悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

09旧友は名探偵

公開日時: 2022年3月28日(月) 21:05
文字数:2,072



「贋金? え? 偽物なんですか!?」


「ええ、おそらくは」


「怖くないでしゅよ〜、こっちおいで〜」


「…………」



 一人全く話を聞いておらず、猫撫で声のレベル上げに勤しんでいる人は置いておくとして……。

ともかくこのお札の束が偽物だってことは、もし使ってしまったら……。いやいや、持ってるだけでも重罪!?



「私、捕まっちゃうんですか?」


「そうですね、紙幣および硬貨の偽造は重罪です。

 そして使用も所持も、この国の法律では放火に次いで刑が重い。

 それこそ、殺人の方がまだ情状酌量のチャンスがあるくらいには」


「ひぇ……」


「死罪だけは免れるよう、傍聴席よりお祈りいたしますね」


「ひっ……」



 アークさんの白い歯が、夕闇にうっすらと残る夕陽の光を反射させるほど、とびっきりの笑顔を見せそう言う。

って! イケメンスマイルに見惚れている場合じゃないよ!? 最悪死罪って!!


 いやでも、法学の授業でも通貨偽造はかなりの重罪で、昔はそれによって実際に死罪となった人も多く居たと言っていたし……。

他人事のように聞いていた話が、まさか私自身にふりかかるなんて……。



「冗談ですよ。そんな顔を真っ青にしないでください」


「えっ!? 冗談なんですか!?」


「ええ。状況が状況ですからね。猫がどこからか持ってきたなんて信じ難いでしょうが、あなたが偽造していないなら、所持だけで罪に問われることはまずないでしょう。

 だって考えてもみてください。偽造方法を持たない人が、こんな量の偽札を持っているという状況、なんらかの事件に巻き込まれただけだと考えるのが妥当でしょう?

 たとえば、誰かに騙されて掴まされたとか、猫が拾ってきたとかね」


「もうっ! 怖い冗談言わないで下さいよ!」


「ははは、あなたがどんな顔をするのか気になりまして、つい」


「ついじゃないですよっ!」



 まったく、初対面なのにひどい人だ! そりゃこんな相手なら、カノさんもタジタジになるわけよ!

当のカノさんは、エージェントNを抱っこして御満悦のようだけど! というか、抱っこされてる方が、足をピクピクさせながら、白目剥いてるのは……。うん、たぶん大丈夫だし、放っておこう。



「申し訳ありません、そう怒らないでください。

 それに、万一このお金を使ったとして、貴女は捕まらないかと思いますよ」


「え? 偽札なんですよね? なのに捕まらないって、どういうことですか?」


「それは、このお札を見ていただければ分かるかと思います。

 貴女は、私がこれを見て、どこで偽物だと判断したと思いますか?」



 お札を手渡され、まじまじと間違い探しのように見つめる。けれど専門家でもない私が分かるわけないじゃない!

というよりも、庶民の家庭に生まれ、平々凡々な日々を送ってきた私が、こんな高額紙幣を見る機会なんていうのはそうないわけで……。

これが貴族のお嬢様なら、見飽きるほど見てるだろうから分かるかもしれないけど。



「えー、んー? 私には真贋がわかんないですねぇ……」


「ええ。私にもわかりません」


「わかんないですか!?」


「ええ。あまりに精巧に造られている……。というよりは、本物の印刷機で印刷された、本物の贋金とでも言いましょうか」


「なんですかその意味不明な、一行矛盾未満の言葉は……」


「言った私自身、意味がわからないですからね。ですが、偽物であることは確実です」


「見分けもつかず、意味もわからないのに、どうしてそれは言い切れるんですか?」


「お札の番号を見てください」


「番号?」


「そうです。お札には全て、番号が振られているのですよ」


「あ、確かに右上の番号が全部違いますね」


「そしてその番号は、製造された順に通し番号となっています」


「なるほど、偽造されて同じ番号が二枚あれば、偽物だと分かると……」



 間違い探しの答えのみつかけたを聞いて、実際に探すような気分でお札をめくっていく。

真新しいお札は互いにくっついたりしてめくりにくいが、バラバラとつたない手つきながら確認してゆく。

けれどみんなバラバラの番号で、同じものは一枚としてなかった。



「んー? でも、この中に同じ番号のお札はないですよ?」


「ええ。けれどその番号、新札にしては古すぎるんです」


「古すぎる?」


「ええ。その束にある番号は、新しいものでも五年ほど前に振られた番号だと記憶しております。一番古いものであれば、数十年前です。

 そのようなものが、そんなに綺麗な状態で残っているでしょうか?

 万一新札の状態で手に入れ、金庫にでも保管していたとするならば、発行されてすぐそのような過程を踏まなければならないでしょう。

 ならば、番号がバラバラであるのが不自然だと感じたのです」


「え? どうしてですか?」


「新札で発行されたものは製造日が近いはず。ならば番号は続いていなければおかしい。ということです」


「なるほど……」



 つまりこのお札は、正式な過程で作られたものではなく、意図して古い番号をバラバラに振って造られた、偽造品であるということ……。でいいのかな?


 理由を説明されれば納得だけど、アークさんの観察眼鋭すぎて怖いわ。

もしかして事件の捜査とか、そういう関係の仕事をしている方なのかな?

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