悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

11本物の偽札

公開日時: 2022年4月4日(月) 21:05
文字数:2,382



「それじゃあ、改めてちゃんとイチから説明してもらえますよね?」



 ひとしきりバカにされたぶん、ちゃんとこの情報屋からは相手のことを聞き出しておきましょう。

でないと、今後またどんな危ないことに巻き込まれるかわかったもんじゃないもの。



「つってもなぁ……。だいたいのことは、あのアークってやつが言ってた通りだぜ?」


「ということは、相手はただの偽札工場ってこと?」


「いんや、アイツも言ってただろ? ホンモノのニセモノだってよ」


「さっきも聞いたけど、その言葉の意味がわからないわ……」


「そりゃ工場内見てなけりゃ、そう思うのも無理はねえな!」



 ケラケラとヴァイスは笑ってるけど、本当に意味がわかんないのよ。ホンモノそっくりのニセモノっていうのならわかるんだけど。



「だってニセモノはニセモノでしょう?」


「とは限らないんだな、これが」


「はい?」


「ここで耳寄り情報ですよ奥さん!」


「誰が奥さんよ」


「なんと、工場に置かれている印刷機はな……。なんとなんと!」


「いいから早よ言え」


「マジの本物の紙幣印刷用印刷機なんだよ」


「……はい?」



 意味がわからない言葉が聞こえた気がする。本物のお札を刷るための印刷機が、偽札工場にある?

うーん、なにこの哲学じみた言葉遊びは……。

けれど、ふと別れ際のアークさんの言葉が頭に浮かんだ。



『もしこれが使い込まれた、もしくは古めかしい加工がされていたならば、私にも見分けはつかなかったでしょうね』



 あれほどの観察眼を持つアークさんさえそう言わせるのなら、本当に本物の可能性が……。

でもそれだと偽札じゃないわけで……。やっぱ意味わかんないわ。



「説明」


「簡単なことだ。奴らは王国の上のほうの人間と繋がってやがる。

 そのツテで、本物を刷るための機械と全く同じものを手に入れ、大量の偽札を刷ってやがるのさ」


「つまり、出来栄えは本物。だけどお金としては、国の管理下にないお札ってこと?」


「お、やっと理解したか。その通りさ」


「そんなことしたら、大変なことに……。なるのかなぁ?」


「わかってねーのかよ!!」



 深いため息とともに、呆れた表情のヴァイス。

だけど、私には悪いことだとはわかるけれど、それがどう問題なのかはわからないのよ。



「だって本物と変わらないなら、買い物するとき使ったって誰も気付けないじゃない。

 なら、それは本物と変わらないんじゃないの?」


「そりゃ、使う分にはそうだろうな。まったく、庶民様は自分の生活に関わることだけで、国全体のことまでは頭が回らないご様子」


「悪かったわね! どうせ私は庶民も庶民。ど平民ですよ!

 地味なスキルだし、どうせ政治に関わるようなこともないもの。別にいいじゃない」


「そんなココロザシじゃ、俺様の手駒としては不十分なんだがな」


「私が手駒に甘んじる前提なのやめてもらえる?」



 ホントにこの人は……。本人を目の前にして手駒手駒って!

まあでも、今後はこういうややこしくてめんどくさい話に関わることも増えるわけで……。

って、私自身が手駒として使われる前提で考えてどうするのよ!?



「むむむ……」


「話、続けていいか?」


「はぁ……。どうぞ」


「ま、俺はセンセイじゃないんでな、細かいことは省略するぞ?」


「細かい話されても、理解が追いつくかどうか……」


「そりゃそうだ。ま、ともかく偽札の製造も使用も重罪ってのは聞いたよな?」


「ええ。確か最悪死罪だとか……」


「それもこれも、昔連邦とドンパチやってたのと関わってくんのさ」


「戦時中の話?」


「そう。当時はな、お互いがお互いに敵国の偽札作りあってたワケよ。

 んで物品、つまり兵器やら補給品の購入に当ててたわけだな」


「へー」


「うわ、興味なさげ。まあいいが」


「だって、よくわかんないし。相手の国から買わずに、普通に自分トコでお金用意して買えばいいんじゃないの?」


「お前なぁ……。んなもん、どれだけカネがあっても足りねえだろ?

 そのうえ、贋金なら相手の国にある物資を実質無料で手に入れられるんだぜ?

 相手の物資を減らし、こちらは印刷の手間だけ。これを使わない手はないだろ?」


「あー、確かに」



 私自身は経験がないので知らないけれど、戦時中はあらゆるものが不足して困っていたなんて話を聞いたことがある。それこそ、軍事物資の食料を人々に配ることで、英雄ともてはやされるほどに。

でもそれは、平民に無理を押し付けているだけだと思っていたんだけど、貴族を含め、国全体でそうだったのかもしれない。

もちろん、貴族が本当に困窮していたなんてことはないだろうけど、少なくとも軍部は資材調達に苦労していたんだろう。



「そういうわけで、偽札の製造と使用が死罪ってコトになったワケよ」


「んんんん? 話がつながらないような……」


「察しが悪いな。当時は偽札作るのも使うのも、敵国の手のモンだったってこった」


「あー、なるほど。そりゃ敵が国内に紛れ込んで、悪さしてるってことになるもんね」


「そういうこった。だから見せしめも兼ねて死罪にしてたワケよ。

 なんで、今偽札掴まされたって死罪にゃならんだろうし、偽造も……。

 いや、偽造はさすがに見逃されるなんてことはないはずだな。それでもさすがに死罪はないか……」


「それじゃあ、偽造してるのを密告すればいいんじゃないの?」


「は? 何言ってんだ?」


「だって偽造してる人が鉄の死神に狙われてるんでしょ?

 それならその人が捕まれば、さすがに暗殺まではしないんじゃないかなって」


「…………。まあ、頭ん中お花畑のお前さんにゃ、それでいいのかもしれねえけどな」


「誰の頭の中がお花畑よ!」



 そりゃ、私も戦時中なんて知らないし? 平和な時代に生きてますよ?

でも頭の中お花畑ってのは、さすがにひどいんじゃない!? そんなに私って抜けてるかしら!?



「いいか、お前と俺とじゃ目的が違うんだよ」


「目的?」


「ああ。俺の目的は、被害者を出さないことじゃねえ。鉄の死神を捕まえることだ」



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