闘技会予選2日目となった。
俺の試合は第二試合目になる。
一試合目はスコルが出場している。
『雷鳴の音』のリーダーで雷鳴を体現するようなスピード重視でスキル【下肢筋力向上】を用いて戦う人だ。
流石にパーティリーダーだけあってかなりの強さで戦いを優位にすすめている。
しかし相手も同じBランク冒険者だ。
簡単にはいかず、戦闘時間が長引いている。
スコルさんの予選は人数が6人の勝ち抜き戦になってしまっている事も響いているのだろう。
スコルさんが1対1になった時には自慢のスピードにも陰りが見えていた。
それでも善戦はしていたが、スコルさんが大剣士に大剣を叩きつけられ動きが取れなくなった。
それでも戦闘を続けようとしていたが、場外の仲間からギブアップするよう声をかけられ、渋々負けを認めていた。
残念だった。
スコルさんは強いが、運が悪かった事もあるだろう。
しかし自分の対戦相手を見ながら人の事は言えないなと思ってしまうマルコイだった。
「2日目予選の第二回戦出場者は場内に!」
場内に行こうとすると、アキーエが俺の手を取る。
「大丈夫?緊張してない?武器は持った?ハンカチは?お茶は?」
「オカンかっ!」
なんで自分が出場する時より緊張してるんだよ。
ミミウの時も緊張していたようだったけど、順番的に自分が後だったからそれどころじゃなかったのか?
今は自分は本戦に上がる事ができたから、俺が心配になったんだろう。
「大丈夫だ。俺の実力はアキーエが1番わかってるだろ?」
「確かにそうだけど‥それでも何があるかわからないから本当にきをつけてね。」
何があるかわからないか‥
確かに何か持ってそうな奴が相手にいるからな。
会場に入り、中にいる対戦相手に目を向ける。
「まさかこんなに早くあんたと当たれるとは思わなかったぜ。」
大会の運営委員会を買収したんじゃないか?
アキーエにこんがり焼かれればよかったのに、嬉しそうにニマニマしているノギスがいた。
「なんだ?マルコイの知り合いか?」
『獅子の立髪』のカリーンさんもいる。
カリーンさん、ノギスの相手してくれないかな?
「なんか訳ありみたいだな。そしたらそっちの戦いが終わったら、私とも戦ってくれよ?」
そんな気を使わないんでいいんですけどっ!
「お前をボコボコにしてナーシスに俺の方が強いだって事を証明してみせるぜ。」
確か希少スキルとか言っていたな。
馬鹿だけど、【鑑定】したら気づくかな?
その前に馬鹿だから自分で言ってくれないかな?
「確かノギスだったよな?Cランクで闘技会に出場したり、そんだけ自分の事を強いって言ってるんだ。よほどのスキルを持ってるんだろうな?」
「あ?当たり前だろうが。俺のスキルは【狂戦士】だ!俺の感情で強さがどんどん上がっていく。お前に対しては天井知らずに上がってるぜ。それにとっておきの切り札もあるからな!」
う〜ん。
やっぱりお馬鹿さんだったか。
自分のスキルがバレてないという事は優位な点だってのにペラペラと喋るとは‥
しかも切り札の存在まで。
まぁそれだけ自分のスキルに自信があるんだろうな。
「それじゃ準備はいいか?二回戦を始めるぞ。」
さてさて、他を警戒しながらノギスをシバくとしますか!
周りを見渡す。
馬鹿(ノギス)やカリーンさんの後ろには、たくさんの観客の人たちがいる。
アキーエじゃないけど、こんなとこに立つ事が出来るなんで思ってもいなかったな。
いろいろな人達のおかげでここまでこれたが、まだまだ先に進めるのであれば行けるとこまで行ってみたいと思う。
あまりにご都合主義すぎて、スキル【模倣】に何かしらの意思が絡んでるじゃないかと思った事もあったが、だとしてもここまで連れてきてくれたのだ、思惑にのってやってもいいと思う。
もし魔王を倒せだの世界を救えなど、あんまりでっかい事はできないと思うけど、その手伝いくらいならいいかな‥
「おいおい。何をボーっとしてんだ?油断してないで最初から全力でこいよ。言っておくが俺は今まで人に負けた事がないんだ。だからランクはCだが、実力はAやSかもしれないんだぜ?」
ノギスが何か言っている。
確かに負けた事がないからそうなのかもしれないけど、強者の独特の雰囲気をノギスは持っていない。
実力はあるのかもしれないけど、雰囲気的にヤバいと思わないから大丈夫だろう。
しかし本来ならボッコボコにしてやりたいけど、ナーシスの仲間だ。
そこまでするのはかわいそうだ。
ナーシスが泣いたりしてもいけないからな。
だから9割9分ボコくらいにしておいてやろう。
「それでは準備はいいな。これより二回戦を開始する。始めっ!」
ついに始まった。
先程から様子を伺っているが、ノギスが話しているのを聞いていたからだろうか?
俺とノギス、それ以外の3人といった構図になっているようだ。
俺とノギスが戦っている間に後ろからなんて事はなさそうに見える。
これも脳筋たる所以か。
「それじゃ行くぜ。お前の見せ場はないけど心配すんな。俺が本戦も優勝して俺に負けたんだから仕方ないって思わせてやるぜ。」
ノギスはそんな事を言いながら突っ込んできた。
確かにかなりのスピードだ。
自分に自信を持っているのはわかる。
しかしアキーエより遅いぞ?
俺のところまで突っ込んできて剣を振るう。
袈裟斬りを受け止め弾き返す。
「俺の魔剣イズラボドッヂを受け止めるとは思っていた以上にやるじゃねーか。しかしそう何度もいかないぜ。それに俺のスキル【狂戦士】はもっと強く早くなっていく。いつまで耐えられるかな?」
魔剣イズラ‥ほにゃららか‥
どう見てもただの鉄剣にしか見えないんだが‥
ミミウの盾にくっついて離れなくなりそうだ。
するとノギスの身体から赤い光が立ち昇る。
ノギスは先程よりも早いスピードでこちらに向かってくる。
念のためにエンチャント:土を使用して様子を見る。
ノギスは魔剣イズなんちゃらを使い連続で斬りつけてくる。
剣術を習った感じではない。対人戦を想定してではなくモンスター討伐の戦い方だ。
一つ一つの剣をいなす、弾く、受け止めるなどして連撃を受け止める。
スピードはあるが容易に受け止める事ができる。
するとノギスの身体の周りの赤い光の色が濃ゆくなってきた。
それと同時にスピードが上がっていく。
なるほど。
最初に言っていた感情で強さが変わるってやつか。
どこまで強くなるのか興味はある。
しかし大会中だしな。
そろそろこちらも攻撃に転ずるとするか。
ノギスの身体を覆う赤い光は、段々と光の強さを増してきている。
しかし綺麗な光と言うよりも禍々しい光といった感じだな。
連撃のスピードも上がっていく。
捌けはするが、まだ上がるのであれば他のエンチャントを使う必要があるかもしれない。
これ以上回転が上がる前に割り込む必要がある。
エンチャント:火を使用して一旦距離をとる。
と思ったら突然連撃がやんだ。
ふとノギスを見ると肩で息をしている‥
「な、なかなかやるじゃねーか‥」
いや、何もやってない。
疲れたのだろうが、戦いの途中に一旦待ったはないだろう。
しかし面白いので少し待ってみる。
「ふふふ。俺の調子が戻るのを待つとは愚かな。思い知るがいい!」
そしてまた連撃を始めた‥
「これはさっき見た。他はないのか?」
ノギスの剣を弾き、様子を見る。
「こ、このやろう!俺を本気で怒らせたなっ!」
いや怒らせるつもりはないのだが‥
純粋に好奇心ってやつのつもりだったけど。
ノギスの身体が蜃気楼のように歪む。
身体から発する赤い光がますます濃くなる。
それと同じく目が狂気を孕んでくる。
ん?スキル【狂戦士】はリスクがあるスキルなのか?
これは不味いな、早めにけりをつけるか。
俺はすぐにエンチャント:火と風を使用する。
ノギスの後ろに回り込み剣の腹を肩に振り下ろす。
肩に剣があたりノギスは地面に突っ伏す。
「ぐはっ!」
地面に突っ伏して俺を見上げるノギスの目には理性が戻っていた。
「くっくっく。まさかお前がここまで強いとはな。でも俺もこのまま負けるわけにはいかないんだよ。お前みたいなハーレム野郎の一員にナーシスをする訳にはいかねーんだ!」
‥‥‥‥‥は?
何を言ってるんだコイツは?
誰がハーレム野郎なんだ?
お、おれか?
意味がわからない事を言って俺を動揺させる気なのか?
そ、そんな魂胆には乗らないぞ。
「はっ!お前の魂胆なんざ見え見えなんだ!ナーシスは俺が守る!」
ノギスはまた突っ込んできた。
ノギスの剣を受け止めるが勢いがよく、後ろに飛ばされる。
転がって膝をつく‥
「図星つかれて動揺したか?こんなもんじゃすまさねーぞ!」
俺を見下ろしてノギスが言う。
‥‥‥‥は?
俺の怒りが溢れ出るようだ‥
「ふ、ふざけるなっ!言いがかりも甚だしいわっ!」
これスキル【狂戦士】なら強さが振り切るわ。
よかったな俺がスキル【狂戦士】じゃなくて。
俺はまだ女性の手を握った事も数える程しかないのに、ハーレムだと?
「そ、そんな根も葉もない事で俺にいちゃもんつけてきたのか?」
「あ?見たらわかるだろうが!あんないい女ばっかりはべらせて、その上ナーシスまで粉つけやがって!」
いい女は認めるが、そんな関係ではない。
許さん。
「確かに俺の仲間はいい女ばかりだが、そんな関係じゃない!もう許さん!」
「そりゃこっちの台詞だ!もう切り札使ってでもお前をぶっ飛ばしてやるぜ!」
切り札?そんな事を言っていたな。
しかしそんな物ごとぶっ飛ばしてやる!
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