「それくらいでいいんじゃないかしら?もしかしたら言いたくない事もあるかもしれないし。」
バーントの後ろから現れた金髪の女性、王都ギルドマスターのサベントさんがそう言ってくる。
「しかし‥わかりました。ギルドマスターがそう言われるのであれば深くは追求しませんよ。」
俺はサベントさんの方に視線を向けると‥
とてもいい笑顔でこちらを見ていた。口が動いている。よく見てみると(貸し1つですね)と言っているようだ‥
「まあいい。マスターもこう言われてるからな、この話は終わりだ。あとついでに言っておく事がある。冒険者には伝えるようにしているんだが、最近モンスターの動きが活発になってきている。もしかしたら魔族絡みかもしれん。討伐以来の時は不測の事態があるかもしれんから、注意するようにな。」
「わかったよ。要件は以上か?じゃあお暇するよ。」
そう言って応接室からでる。サベントさんの方に視線を向けると相変わらず素敵な笑顔を向けていらっしゃった‥
やっぱりエルフって綺麗だよなぁなんて事を思っていると脛に激痛が走った‥
宿に戻りマルコイの部屋でスキルの報告を行う。
「で?実際どうだったの、勇者のスキルは?」
「そうだな。勇者は1人しか発現しないって話だが、模倣はできるみたいだ。ただ模倣スキルのレベルが低いからか、使用は出来なかった。でも模倣スキルのレベルが上がった事で、ストックって形で補完しているよ。」
「へぇ〜。じゃあいつか発現するかもしれないんですねぇ。」
「確かにミミウの言う通り発現するかもしれないけど、揉め事の匂いがするから出来れば発現しない方がいいかもね。」
「あと【魔法属性:光】は見てもらった通り問題なく模倣できた。あと【異世界の知識】なんだが‥」
「どうかしたの‥?」
「情報が多過ぎてまだ整理できてないんだけど、勇者たちが来た異世界の知識だったんだ。それによると、この世界と違ってスキルや魔法じゃなくて科学って力で発展しているみたいで‥固有の力はないけど、世界の全ての人が科学の力を使用できるみたいだ。その様々な科学の情報と後は食事なんかもこっちとは全然違うみたい。」
「ご飯?」
俺はそっとミミウにハンカチを渡す。
「ただ、科学にしても材料がいるし詳しい事がわからない情報もある。多分模倣した勇者の知識が関係してるみたいだからな。でも冒険で役に立ちそうな物はなるべく探してみるよ。【異世界の知識】は頭の中でスキルに接続するような感じて情報が引き出せるみたいだからね。」
ちなみにアキーエのツンデレも異世界の知識から得てたりする。
「そうだ。屋台の料理なんかももっと美味しくできるかもよ。」
「さっそく西方広場に行くですぅ!」
「待て待て。今日はとりあえずこのまま休もう。明日は依頼をせずに休暇をとるから、明日行こうな。」
ミミウ、びちゃびちゃになったハンカチを返しながら口を尖らせている。
「う〜、残念ですぅ。わかりました。」
そしてそのまま解散したのだが‥
次の日の朝、ミミウさんは俺の部屋の前に、朝早くから待たれていらっしゃいました‥
さっそく朝イチから西方広場にやってきた。
「ところでマルコイさん。屋台の料理をもっと美味しくって実際どうするんですか?」
いつものドリンクを飲みながらミミウが聞いてくる。
おや?いつの間に買ったのかねミミウくん。
「そうだな、今飲んでるミミウのドリンクも炭酸水ってのと割ると、シュワシュワってなって美味しいらしい。」
「へ〜、どうやって作るんですかぁ?」
「えっとな、水に重曹とクエン酸を入れて混ぜたらなるらしいぞ。」
「その重曹?クエン酸?というのはどこで手に入れるんですぅ?」
「そうなんだよなぁ。美味しい物の作り方はわかるけど、その原材料がどれかわからないんだよ。だから今日は材料があってわかるものを美味しくしよう!」
「わかりましたぁ。でももっと美味しいドリンクが飲めないのが残念ですぅ。」
「これから王都以外でも色々見て回ってたら材料も見つかるかもな。なあアキーエ。」
「そうね。確か獣王国ではあまり調理せずに材料に少し手を加えるだけって言ってたから、そっちの方が探しやすいかもね。」
「よし、ランクが上がったら次は獣王国に行ってみような。」
3人でそんな会話をしながら目的の場所に着く。
「おう師匠!今日も来てくれたのか?」
これまで何度かお邪魔しているポテート屋だ。ミミウの事を師匠って拝んでるくらいだから、多少の無理は聞いてくれるはず。
「今日はマルコイさんの用事できました。マルコイさんがポテートをもっと美味しくしてくれるそうです!」
「なんだって?にいちゃんもアドバイスしてくれるのかい?」
ミミウが師匠で俺がにいちゃん‥
今日から俺の事も師匠と呼んでもらおう。
「どうもミミウがお世話になってます。冒険者のマルコイといいます。今日はこの店のポテートを少しアレンジさせてもらえればと思ってまして。」
「ミミウ師匠の友人ならこっちも願ったりだよ。どうすりゃあいいんだい?」
「今お店で出してるポテートですが、蒸して調味料をふってだしてますよね?その蒸す過程を揚げるに変更してもらおうと思ってます。」
「揚げる?」
「はい。大量の油を高温で熱してその中にポテートを入れます。それだけでいつも出してるポテートの少しモサモサした感じがなくなって、食感が良くなります。」
「わかった。そりゃいいんだが、大量の油はどうしたらいいかね?」
「あっ!」
やばい考えてなかった‥
いや、ここは屋台が集まる西方広場‥
どこかに売ってある店があるはず‥
「ここは西方広場ですから。他の店から譲ってもらったり、売ってあるところもあるでしょうから大丈夫ですよ。」
「いや、にいちゃん今、あっ!って言ってたよな?」
「気のせいです。」
「マルコイの考えなしはいつもの事だけど、多分ちゃんと美味しくなるから大丈夫と思いますよ。」
アキーエ、ナイスフォロー?
それから手分けして油を譲ってもらったり売ってあるところから購入してきた。
「ではお願いします。」
ポテート屋のおっさんが今まで蒸していたポテートを油で揚げる。
しばらくしていい色になったところで取り出してもらって塩を振りかける。
「ほら。こんなもんか?」
さっそく食べさせてもらおう。
揚がったばかりのポテートを口に頬張る。
「あつっ!」
ものすごい熱くて口の中が火傷しそうだったが、それよりもポテートの美味しさにビックリする。
「こ、これは止まらないですぅ。」
「ほんと。これは美味しいわね。」
半端なくうまい。
勇者のスキル【異世界の知識】から引き出した料理法だが、ここまでのものとは思わなかった。
アイツらこんなにうまいものを日常的に食べてたのか?
それでこの世界の料理で満足してるのか‥?
「あーっ!」
「フライドポテトだっ!」
知っている声が聞こえた。
あまり会いたいとは思わない声だが、あいつらもこの西方広場の屋台を気に入ってたっけ。
「あー、美味しそうな匂いに来てみたら、またあんたなのね。」
来たなツンデレ2号め。いやこの場合はツンのみだから、ツンでいいのか?
ちなみにツンデレという文化についても【異世界の知識】で知ることができた。
うちのアキーエさんがツンデレだという事に気づかされたもんだ。
「俺たちは冒険者だ。どこにいようがあんたらには関係ないだろ。」
そう言うとショートカットはムスっとした顔をする。
「私達はあまり同世代の友人がいなかったから、こんな風に会えて嬉しいんですよ。ね、あやめ?」
「そんな事ないっ!こんな残念イケメンに会っても嬉しくないんだからっ。」
うむ。失礼なやつだ。あとで宿の部屋で足の小指をぶつける呪いをかけておこう。
アキーエはあやめたちを見て苦笑しながら話しかける。
「あら?わたしたちも辺境から出てきてるから友人がいなかったのよ。よかったらお友達になりましょう。」
「ありがとう。私は恵。こっちの照れ屋さんがあやめって言います。」
「わたしはアキーエよ。そして一心不乱にポテートを食べてるのがミミウよ。」
ミミウさんや‥もう3皿目くらいを食べてないかい?
「そして残念イケメンがマルコイっていうのよ。よろしくね。」
あまり勇者たちに関わるつもりはなかったが、アキーエたちが楽しそうにしてるので、しょうがない。
「ところで、あのフライドポテトはマルコイさんが作ったのですか?」
「ん?そうだが?」
「もしかして【異世界の知識】と関係あります?」
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