「おっちゃん、これって何から出来てるんだ?」
念のため確認しておく。
「作り方は秘密だが、材料は甘いイモから出来てるから口に入れていい物だ。疲れが吹っ飛ぶ酸っぱさだよ。」
やはり正解のようだな。
それじゃ後はミスリルを買った鉱石屋に行ってみるか。
ミスリルを買った時にそれっぽいのがあったしな。
ロッタスは鉱山の近くに大きな湖もあるからもしかしたらとは思っていたが、その時はもう一つの材料に当てがなかったのでよく確認もしなかった。
粉を買った店を後にして、鉱石屋に行く。
目当ての物は‥あった。
灰白色の鉱石で用途がないためなのか、かなり安価で売ってある。
「どうもお久しぶりです。」
鉱石屋の店主は挨拶をした俺を見るなり訝しげな表情をする。
しばらく俺の様子を伺っていたが、俺が1人だとわかると急に笑顔になった。
「いらっしゃいませ。今日はお一人様ですか?」
「はい今日は一人できました。」
う〜む、ここまで警戒されるとはキリーエの値段交渉がどれほどだったのか物語ってるな‥
「そうですか。それで今日は何をお探しで?」
揉み手でススっと近づいて来た。
ちょっとキリーエを呼んでみたい気もする‥
「今日はあの灰白色の鉱石を買いに来ました。」
店主は俺が指差した方を見ると明らかに落胆した顔をする。
「あちらの鉱石ですか?あれは使い道がないので、お安く売ってますよ。室内に飾るくらいしか出来ませんし。大量に買ってくれるならさらにお安くしますよ。」
相当売れないんだろうな。
値札もかなり安いが、使い道ないけど大量に買うならさらに安くするよって‥
しかしその方が助かるな。
今後キリーエ次第では大量に買う事になるかもしれないし。
「今回は少しでいいです。でも多分また来る時は大量に買うかもしれないので、その時はよろしくお願いしますね。」
店主はまた買いに来るとは思っていないのだろう、残念そうな表情をしている。
ミミウとキリーエ次第ではもっと買うと思うけど、その時はキリーエも来ると思うので商品の確保と気持ちの覚悟をしてくれるよう祈っておこう。
材料を買った後に宿に戻り、宿から許可を得て庭で作業を行う。
湿った薪の上で先程買った鉱石を熱する。
熱した事でパラパラと崩れるようになった粉を乾燥させ不純物を取り除く。
アキーエが戻って来たので、念のため判別をしてもらうと予想通り『トロナ鉱石』だった。
作った粉を少量冷水に入れてかき混ぜる。
粉が溶けたところで疲れが取れる魔法の酸っぱい粉を入れる。
すると水の中に気泡ができ始める。
炭酸水の出来上がりだ。
少しハチミツを入れて飲みやすくしてみるか。
さて、後はミミウが帰ってく‥
「これ飲んでもいいんですぅ?」
「‥‥!」
死ぬ程びっくりした!
声にならない叫びを上げてしまった。
ミミウさん‥
食べ物絡みだと恐ろしい程の技能を発揮しますな‥
「今度は飲み物なのね!ホットケーキと一緒に売り出したら売れそうやね!」
「うわっ!」
また死ぬ程びっくりしたっ!
情けないけど今度は声もあげてしまった。
「ど、どうぞ。」
びっくりし過ぎてそれしか言えなかった‥
「うわ〜!これシュワシュワしてて、口の中がパチパチしますぅ!」
ミミウが目をパチパチさせながら美味しそうに飲んでいる。
「これがセイウットで言っていた炭酸水ってやつだ。こっちで見つかったらいいなと思っていたけど特殊な材料だったからな本当にあるとは思わなかったよ。」
「マルコイさん。これって原価はどれくらいになるん?」
「ん?原価か‥重曹は使い道が沢山あるんだが、まだ用途が確立していないから凄く安かったぞ。しかしクエン酸の方は市場の店で売っていたけど作り方は秘密って言ってたしな‥そっちが結構値が張るかもな。」
クエン酸については菌を使って発酵するようだが正確な作り方はわからない。流石にそこまでは、あやめ達も調べてなかったようだしな。
「でも量はそんなに使用しないから原価的には問題ないんじゃないかな?それに重曹の方がベーキングソーダだったり、洗剤だったりと使い勝手がいいからそっちを商品化して、ついでに炭酸水とかでいいんじゃないかな?」
「ダメですぅ!炭酸水は正義ですぅ!」
おおう!
ミミウさん、随分と炭酸水がお気に召したようで‥
「そやな。その重曹ってのは大量に買って商品化して、クエン酸も契約して定期的におろしてもらうようにするわ。そしたら炭酸水も販売できるやんか。」
ミミウが首がもげるんじゃないかってくらい縦に振っている。
「そしたら商品名は『炭酸水ミミウ』で決まりやな。」
キリーエのネーミングセンスが壊滅的なんだが‥
それともまた看板作って売り込むつもりなのかな‥?
「商品に名前入ったら、またたくさん飲めるですか?」
「もちろん!任せとき。ミミウちゃん用にたくさん用意しとくで。」
う〜む、こうやって丸め込まれてるのか‥
いやミミウの場合は望んで丸め込まれている気がする。
それじゃ部屋に戻るとするか‥と思ったらしっかりとキリーエに肩を掴まれた。
「マルコイさん。重曹の作り方とお店の場所を教えてくれる?あとクエン酸も。」
そのままズルズルと引きずられて市場にもう一度行く事になった。
あれ?
ミミウに美味しいのもをあげるのが目的だった気がするんだけど、いつのまにかホット商会の新商品開発みたいになってないか?
キリーエはさっそく市場でクエン酸を売ってたおっちゃんと定期的な購入契約を結んでいた。
売れ行きはぼちぼちだったようで定期購入に喜んでいた。
その後に鉱石のお店に向かったが、鉱石屋の店主はキリーエを見るなり涙目になっていた‥
店主はほとんど売れないトロナ鉱石が売れる事に喜んでいたが、まとめて買うからとかなり値段を交渉され、結局最終的には涙目になっていた‥
ホット商会がロッタスを席巻するのもそう遠くないのかも知れないな。
「ほらマルコイさん!次は重曹の作り方を教えてくれんと。早く宿に戻って‥その前に商会の人間呼んで工程を覚えさせて、その作業の分野も作らんといけんよね。あ〜忙しい!」
口では忙しいと言いながらキリーエはすごく楽しそうに見えた。
引きずられながら俺はそう思うのだった。
ナーシスと会ってから少し時間は経ってしまったが、久しぶりにアリアのお店に行く事にした。
「アリアいるか〜?ナーシスから聞いたんだけど呼んでるって聞いたから寄ったぞ?」
俺が声をかけると店の奥からアリアが出て来た。
「おーマルコイさん。お久しぶり。」
「おう。ナーシスに聞いたけど何か用事があるんだって?」
「そうそう。前にマルコイさん紹介するって言ってた【魔道具士】の事なんだけど、今度こっちに来るそうだよ。」
アリアは椅子に座りながらそう言った。
「突然だな?でも何か用事があってくるんじゃないのか?その時に紹介してもらっていいものなのか?」
こっちには錬金術ギルドがないので、何かなければ来る必要もないと思うのだが‥
「マルコイさんも出るって言ってた闘技会を見に来るんだって。いつもこの時期に観光する予定にしてるけど、忙しいみたいでなかなか来れなかったんだ。でも今年は都合がついたから来るみたい。」
成る程、闘技会自体かなりメジャーな大会のようだったからな。
そりゃ見学に来る人もいるって事か。
俺は知らなかったけど‥
「それじゃその時に紹介してもらえるって事か?」
「そうだね。それにもうそろそろ着くと思うよ。手紙もらったのもずいぶん前だし、少し前に来て私の家に滞在したいって言ってたから。」
それは助かるな。
セイウットに行くのはしばらく先になる予定だったからな。
「それはありがたい。それと‥」
俺は店の中を眺めながら気になっていた事を尋ねる。
「しばらく来ない間に店の中がずいぶんとすっきりしたな。」
以前来た時は物が結構ごちゃごちゃしており、何が置いてあるのか分かり辛かったが今は用途毎に商品が陳列されており一目で何が置いてあるのかわかるようになっている。
その中で見覚えのある商品があった。
しかし名前が変わっている。
「この小ポーション(体力)ってのは‥」
「そ。前は体力劣化ポーションで売ってたやつ。」
商品名は小ポーション(体力)効果:体力ポーションを薄めた物で、擦り傷や切り傷に使用できる。深い傷には中ポーション以上の使用が必要。
わかりやすい。
これって‥
「これキリーエが?」
「そう。キリーエちゃんが来て考えてくれたの。」
商品の陳列から内容まで全てやったくれたのか。なんか色々と有能だなキリーエは。
「色々アドバイスもらって店の内装まで変更してくれて。それにお代もいらないって。マルコイさんの紹介だからって言ってた。」
「そうか。それはよかったな。」
しかしキリーエの無料か‥
少し怖いな。
「キリーエさんがマルコイさんの事だからこの仕事も儲けに繋がるはずや〜!って言ってたよ。」
すいませんキリーエさん。
今回のは儲けに繋がりませんよ!
無料のキリーエより怖い物はない‥
俺がキリーエさんの恐怖に慄いていると、お店の入り口に人が来たようだった。
女性のようだったがお客さんかと思いアリアに声をかけようとすると、その女性が先にアリアに声をかける。
「アリアー!着いたよー!」
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