カリーンさんはまたもゆっくりした動きからスピードを段々と増してこちらに向かってくる。
カリーンさんは上段から斧を振り下ろす。
バックステップで躱すと、カリーンさんは一歩踏み出し振り下ろした腕のとは逆の腕で斧を空中で持ち替え、今度は下から斬り上げてきた。
スキル【剛腕】を使用したとしても無茶な動きだ。
下からの斬り上げを防御すれば恐らく宙に浮かされ逃げ場が無くなったところを追撃されそうだ。
なので剣で受け止めずに剣がぶつかった勢いを利用して後方に下がる。
若干浮かされはしたが、まともに受け止めるより後方に下がれ多少距離を稼ぐ事ができたので追撃は免れた。
しかしすごいな。
スキル【剛腕】だけでシングルスキルのはずだが、スキルの使い方次第でここまで強くなれるんだ。
自分のスキルの可能性をどれだけ引き出せるかで、どこまでも強くなれる事ができそうだ。
しかし負ける訳にはいかない。
カリーンさんには悪いが、一瞬でケリをつける。
下がった俺を追いかけるようにカリーンさんは横なぎに斧を振るう。
それを後ろに下り躱そうとすると斧を途中で止めて、そのまま真っ直ぐに斧を押し出してきた。
辛くも斧の先端を剣で受け止める。
カリーンさんは俺をそのまま突き飛ばそうと斧に力を込める。
ここだな‥
いくぞ!
エンチャント:爆炎
身体中に血が駆け巡る。
鼓動が‥心臓が力強く脈打っている。
何でもできるような、そんな高揚感が身体から湧き出てくる。
俺はカリーンさんの斧を力任せに押し返す。
スキル【剛腕】を持っているはずのカリーンさんが力負けして後ろに後退させられる。
驚いた表情をしているカリーンさんに向かい俺は間合いを詰めて剣を下から斬り上げる。
剣を弾こうとして上から振り下ろされたカリーンさんの斧を容易く弾く。
そしてがら空きになったカリーンさんの腹部に剣の柄を突き刺す。
カリーンさんは呻き声を上げた後、そのまま前のめりに突っ伏す。
動かないカリーンさんを見て、審判の方に顔を向ける。
「そこまで!勝者マルコイっ!」
はぁ、皆んな強かった‥
ノギスでさえ結構手こずったもんな。
勝利のアナウンスを受けて、アキーエたちが待つ方に歩いていく。
「お疲れ様。」
「やっぱりマルコイさんは強いですぅ。」
2人のもとに戻ると、どっと疲労感が襲ってくる。
戦闘の疲労もそうだが、やはりエンチャント:爆炎の疲労感が半端ない。
【エレメントナイト】のスキルレベルが上がって覚えたエンチャントだが、使用後には感じた事の無い程の疲労感が押し寄せてくる。
強力なスキルだが、その反面リスクもデカい。
戦闘中にこの疲労感が襲ってきたら間違いなく負けてしまうだろう。
スキルレベルが上がれば解消される問題なのかもしれないが、現時点では短期決戦用の本当に切り札的なものだろう。
「ありがとうな。これでなんとか俺も本戦出場権を勝ち取ったよ。」
なかなか濃い予選だったな。
しかしこれで本戦に出場することができるので、よしとしよう。
自分の予選が終わったので、残りの試合を見るために観客席に移動する。
そこには俺たちの試合を見に来ているキリーエが待っていた。
「マルコイさんお疲れさん。やっぱマルコイさんは強いな〜。もし闘技会で賭けでもしてるならマルコイさんに全財産賭けるけどな〜。」
それは嬉しいけど、キリーエの全財産とか責任重すぎるからやめて欲しい‥
最後の試合は『獅子の立髪』のアムテルさんが出場する。
アムテルさんはスキルを模倣する時にスキル『槍士』の動きを見せてもらったことがある。
槍の動きがスムーズで円を描くような動きだった。
円を描くことで動きに切れ目がなく、隙らしい隙が見当たらなかったことが印象的だった。
試合が始まった。
今回も5人が出場している。
アムテルさんは問題なく他の出場者を倒していく。
他の出場者もBランクなのだが、ドラゴン討伐に呼ばれるくらいの実力者だ。
格が違う。
ついにアムテルさんともう1人の男の対戦となった。
順当にアムテルさんが勝ち上がるだろうと思いみていたが、予想に反してアムテルさんが苦戦している。
相手はナックルを使用している徒手空拳の冒険者のようだが、槍とのリーチの差があるのに善戦どころか押しているように見える。
アキーエのように遠距離でも攻撃できる手段があればリーチの差は問題ないが、単純に魔法でも使用しない限りは余程実力に差がなければ格闘で槍に勝つことは難しい。
ならばアムテルさんを押している冒険者がアムテルさんを凌駕する実力を持っているということか。
俺もスキルを使用しなければ短剣使いと槍使いの2人組は倒せなかった。
それにあれは少し意表を付く形だったから、もし対策を考えて動かれていたらまた違ったかもしれない。
会場ではアムテルさんが放った槍を男がナックルで弾き返す。
アムテルさんは弾かれた槍をすぐに戻し横に払う。
それを男はしゃがむように下に躱し突進する。
アムテルさんは槍を戻すと再度突きを放った。
しかし男はナックルで軌道を逸らすと、そのまま槍をナックルで押しながら間合いを詰める。
アムテルさんは持ち手の柄を男の額に向け叩きつける。
しかしそれすらも男は躱し、腹部に拳を放った。
アムテルさんはダメージが大きかったようで、その場に蹲った。
それを見て男は‥
さらに拳を連打した。
動けなくなったアムテルさんに拳と蹴りで攻撃している。
すぐに審判が止めるように言うが聞こえてないのか、聞こえないふりなのか構わず攻撃を続けている。
すぐに止めようと会場に降りようとしたが、会場の入り口付近から1人の女性が飛び出してきた。
アマンダさんだ。
アマンダさんは男に突進して拳を放った。
かなりの勢いがあったその拳を男は手のひらで止めている。
その後に会場の警備の人たちが場内に入ってきて2人を引き離した。
アマンダさんが大きな声で何かを言っているが、男は無視して会場から出て行った。
とても気持ちの良さそうな顔をして‥
会場は騒然としていたが、収集がつかないと思ったのか、それには構わず審判は勝者のアナウンスを行っていた。
あれはヤバいな。
何であんなのが予選から出てるんだ?
もしあんなのにアキーエたちが対戦していたかと思うと背筋が凍るようだ。
本戦でアキーエたちが対戦しない事を祈ろう。
もし対戦するようであれば大会など関係なしに乱入するつもりでいないと。
大会側が何と言ってこようと関係ない。
アキーエたちを失う事と比べるなら、その後に冒険者として活動できなくなったとしても些細な事だ。
そのあと本戦への出場者の発表があり、闘技会予選は終了した。
最後にアクシデントがあったが、本戦は1ヶ月後に開催予定だそうだ。
観客席から宿に戻ろうとすると、ちょうどカリーンさんと会った。
「マルコイ少し時間いいか?」
「いいですよ。」
するとカリーンさんは笑みを浮かべてこちらに向かってきた。
「今日はありがとう。全力で戦って気持ちよく負けた。感謝する。」
カリーンさんが握手を求めてきたので、快く握手を交わす。
「ところで最後更に強くなったのには何か秘密があるのかい?」
「そうですね。今は答える事はできないけど、本戦では出し惜しみできないと思うので、そのうちわかりますよ。」
「なるほどね。それじゃ私は今からアムテルのところに行ってくるよ。」
するとカリーンは真剣な表情をして話を始める。
「アムテルは結構酷い怪我みたいで、回復魔法で命は取り留めたけど、安静の為に別のところに運ばれてる。アマンダから聞いたんだが、アムテルを倒したやつは笑いながら本戦に出るやつも同じようにしてやるって。だからアマンダにも本戦で当たったら同じ目にあわしてやるから待ってろって言って出て行ったらしい。」
なんだそれ。
頭がイカれてるとしか思えないだけど。
魔道具で身代わりはできるけど、何回も攻撃されるのなら意味がない。
できればSランクとかに当たってボコボコにしてもらいたいもんだが、最悪の場合を考えて動いておかないとな。
カリーンは手を振りマルコイ達の前から去って行った。
「それじゃ皆んな帰るか。」
予選を勝ち残り本戦出場を決めたが、先程の件を考えると少し憂鬱になってしまった。
とりあえず1か月はあるからな。
対策やら訓練やら魔道具作製やら色々とやってみるとするかな。
今日から取り掛かってもいいけど‥
「それじゃ今日は3人して本戦出場が決定したから祝勝会をしましょ〜!」
「やったですぅ。もうお腹が空いて倒れそうでした。」
「そうね。今日はおめでたいから、わたしも賛成よ。」
まあそうなっちゃいますよね。
キリーエの発案にてホット商会のレストランに行く事になった。
しかしミミウは今日出場しなかったし、観戦してた時もずっと何か食べてた気がするんだけど‥
いかんいかん。
ミミウの食欲の事は深く考えない事にしていたんだった。
そしてキリーエの案内で来たお店は、ミミウの看板がデカデカと飾ってある『ミミウちゃんのホットケーキ屋さん』だった。
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