悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

14秘密基地

公開日時: 2021年8月18日(水) 21:05
文字数:2,090

 はしごを降り、たどり着いた先、そこは洞窟のようで、地下室というには粗末な場所だった。



「とりあえず通路を繋げるのに精一杯で、今はこれだけしかできていないでござる」


「一日仕事なら、十分な出来じゃないかしら?」


「秘密基地は、ちょっとづつ作り上げていくのが面白いでござるからな。

 希望があれば、お好みの部屋を作るでござるよ」


「別に希望はないわ。例の部屋があればね」


「部屋はまだないので、今日のところはここでやるでござるよ」



 そう言いながら、彼は壁に手を触れる。

その瞬間、ゴツゴツとした岩が剥き出しだった壁は、整然と並ぶ石レンガの壁へと変わる。

壁には、丸い的となる円が描かれていた。



「悪役令嬢をしてもらおうお礼は、射撃場でござったな。

 さて、どの程度の距離を取るのがいいか……」


「弓なら20メートルほどかしら?

 私はあまり力が強くないから、飛距離が短いのよ」


「ふむ……。しかし、用意するのは弓ではないでござるよ」


「あら? またあのオモチャですの?」


「いやいや、もっと面白いものでござる」



 ご機嫌に鼻歌を歌いながら、彼は道中に置いてあったカバンの元へと駆ける。

そして、私の元へと持ってきて、その中身を差し出した。

それは黒い筒が、L字型になったようなものだった。



「なにかしら?」


「試しにやってみるでござる」



 L字の筒の短い方を握り、彼は的へと向けた。

そして角の部分にある引き金を引くと、パンっという耳をつく音が発せられる。



「びっ……、びっくりするじゃありませんの!!」


「おっと、これは失礼致した。しかし、これはモデルガン。

 ホンモノは、もっとすごい音がするでござるよ?」


「何かよくわからないけれど、そんなものを使わせようというの!?」


「まま、そう言わずこれを見てほしいでござる」



 そう言って、壁の方へと私を招き入れる。

近づき、指さされた先を見れば、青い塗料のようなものが、そこには付着していた。



「これはなんですの?」


「弾をカラー弾にしておいたでござる。これで、着弾地点がわかるんでござるよ」


「へぇ……。ええと、的の中心からは、随分と離れているようですけれど……」


「拙者、ノーコンでござるがゆえ……」



 ぽりぽりと頬をかきながら、少し恥ずかしげに言う。

ノーコンとう言葉の意味はわからないけれど、下手なのは分かった。

そういえば学園での的当ても、的に当てられずにいたわね……。



「それにしても、弦を弾くことなく矢を放てるのね」


「これは銃と言って、弓とは違う原理で弾を飛ばす武器にござる。

 といっても、今はまだホンモノではなく、モデルガンしか創っていないでござるがな」


「へぇ……。これも元いた世界のものなの?」


「そうでござる。そしてこれは、弦を引かなくていいものにござる。

 それゆえ、力がなくても十分な飛距離と、威力が期待できるでござる。

 なにせ必中のスキルは、当てるしかできないのだから、その分威力を道具でサポートするわけですぞ」


「なるほどね。確かに、弓の稽古の時は、毎日腕が痛くて大変でしたの。

 これなら、疲れることなく撃ち続けることができるんですのね?」



 返答は、コクコクといううなずきだけだった。

場所の提供だけでなく、道具の提供までするなんて、なかなか気の利いた人ね。

これは交換条件である悪役令嬢というものを、ちゃんと演じなければならないわね。

しかし、それはそれとしてひとつ気になることがあった。



「ところで、どうしてこんな武器を造ったのかしら?

 私へのサービスにしては、少々気が利きすぎていると思うのだけど?」


「拙者、元々こういうのが好きなんでござるよ。

 それが高じて、自衛隊……。こちらでいう軍隊に志願するほどに。

 まあ、志半ばで諦めざるをえなくなり申したがな。

 なぜ、そんなことを聞くでござる?」


「いえ、好きだからというなら、それでいいのよ。

 ただ、ちょっと心配になっただけ。

 もしこんなものが悪用されたならなんて、考えすぎだったようね」


「…………」



 私の言葉に、彼は黙り込んだ。

そして、逃げるように目をそらし、その視線は地面へと吸い込まれる。



「それが……、その……」


「何かあるのね」


「必要ならば、この武器を人に対して使うつもりにござる」


「人に対して……、ねぇ……」



 彼は明確に、これは武器だと言った。

つまり、弓と同じく人に対して使うとは、命を奪うということだ。

けれど、だからといって頭ごなしに否定するつもりはない。

普通の平民であるなら、咎めた上で牢獄に送ってもいいのかもしれないけれど、彼は違うのだから。



「まさかとは思うけど、あなたの知る未来では、戦争でも起こるのかしら?」


「そうではなく……。この国の未来のために……」


「この国の未来のため? 詳しく聞かせてもらえますわよね?」


「…………」



 その先、彼から聞かされた話は、ただの公爵令嬢であれば決して知ることのなかった現実。

平民の財産も、人生も、命も……。それら全てをモノとして扱い、自身の所有物であるように振る舞う者たちの悪行。


 平民にとってこの国は、檻の中同然だった。

それなのに私は何も知らず、この世界は素晴らしいものなのだと信じ切っていた。

そんな過去を、何より私の無知を、私は恥じたのだ。

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