闘技会予選の当日。
予選に参加するBランク冒険者は多いため、5人程度が1度に闘技場に上がり勝ち抜き戦をするそうだ。
それでもBランクは30名以上参加するので、2日に分けて開催するらしい。
組分けを確認したところ、自分たちはイザベラさんが言っていた通りきちんと別れており初日にアキーエとミミウ、2日目に俺が参加となる。
本戦への参加は毎年S.Aランクの参加状況によって変わるそうだが、今年は7名が本戦に上がるそうだ。
「2人とも無理はするなよ。この魔道具の効果は一回限りだからペンダントの魔石が割れたら必ずギブアップする事。いいな。」
脳筋大国の大会だけあって故意に相手を殺すと失格になるが、それ以外は自己責任だ。
だから毎年何人かは亡くなっているらしい。
そのため俺はアキーエたちに装備品以外にもう一つ魔道具を渡している。
致命傷を受けた時に一度だけ身代わりになってくれるもので、身体に受けた一定以上の負荷のみ肩代わりしてくれる品物になる。
しかし一度しか効果はない上に、準備まで時間もなかったので二つしか作る事が出来なかった。
俺はエンチャント:水があるから何とかなるとおもっているが、アキーエたちは回復手段がないからな。
大会にはポーションや回復魔法を使える人が待機しているそうだが致命傷は防ぎようがない。
魔道具がバレたら大事になると思うが、2人が死んでしまう事の方が俺は嫌だ。
それ以外は些細な事でしかない。
まぁバレたら逃げるけどな。
「わかってるわ。無理はしないから心配しないで見ていて。」
「大丈夫ですぅ。マルコイさんから貰った装備で勝ち上がるですよ!」
自分の事ならいいが、2人の事となると気が気じゃなくなる。
「わかった、くれぐれも無理するなよ。」
「もう。朝から何回言うのよ。そんなにわたしもミミウも弱くないわよ。安心して見ていられるように快勝してあげるわ。」
確かに心配し過ぎか‥
2人とも同じBランク相手なら負ける事はないだろうな。
大会参加者も2人には度肝を抜かれると思う‥
「それじゃ行ってくるですぅ!」
最初はミミウの予選からだ。
力強く会場に歩いて行く小さな背中を見送った。
大会の会場は5人で戦っても充分過ぎる広さがある。
その5人の中にいるミミウは自分の装備の最終確認をしているようだ。
実はミミウにはタワーシールドを魔道具化して渡してある。
自分で作っときながら反則級の物だ。
こんな盾があったら面白いなとか考えながら作ったらとんでもない品物に仕上がった。
ミミウなら上手く使う事が出来るだろう。
「それでは獣人国闘技会予選第一回戦を開始する!」
閲覧席も含め会場内にいる全員に緊張が走る。
会場にいる5人はそれぞれ誰を相手にするか考えているのだろうか。
「それでは各自準備はいいか?それでは始めっ!」
さてさて、会場中がうちのミミウさんの強さに度肝を抜くことになるだろうな。
そして会場の中で戦いが始まった。
ミミウはまず自分だ戦う相手の動向を観察していた。
自分に関心が向いている者がいないか、誰が誰を意識しているのか、そして誰が最初に動くのか。
勝ち抜き戦で多対一になるのは状況的によくない。
たとえそうなったとしても捌ける自信はあるがリスクはなるべく避けたいところだ。
男が3人に女が1人。全て獣人族のようだ。
Bランクともなるとある程度は知っている顔がいて実力もわかっていたりするようだが、Bランクに上がったばかりの自分は実力が未知数な事もあり、2人に警戒されているようだ。
自分に関心がない2人はお互いで間合いをとっており一対一の様子だが、残り2人の男女はどうやら協力して自分排除する事にしたらしい。
4対1の可能性も考えていたので半分になった状況は好機と言えるだろう。
2人が自分を挟むように間合いを取り出した。
このまま間合いをとりながら後退するのは悪手だ。
会場がいくら広いとはいえ、会場の外に出たら失格となるため、出来るだけ中央付近で戦うのが好ましいだろう。
挟み込まれるのを避けるため男に向かい突進する。
驚いた男は慌てて牽制で手に持っていた剣を振るうが、スキルレベル1とはいえ【俊足】を持っているのだ、あっという間に懐に入る。
そし軽くシールドバッシュをして離れた。
バックステップで距離をとった後にそのまま勢いよく突進する。
そしてミミウはそのままタワーシールドごと男にぶつかった。
すると男は‥
宙に舞った。
ミミウと戦う人はよく飛ばされてるよなぁ‥
今回は過去最高だな。
ミミウが【盾鬼】と【腕力】を持っているとはいえ、あまりにも不自然なほどに男は弾け飛ばされた。
そして男はそのまま場外まで飛ばされ失格となった。
男の飛ばされ方が不自然すぎて女は警戒したまま動けない。
すると女がミミウに引っ張られるように突進する。
いや、実際に引っ張られたんだろうな。
女は慌てて持っている斧をミミウに振り下ろすがタワーシールドに阻まれ、体勢を崩したところにミミウのショートスピアが迫る。
既の所で身を捻り躱そうとするが脇腹にショートスピアをくらい軽くない怪我を負う。
女は立ち上がるが、思ったより傷が深かったようでギブアップを申請した。
戦いが始まって数分の間の出来事だった。
ミミウはタワーシールドを構え、1対1で戦っている残り2人に向かっていった。
うん。
ミミウは魔道具を上手く扱えているようだ。
実はミミウに渡した魔道具は『磁力』の能力をもった魔道具だったりする。
相手が鉄製の鎧を装着していないと効果がないのだが、高ランクになれば皮だけの鎧をつけている冒険者はほとんど皆無だ。
しかも鉄製の武器については攻撃が盾に吸い寄せられる。
【アルケミストメーカー】のスキルを憶えてから、魔力回路をつけたり剥がしたりできるので、ちょっとした冗談で作ってみた。
そう冗談で‥
最初はミミウに向けて使用して驚くかなぁとかイタズラで使用したのだが、ミミウは甚くお気に召したようで、そのまま正式採用となった。
女の方は軽鎧だったので磁力を使っても身体が少し引っ張られるくらいだったが、最初に飛んでった男はフルメイルだった事もあり、彼方に飛んでいった‥
ようは何でも使い様って事だな。
ミミウはシールドを渡した後も色々と試行錯誤していたが、それが功を奏したな。
そして会場では1対1の戦いを満身創痍で勝った男が、ミミウのシールドバッシュで吹っ飛ばされ、首元にショートスピアを突きつけられていた。
「そこまで!勝者ミミウ!」
闘技会予選をミミウは問題なく勝ち上がった。
これでミミウは本戦出場の資格を得た事になった。
ミミウが会場から降りてくる。
特に怪我もない様だ。
元々持っていたスキルがBランク相当まで上がっている上に模倣スキルと魔道具で強化されてるからな。
それでもやっぱりお兄ちゃんは心配してました。
「やったですぅ!」
ミミウは無邪気に喜んでいるが、会場は結構騒然としている。
確かにBランクに上がったばかりの冒険者が、予選とはいえ無傷で本戦に上がったのだからな。
「魔道具化したタワーシールドはどうだった?対人戦ではかなり有効だったみたいだけど。」
「戦闘中の切り替えも練習の甲斐あってタイミングよくできました〜。」
確かに試行錯誤しながら練習してたからな。
ミミウが戦って相性が悪いとしたら魔法使いだろうけど、魔法使いは今回の大会には出場しなさそうだしな。
鉄製以外の武器を持っているか、格闘士が相手なら『磁力』が使えないけど、素の実力もかなりのものだし。
魔力回路である魔石はタワーシールドの内側につけており、戦闘中でも切り替えができるよう魔力回路に手動のスイッチも付けている。
相手に『磁力』をつけるには1度タワーシールドを相手に当てる必要があるが、ミミウはシールドバッシュで相手のフルメイルに『磁力』をつけた様だったな。
しかし良かった。
これでミミウは本戦参加か。
あとはアキーエと俺だが、俺だけ負けて参加出来ないとならないように頑張らないと。
「それじゃ行ってくるわね。」
おっとアキーエの出番か。
アキーエはいつもの魔法使いっぽい格好ではなく、動きやすいズボンスタイルに革製の鎧を付けている。
そしていつも戦闘の時に持っていた杖は持っていない。
代わりにガントレットを腕に付けている。
肘辺りまで覆っているガントレットで、肘の辺りには両方とも魔石が嵌め込んである。
アキーエにはガントレットを魔道具化して渡していた。
ミミウのような切り替えは必要ないが、左右別の魔道具に仕上げている。
この格闘士然としたスタイルで魔法使うんだから反則だよな。
アキーエは会場に入って拳を開閉して、ガントレットを具合を確かめている様だ。
アキーエの相手にも俺の知り合いはいないようだ。
知り合いと言っても『獅子の立髪』のアマンダさんたちと『雷鳴の音』のスコルさんくらいだけど。
あ、あとノギスがいたな。
ノギスあたりはアキーエにボコボコにされても面白かったけど。
対戦相手は事前に揉め事が起きない様に、当日まで分からないようになっている。
1日目か2日目くらいはわかるけど、それ以外は会場にきてからじゃないとわからないからな。
今回アキーエの会場も5人のようだ。
全て男のようで、獣人族が3人で人族が1人か。
全員が武器を構えているのを見るとやはり魔法使いは参加自体が珍しいかもな。
ただアキーエも純粋に魔法使いではないし、見た目は完全に格闘士だからな。
「全員準備はいいか?」
会場では最終確認があっている。
「いいようだな。それでは闘技会予選二回戦を始める。」
「それでは‥始めっ!」
さてさて会場の方達にはアキーエにも驚いてもらいましょうかね。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!