうこと?」
「教えねえ」
気持ち悪い笑みと共に、ヴァイスは歩いてゆく。
そんな態度の幼馴染には、飛び蹴りを喰らわせてやろうと、私は駆け出した。
◆ ◇ ◆
(特殊アイテム【ヴァイスの秘密ノート】を入手しました)
(暗号の一部解読に成功しました)
(以下、解読した文章を表示します)
◆ ◇ ◆
【ヴァイスの秘密ノート1】
これが読めてるってことは、どうやら暗号を解読したようだな。
さぞかし楽しい謎解きだっただろうが、まさか解読されるとは、想定外もいいとこだな。
なんてな、もし解読したヤツが居た時用に、こんな感じで書き始めておくぜ。
で、これがなにかってのが一番気になってるだろ?
なんたって、世界の全てを知る(俺調べ)ヴァイス様が、ざわざわ暗号化までするノートだ。
王族の弱味か? それとも金銀財宝の隠し場所か?
そんな期待してるんじゃねえの? ま、あながち間違いではないけどな。
だが、お前さんにとっては、ただの文字の羅列かもしれないな。
なにせ、この先にあるものがどれほどの価値を持つかは、使い方次第だからよ。
前置きはこれくらいにしておこうか。
さて、これがなにかってのを先に説明しようか。
これは、俺が集めた色んなヤツの情報をまとめたノートだ。
自己紹介に書けるものから、書けないものまで色々だ。楽しんでくれ。
それじゃ、まずは俺からいこうか。
ん? わざわざ暗号化したノートに自己紹介書くなんて、自己顕示欲が強いって?
ま、例題みたいなもんさ。次のページからもこんな風に書いてある、その見本とでも思ってくれ。
ま、楽しんでくれよな。
【名前】ヴァイス・モサド
【身分】準男爵・長男
【性別】男
【魔法適正】F(A~F評価)無しってことだ
【スキル】隠伏
【誕生日】5月18日(16歳)
【髪色・髪型】黒・短髪
【体型】身長174・体重58
【特徴】つり目・視線を悟らせない糸目
【雑記】
情報屋として名の通ったヤツさ。俺のことだけどな。
スキルの隠伏は、誰からも存在を認識されなくなるぜ。
唯一エリヌスには効かないが、他のヤツに見つかったことはない。
目の前に居て、凝視されていたとしても、一瞬で意識できなくなる程度の強ささ。
スキルが強すぎるせいもあって、魔法適正はない。
おかげで、こう見えて日々苦労してんだぜ?
どっちつかずよりはマシかもしれねえけどな。
あ、知ってる前提で書いたが、スキルが強いほど魔法適正は低くなる。
F評価は、スキル特化型。世間じゃ魔法が使えないってのもあって、無能力者なんて呼ばれているな。
そんなヤツがスキルを自覚できずにいたら惨めだろうが、大抵スキルが暴走して気付くはずだ。
俺もガキの頃もスキルが暴走して、親にすら認識されてなかったぜ。
目の前に居るのに「跡継ぎがいない」なんて話をされた時にゃ、ちいとばかり傷ついたもんさ。
ま、今じゃスキルを自在に操れるようになったし、ありがたく利用させてもらってるけどな。
こんな感じで書いていくぜ。
この先も読むつもりだろうが、暗号の難易度を上げておくから楽しんでくれ。
それじゃ、最初の1ページはこのへんで。
次のページで会おうぜ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!