「ご、ごめん……。続けて」
静かだった聖堂裏が、動物も逃げ出したのもあって、より一層静かになっちゃった……。
こんな沈黙の中、いまさら適当に誤魔化すのも今さら難しいよねぇ。いつにもなく、バンヒも真面目な顔つきだし。
「あの、今から話すことは、本当に誰にも言わないで欲しいんだけど……」
「その前置きって、誰かに広めて欲しい時に言うヤツだよ?」
「ちょっと、私は真剣なんだけど」
「むしろここは確認しておかないといけないことかなって」
「ごめん。でも本当に、話が広まったら私……、だけじゃなく、バンヒも危ないかもしれないし」
「そんなにヤバい情報なの?」
「だって、相手もそうだけど……。位の高い貴族も関わってるから……」
「あー、そりゃ下手すれば消されかねんわ」
「…………。やっぱり今までの、聞かなかったことにしてくれる?」
「なんでさ!?」
「だって、バンヒが危ない目に遭うかもしれないし……」
「だからってさ、私が一人で悩んでる友達放っておけるヤツに見える?」
「…………。ありがとう」
ニカっと笑って恥ずかしげもなくそんなこと言うんだから、こっちが恥ずかしくなってくる。
そういや入学したての頃も、周りが貴族だらけで縮こまってた私に、こんな感じに声かけてくれたんだっけ。
なんだかんだ、特待生の平民同士っていうのがあって、すぐに仲良くなれたと思ってたけど、きっと彼女なら貴族相手だって普通に友達になっちゃうんだろうな。
「それで、ミーはどんなヤバいことに首突っ込んでんのさ?」
「えっと……。ある貴族からの依頼で、鉄の死神の情報収集を手伝ってるの」
「それ自体は、そんなにヤバいことではなさそうだけどなぁ」
「うん。平民の間でどんな噂があるか調べてるだけだったし」
「まあ、貴族を狙う相手だし、犯人は平民だって目星をつけるのは当然だよねぇ」
「私も、学園に入るまで貴族ってどんなのかよく知らないし、悪いイメージあったもん」
「まあ、今思えば悪目立ちしてた貴族が目に付いていただけなんだなって思うけどね。
だってさ、学園に居るほとんどの貴族が、意外なほど普通なんだもん」
「それに、エリヌス様みたいな尊敬できる方も貴族にはいらしたもの……」
「おーい、ミーさんや、意識が飛んでませんかね?」
「はっ!? いえいえ、そんなことはございませんでしてよ!?」
「喋り方がおかしくなっておりましてよ」
「もー!」
貴族のお嬢様風にそういうバンヒだけど、なんだか取って付けたような違和感のある言葉だった。
じゃないじゃない、またもバンヒのペースに乗せられるところだった。ちゃんと軌道修正しないと……。
「ともかく、貴族も悪い人ばかりじゃないって分かったから、手伝うことにしたの」
「エリヌス様のためにも、早く捕まえないとだもんねー?」
「んっ……。ま、まぁ、それもあるけど……。じゃないの! 話の腰を折らないで!」
「はいはい、どうぞ続けて」
「だけど夏休みにね、噂話だけじゃなくて、怪しい組織の調査を頼まれたのよ」
「唐突だねぇ。ただの平民にそんなことできるとは思えないんだけど。
それに、ミーにそんなことできるとは思えないな。体育の授業も平々凡々だし?
潜入捜査とかは、絶対無理でしょ」
「ちょっと、それとこれとは……。否定できないわ。だから私も無理だって断ろうとしたんだけど……。
だけどね、私自身が動かなくても大丈夫だって言って、無理やり押し付けられたのよ」
「もしかしなくても、相手って悪目立ちする方の悪徳貴族なんじゃない?」
「まあ……。うん、そうかも。でも実際にやること聞いたら納得したし、できる所までって条件で引き受けたの」
「そんな安請け合いしちゃダメでしょ!? それで、なにさせられたのよ」
「それは……。私のスキルが関わってくるんだけどね……」
「え? ミーってばスキル分かったの!?」
「うん。どうもその貴族は、私のスキルを知ってたらしくて」
「本人も知らないことをなんで知ってるんだか……。それで、どんなスキルなの!?」
「えーっと……。動物と意思疎通できるスキル」
「…………。うん、正直言っていい?」
「はい、どうぞ」
「微妙!!」
「うん、私もそう思った」
バンヒは嬉しそうに駆け寄る仔犬のような表情をしたかと思えば、次の言葉では濡れて臭くなった老犬のような面持ちだ。楽しい散歩に行ったら土砂降りに当たったとか、そういうのかな?
でもたぶん、ヴァイスからスキルを聞いた時の私も、同じような顔をしてたと思う。
だってやっと分かったスキルが、あんまり使い道がなさそうだったんだもん。というか、動物と話せるのって、私にとっては普通のことだったし……。
けれど、あの情報屋というのは抜け目ないものだ。その残念なスキルの使い道をちゃんと考えていたのだから。
そのうえで、その情報でもって私を動かすことまでセットなんだから、ホントに怖い人だ。
「まあでも、それを使えば私が動かなくても、情報収集できるでしょ?」
「あー、確かに。その仕事にはピッタリかもしれないよね。なんか裏がありそうだけど」
「きっと私のスキルのこと知ってたから、この話を持ってきたのよ」
「やっぱりその人、悪徳貴族だよね?」
「うん。それは否定しない」
ただ貴族として悪徳というよりは、人間として根っこから腐ってるんだと思うけど……。
まあ、そのことについてはバンヒに愚痴っても仕方ないし、口には出さないでおこう。
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