ミミウは勝った。
それも圧倒的に快勝した。
まだ付き合いは短いけど、ミミウの事は姉妹のように思ってるし、かけがえのない存在だ。
だから‥
だからこそ‥わたしも負けれない。
近い存在だからこそ余計に負けたくない。
当日まで本戦でマルコイやミミウと戦う事になったら自分は本気で戦えるのだろうかとか、魔法使いの自分は予選で負けてしまうかもしれないなんて色んなことを考えた。
そして人って本気でいろいろ考えたら、頭から煙が出るってほんとだったってわかったわ。
マルコイが凄く焦って生まれて初めてポーションって飲む事になったわよ。
今まで病気らしい病気もした事なかったから、マルコイは慌ててアキーエに何かあったら心配だからって言ってくれたけど、内容が内容なだけに嬉しかったけど、恥ずかしかった!
マルコイに言ったら反対すると思ったから、闘技会に参加する事をギリギリまで言わなかった。
ミミウとは2人で話して決めたけど、ミミウもわたしも強くなっている事が実感できていたから、わたしたちがマルコイが心配しなくていい、いつまでも一緒に戦っていけるんだよって思ってくれるように頑張ろうと思って参加を決意した。
魔族と戦ってからマルコイはわたしたちの事を凄く心配する様になった。
確かに死にかけたからそうなってしまうのは仕方ないと思う。
でもそれじゃダメなんだって。
背中を安心して預けてくれる様にならないといけないんだって思う。
大会前にもマルコイは自分についてきてくれるかって聞いてきた。
もちろんマルコイが行く所について行くって答えたけど、言葉だけじゃなくて行動でもきちんと証明してみせる!
戦いが始まった。
参加者で1人強い人がいるみたいで、アキーエ以外の参加者はその人を警戒しているようだ。
2人がその男と戦いを始めて、1人はアキーエを警戒しながらその男を牽制している。
狙われた男は2人に挑まれ、1人に牽制されている事で苦戦しているようだ。
アキーエは少しの間様子を見ていたが、すぐに行動を開始する。
牽制役をしていた男に向かって走り出し間合いを詰める。
男は予想していたのか、別の男への牽制からアキーエへと意識を向ける。
アキーエが格闘士である事を確認しているためか、拳が届かない間合いから剣を振るっている。
その剣をアキーエは自身のガントレットを使い弾く。
するとアキーエのガントレットが‥
爆発した。
剣を振るった男も何が起こったのかわからず、呆然としている。
そして煙の中からアキーエが男の目の前に飛び出してきた。
慌てて剣を振るいアキーエを斬ろうとするが、男の剣先は先程の爆発で折れていた‥
アキーエの前蹴りが男の鳩尾に刺さる。
模倣スキル【格闘士】と【下肢筋力上昇】のコラボキックだ‥
見てるこっちまで悶絶しそうになる‥
男は倒れ込み嘔吐する。
その首元にアキーエが手刀を入れ、行動不能にする。
そしてアキーエは他の3人に目を向けて移動を始めた‥
「何だ?今何が爆発したんだ?」「爆発物じゃないのか?」「魔法が近くで爆発したんだろ?」
観客に近い場所で見学していたためか、観客席から様々な声が聞こえてくる。
まあ確かに何が起こったかわからないよな。
あれがアキーエの魔道具化した右ガントレットの能力だ。
単純にアキーエの魔力をガントレットに溜め込んで、衝撃で放射するだけの能力だ。
任意で使う事は出来ず、一定以上の衝撃で発動する。
使い勝手はあまりよくないと思うが、アキーエが希望したのだ。
模倣スキルの【格闘士】と【下肢筋力上昇】では接近戦を得意とする高レベルスキルと渡り合うのは難しい。
模倣スキルの【格闘士】と【下肢筋力上昇】では相手に大きなダメージを与える事ができないのだ。
蹴りが使えるのならいいのだが、経験が浅いアキーエでは逆に相手に隙を与える事になる。
接近戦での攻撃手段の確保。
それがアキーエの希望するものだった。
ガントレットは爆発によるダメージは受けないよう放射する方向性を定めている。
その結果、衝撃を与えると一定の方向に魔法を発現する魔道具になり、相手を拳で殴りつけるとそのまま魔法を近距離で爆発させるという物騒な品物に仕上がったのだ。
そしてこのガントレットは防御のために相手の攻撃を受け止めても発動する。
つまり先程の爆発は、アキーエが相手の攻撃を防御した際の衝撃で魔法が発動し剣をぶっ壊したのである。
我ながら恐ろしい兵器を開発したものだ‥
あれって、ツッコミくらいで爆発しないよな?
試してないけど、僕は心配です‥
突然の爆発と1人倒された事で、会場内のパワーバランスが変わった。
それに気づいた3人の男はすぐに動く。
1人を倒そうとしていた2人組はすぐに間合いをとるために下がる。
しかし攻撃を受けていた男は1人を追いかけて斧を振り下ろす。
それを何とか防ぎ、もう1人の男に助けを求めようとするが、男はアキーエを警戒してか行動が遅い。
男は何度が攻撃を受け止めていたが、ついに斧が身体を捉え始める。
まずいと判断したのだろう。アキーエを警戒していた男が助けに入る。
また開始直後の状態に戻る。
この後はアキーエがどう動くかで戦況が進む事になるな。
そしてアキーエ戦う相手を決めたのか、ゆっくりと歩き出す。
3人は攻撃をやめ互いを警戒ことに移行する。
そしてアキーエの動向を確認するために、アキーエを‥
「弾けよ!灼熱の炎矛!」
はい。
アキーエの魔法が炸裂しました。
いつもの倍は炸裂しております。
接近戦を警戒していた男たちはまとめて魔法を喰らっている。
ふははは。
君たちは何故アキーエが遠距離から攻撃してくると思わなかったのかね?
普通は思わんわ!
あんな格闘士然とした格好で凶悪な魔法を放つなんて誰も思わんよ。
アキーエの魔道具化したガントレットの左は杖と同じ魔法の媒体になっている。
魔法の威力、発動までの工程を最適化しており杖を使用しているのと同じように魔法を発動できるのだ。
この左右のガントレットでアキーエは遠近共に戦える戦士になったのだった。
高火力の魔法を喰らったアキーエの対戦相手達はこんがりと焼けていた。
属性魔法:爆炎については使い慣れているためか、丸焦げだがポーションや回復魔法で回復する程度のダメージを与えている。
最初に3人かかりで狙われていた男は、流石にまだ動けるダメージではあったが、これ以上の戦闘は難しいと思われ負けとされていた。
脳筋だから戦いの続行を希望するかと思ったが、結構あっさりと負けを認めていた。
男が負けた後に自分の前を仲間と思われる人に肩を借りながら出て行くときに、「あれはまだ強くなるぞ。だからかな。完璧に負けて、負けを素直に受け入れることができた‥」と晴れやかな表情で言っていたのが聞こえた。
勝者のアナウンスが聞こえ、アキーエの名前が呼ばれる。
観客に軽く挨拶をした後にアキーエはこちらに戻ってきた。
「どうだった?快勝できたと思うけど?」
アキーエは嬉しいのを隠す事なく笑顔で聞いてきた。
「完璧だったな。アキーエもミミウも本戦からは警戒されるとは思うが、対策の取りようがないからな。2人とも本戦でもいいとこまでいけるだろうな。」
「ありがとう。じゃあ本戦の決勝はわたしとミミウになるかもね。」
にんまりと笑ってアキーエが言う。
確かにそれくらい強かったと思う。
これは俺も負けてられないな。
「はは。それに俺も参加できるように頑張るよ。」
本戦はAランクや人数は少ないがSランクの冒険者も参加する。
この大会の優勝者は冒険者ランクが1つ上がる事が約束されている。Sランクの冒険者もSSランクになれるため、参加できる冒険者は積極的に参加している。
自分たちの強さがどこまで通用するかわからないが、いけるとこまで行ってみたいと思う。
その日は予選がもう一試合あった。
この試合ではドラゴン討伐で一緒に戦った、アマンダとアックレが参加していた。
2人とも格闘士スタイルでアマンダが【身体能力向上】アックレが【格闘鬼】だったはずだ。
戦いはアマンダが2人を相手どって善戦し、1対1で槍士を倒したアックレがきた事で2対2になった。
アマンダが1人を倒したがアックレは槍士を倒した時のダメージが大きかったのか、剣士の男から戦闘不能になるダメージを受け負けてしまった。
その後アマンダとアックレを倒した剣士が1対1となったが、アマンダが切り札の【強化】を使用して勝利した。
アマンダの切り札【強化】は単純に自分の能力値を底上げしてくれる。しかしレベルが低いと効果がなく、レベル1とレベル2には隔絶した差があるようだ。
俺が使用した時は能力値はほとんど上がらなかったからな。
それに使用時間が決まっており使った後の疲労感も凄い。
しかしアマンダはスキルを上手く使い短時間で勝利をもぎ取っていた。
これで今日の闘技会予選が終わり、ミミウとアキーエ、それに知り合いのアマンダさんが本戦に勝ち上がる事ができた。
明日は自分の試合になる。
アマンダたちに恥ずかしくない戦いをしないとな。
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