いつも通りの授業、いつも通りの生活。
ぼーっと聞いている内容は、この国の歴史であったり、海外情勢だったり……。
この学園がスキル所持者を集め、それを訓練するための施設であることは、誰もが知ること。
けれど、ちゃんと学校としての機能もある。
なので、なんの役にも立ちそうにない社会科の授業だって当然あるのだ。
それは、スキル所持者に学を与えることで、良い職に就かせ、スキルによる犯罪や、もしくは国家転覆などを起こさせないため。
そのために、この国のどんな教育機関よりも、充実した授業が行われている……。
っていうのが、入学前の説明であった気がするなー。
平民にとっちゃ、今後知る必要のない知識ばっかりな気もするんだけどね。
というか、そういう高度な教育が行われているせいで、スキルを持たない貴族が裏金かなんかで無理やり入学しているらしい。
これはヴァイスが話てた内容。
まあ、平民と違って学費をポンと出せるんだから、スキルがなくたって授業目的に学園に通うのは、目的と一致してるからいいと思うんだけどね。
学園側からすれば、目論見が外れてるんだけど。
「――――というわけで、今日では協調関係にあるものの、歴史的には隣国との関係は最悪で、幾度となく戦争をしていたのだ。
今でも、外交によって平和が保たれているが、なにかきっかけがあれば、いつ崩壊してもおかしくない状況である」
なーんか、担当教諭はすごい渋そうな顔で話すけど、そういうのは上の人たちが考えることなんでー、私は興味ないなー。
「こらっ! ミー! 聞いているのか!?」
「ひゃっ!? はいっ!」
「では、協調関係を保てている理由を述べよ。聞いていたなら答えられるな?」
「はい……。えーっと……。
王族が交換留学生として、互いの国を行き来してる……。でしたっけ?」
「でしたっけ? じゃないだろ!?
まったく、合っていても手放しに褒められないではないか」
「す、スミマセン……」
「まあいい、座りなさい」
えー、なんでこれで怒られるのよ? 一応正解だったのよね?
まーでも、実際貴族も大変なんだろうなぁ。マジメにやってる人は、っていう限定での話だけど。
悪事を働くのと、マジメにやってるのと、どこで差が生まれるのやら。
そんな貴族をまとめなきゃいけない王族ってのも、大変よねぇ……。
それに、交換留学生なんていう体裁だけど、結局は人質じゃない。
そのおかげで、手出しできないから平和が保たれてる……。
うーん、なんとも言えないわ。平民だから、何か言える立場でもないんだけど。
そういえば、ヴァイスが言ってたわね。
確か、4月から王位継承権第一位の王子が、この学園に入学するために帰国するはずだったって。
10歳になる前から留学生として国を離れていて、やっと帰ってこれるはずだったらしいけど……。
どうやら、街道に盗賊が出るという情報が出回って、帰国が延期されてるらしいのよね。
まあ、その盗賊ってのが、お父さんも被害にあった盗賊らしいのだけど……。
盗賊に身包み剥がされるなんて、それでもプロかと呆れてたんだけど、相手が悪すぎたらしい。
なんたって、最強の護衛を付けるであろう王族さえも、危険と考えるほどの相手なんだもの。
ま、それもこれも片付いたらしくて、夏休み明けの9月から登校するって噂……。
もちろん出どころはヴァイスよ。貴族部門は担当すると言ってただけあって、情報収集能力は折り紙付きね。
でもまさか、その王子がエリヌス様の許嫁だなんて……。
やっぱりエリヌス様も、どこか遠くの人なんだなぁ……。
あの時、私に優しくしてくれたのも、ただの気まぐれだったのかなぁ……。
それとも、エリヌス様にとっては、優しくしたつもりもないのかもしれない。
道ばたでおなかすいたって鳴いてる子猫に、たまたま持っていたおやつをあげるような、その程度のことだったのかなぁ……。
なんだか最近、ヴァイスという一応は貴族の話し相手ができたせいもあって、貴族のイメージが揺らいでいる気がするのよね。
なんというか、知らない方が良かったというか……。
見えない線で分けられていた頃の方が、相手は人間じゃないと思えてたというか、私とは全然違う相手なんだと割り切れていたというか……。
あれでヴァイスは、仕事に対してはマジメなのよね。人間性は最悪だけど。
他の貴族も、もしかしたら悪い人ではないのかもしれない。
地上げ屋の貴族だって、高利貸しの貴族だって、何か事情があるのかも……。
そこまで考えて、頭を振って考えを振り払った。
うん、ちょっと疲れてるのかもしれない。
だって、理由があったとしても、それが平民を苦しめていい理由にはならないもの。
私がやっていることは間違っていない。鉄の死神を追うことは、きっと正しい行いのはず。
そうやって思い直して、私は背筋を伸ばして椅子に座り直した。
うん、あと数分で今日の授業は終わり!
終わればカノさんの店にいって、情報収集の続きをしなきゃ!
凝り固まった体を小さくほぐし、晴れ渡る窓の外に目をやった。
その先には、細い一本の黒い煙が立ち上るのが見えた。
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