悪役令嬢は凄腕スナイパー【連載版】

「たとえ私に破滅の道しかなくとも、この国だけは護ってみせる」
島 一守
島 一守

14情報屋のお仕事

公開日時: 2021年7月28日(水) 21:05
文字数:2,304

 火事の消火にあたっていた人たちは、みんなげっそりしていた。

それも当然の話で、魔法適正の高い人が居ない中、みんな無理して水魔法を使っていたんだもの。

中には、前の私みたいに倒れ込んでしまっていて、寝かされている人もいたのよね。


 ホント、あの雨を降らせた人が居なかったら、今頃どうなっていたことか……。

でも、いったい誰がそんなすごい魔法つかったんだろう?

疑問に思っていれば、一台の馬車がこちらへと向かってくるのが見えた。

馬車は目の前で止まり、中からは一人の男が降りてくる。



「いやはや、また火災ですか。まったく、これだから木造家屋は……」



 いやに高そうな、シワひとつないワイシャツ姿のおじさんは、見下すような目で焼け落ちた一角を眺める。

まわりの人たちは、明らかに嫌な顔をしていることから、彼が歓迎されていないのは明らかだ。



「まったく、私の提案通り移住されれば、石造りの安全な住居を用意しておりますのに。

 そんなに薄汚れた闇市がお好きなんて、理解に苦しみますねぇ……」



 明らかな嫌味と共に、周りの人たちを見る男。

その目は、焼け跡を見るのと同じく、見下している目だった。

誰もが彼を睨み返したが、反論する人はいなかった。

ただ一人、カノさんを除いて。



「嫌味言いに来たのか? なら、忙しいんで帰ってくれ」


「おやおや、これは心外ですね。私は火の手が上がっていると聞き、心配してやってきたのですよ。

 なにせ、このあたりの管理を任されている身ですからね」


「管理ねぇ……。まるで役人のような言い草だが、所詮は商人じゃねえか。

 管理なんて言いながら、土地の買い上げを依頼されてるだけだろ」


「いやはや、理解されていないようで残念ですよ。

 区画整理は公共事業。その一端を担うのですから、ただの商売でやっているつもりはありませんよ。

 少なくとも、私はね」


「へっ……。ものは言いようだな」



 カノさんは嫌味な男と、静かながらもバチバチと言い争っている。

話の内容から、どうやらあの人が地上げ屋ってことなんだろうけど、いまいちわかんないな。



「よっ、解説してやろうか!?」


「ふぁっ!?」



 突然かけられた声に、驚きのあまり心臓が止まりそうになる。

ばっと振り向けば、そこにはニヤケづらの悪魔、ヴァイスが立っていた。



「うわでた……」


「ひでえ言いようだな。センパイの情報があったから、俺もわざわざ現場に駆けつけたんだぜ?」


「へー、意外とマジメに仕事してるのね」


「ったりめーだろ? 元々俺が受けた仕事なんだからな」


「あっ、そういえばそうだった。私が手伝ってるだけだもんね」


「いやホント、ミーセンパイは……」



 わざとらしくため息をつかれてしまった。

でもでも、今じゃカノさんの店で働いてるわけだし、他人事で済ませられないもん。

まあ、それも元々は彼の手伝いで潜入したようなものなんだけど……。



「でだ、あの男はトーテスっていう商人だ。

 貴族からの依頼で、この辺の地上げをやってる奴さ」


「え? 貴族が地上げしてるんじゃないんだ?」


「そりゃそうだろ? 不動産売買なんて、かったるくて貴族がやるかよ。

 ま、そうでなくても、プロに任せるのが妥当だろ?」


「地上げのプロねぇ……。ヤクザな商売してるのね」


「お前……。もしかして、地上げ屋を勘違いしてねえか?」



 なんか、またため息をつかれちゃったんだけど……。

まあ、貴族に上から目線で話をされるのは慣れちゃってるから、別になんとも思わないけどね。



「勘違いってなに? 悪どい手を使って、立ち退かせる仕事でしょ?」


「やっぱ勘違いしてんのな……。ま、解説してやるか。

 地上げ屋ってのは、土地を買い上げて区画整理する仕事ってだけだ。

 だから、穏便に交渉で買い上げても、それは地上げなんだよ。

 まあ、予算や期限の問題で、今回みたいなヤバい手を使うヤツも多いけどな。

 なにより、予定より安く上げられれば、差額が懐に入るんだ。やらない手はないだろ?」


「それじゃあ、穏便に済ますはずないじゃない……。

 それで、ヤバい手っていうのは、やっぱり……」


「ご想像の通りさ。だから俺がここに居る。

 情報ってのは、足で稼ぐもんだからな」


「へー、意外。情報屋なんて、適当に話を聞いて回るものだと思ってたわ」


「おいおい、そんな楽なもんじゃねえぞ?」



 心底心外だと言いたげな表情を見せるヴァイス。

まあ、確かに情報屋の仕事をナメてたかもしれないけどね。

私も手伝ってみて、話を聞いて回る難しさを実感したもの。



「それで、何か見つけられたの?」


「おそらく、近々アイツは標的になるだろうな。

 なんで、ここに居るやつ全員の顔を頭に叩き込む」


「どうして? ここに居る人が……。例のあの人なの?」



 鉄の死神と言いかけて、私は言葉を止め、そして濁して言い直した。

もしこの場に鉄の死神が居るのなら、私たちが追っている事に気づかれると危ないと思ったの。

それにはヴァイスもしたり顔だ。



「やっぱ、アンタを選んで正解だったな。

 抜けてるトコあるけど、大事なトコは押さえてやがる」


「素直に喜べない褒め方だね……」


「ま、喜んでるのは俺の方さ。

 俺の調べたアンタの情報は、間違ってなかったってことだからな」


「そうですか。それで、この中で目星はついてるの?」


「いや、そこまでではない。だが、俺が犯人なら、事件現場で標的の出方を確認するだろうなと考えたわけだ」


「なるほど。手を下すほどの相手か見てるはずってわけね」


「ああ、そうだ。ま、これで目星は付けられる。

 あとは裏を取ればお仕事完了。今回も軽い仕事だったな」


「もう終わったつもりでいるのね……」



 彼にとってみれば、鉄の死神だって本気を出せば簡単に捕まえられる相手らしい。

そんな自信が、彼の態度からありありと見て取れた。

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