悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

08情報屋以上の情報量

公開日時: 2021年8月11日(水) 21:05
文字数:2,098

 私の知らない私のスキル。それを言い当てた彼は、こんなのでいいのかという顔をしている。

けれど私にとっては、それは誰も知るはずない情報であり、私自身も真実か判別できないでいた。

だが、もし万一これが本当であるのなら、私は彼の言うことを信じるほかないだろう。



「必中……? それはいったい……」


「放課後やっていた的当てでも、スキルが発揮されていたでござるよ?

 普通の人は練習をしなければ、そう簡単に的に当てるなんて無理でござる。

 それを練習なし、それも全弾命中なんて、普通はありえないことにあり申す」


「え……? 普通そんなものではないのかしら?

 私は弓の稽古を付けて貰っていましたし、そちらだって的まで飛ばせるようになれば、外すことなんてありませんでしたもの」


「一緒に習っていた人を見ていれば、それが普通じゃないと気付くはずでござるが……。

 しかし、個人レッスンを受けていたので、仕方ない所ではあり申すな」


「お待ちなさい。もしそれが異常だとおっしゃるのなら、なぜ先生は指摘しなかったのかしら?

 さすがの私も、指摘されたなら気づかないはずはりませんわ」


「父君とヴァイス氏のおかげですな。

 二人は楽しそうにレッスンを受ける様子を見て、隠すよう動いたのですぞ。

 そのようなスキルが発覚すれば、戦地に駆り出される可能性も出てくるでござるからな」


「嘘……。二人が私のために……?」


「それに、学園入学前に弓の稽古を辞めさせられたのも、母君がそれに気づいてしまったからでござる。

 貴族として生きていくには、武術の才は障壁になりかねませんからな」



 確かに彼の言う通りであるのなら、色々と辻褄が合うかもしれない。

父の性格を考えれば、私が好きでやっている稽古を辞めなければならない状況にはしないだろう。

母もまた、普段から私に貴族としての立ち振る舞いを求めている。

ならば、このようなスキルであると分かったのなら、どのような手を使ってでも辞めさせ、隠そうとするだろう。

そして二人の力関係から言って、母に気付かれた時点で、父がどれだけ説得しようとも負けるのは、二人の話し合いの場を見なくたって分かる。

公爵家に婿入りした父の発言権は、仕事以外については全くないと言っていいのだから。



「いいでしょう。少なくともスキルに関しては信じましょう。

 …………。いえ、それ以外に関しても、信じざるを得ませんわね」


「え? こんなので信用してもらえるでござるか?」


「ええ。考えてもみれば、あなたは私の情報を知りすぎですもの。

 弓の稽古のことも、それをお母様によって辞めさせられたことも……。

 そのような情報を、どこで手に入れられると言うのです?」


「ヴァイス殿なら売ってくれそうですな」


「あの守銭奴が、公爵家の情報をセットで揃えておいて、平民程度が買える金額は付けませんわ」


「御令嬢のヴァイス殿への評価が、辛辣でござる……」



 辛辣? 事実をそう呼ぶのであれば、そうだろう。

彼は自身の利益になるかどうかを考え、情報の価格を決めるだけではない。

その情報を流すことで、最終的に金銭以外のメリットが発生するかも計算しているのだ。

守銭奴という言葉すらも、彼の実態を表すには生ぬるい。


 と思ってはいるものの、ここでヴァイスの話を続ける気はない。

問題は目の前の謎の人物が、何を目的として動いているか。それを知る必要が、私にはあるのだ。



「もちろん、あなたの言うこと全てを信じるつもりはありませんわ。

 けれど、ただの平民だという認識は、改めさせていただきます」


「信用してもらえたようだけど、なんだか釈然としないでござる」


「それで、その世界の裏側を知るような人が、私になんの用があって、人目を忍んでやってきたのかしら?」


「あ、それでしたな。

 単刀直入に申すと、ちゃんと悪役令嬢をやってほしいというお願いでござる」


「悪役令嬢をやる? どういうことかしら?

 というよりも、悪役令嬢というのがよくわかりませんわ」


「うーむ……。悪役令嬢の概念については、説明が難しいでござるな……。

 なので、それについてはスルーするとして、やって欲しいことだけを完結にまとめるでござる」



 なんだか投げやりな言い草だけれども、私も概念を説明されてそれをやれと言われても困る。

なので、やって欲しいことだけをまとめてもらった方がいいだろう。

それらの理由については、あとで聞くことにすればいいもの。



「そうね。概要を聞くより、実際にやって欲しいことを聞きましょう」


「簡単に言えば、学園で拙者をいじめて欲しいのでござる」


「…………。ええと、それはつまり、あなたはそういう趣味があるということかしら?」


「あー、それに関しても強くは否定しないでござるが……。

 けれど、それ以外の理由もちゃんとあるでござる」


「強く否定していただいた方がマシですわ。

 ともかく、理由をうかがいましょう。

 理由もなく人をいじめる趣味を、私は持ち合わせておりませんもの」


「ゲームでは、とっても乗り気に見えたでござるが……」



 いったい、そのゲームというものでは、私はどのような扱いを受けているというのだろうか。

それとも、もしかするといじめだせば、それに快感を見出すようになるというのかしら……?

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