『飯処アキーエ』はここ首都では取り扱っていない米と呼ばれる食材を使用しているお店である。
ここ最近にできた店だが、米が珍しいのと美味しい事もあって長蛇の列らしい。
そりゃそうだ。
米はセイウットからロッタスに来る途中にあった村で見つけた食材である。
それまでは家畜の餌として使用されていたが、俺のスキル【異世界の知識】によって食べれる物だと判明しキリーエが専属契約を結んでいた。
それがすでに店で出せるほど商品化していたとは‥
「あっ!マルコイさん!来てくれたんか?よかった本当は店を出す前にマルコイさんに試食してもらいたかったんやけど、忙しそうやったからアキーエちゃんとミミウちゃんにお願いしたんよ。」
そしてまたしても新事実‥
知らなかったのは俺だけらしい‥
「ほらいじけないの。マルコイが忙しそうにしてたから気を遣ってくれたんだから。」
むぅ。アキーエにはお見通しだった。
「それじゃこちらにどうぞ。」
お店に入るために長蛇の列になっている人たちの横を通る。
好奇の目で見られているような感じがして気が引けるな。
通してもらったのは個室になってる部屋だった。
「ここは知人やお得意さんとかに何かに使ってもらう予定の部屋なんよ。でも最初はマルコイさんたちに使ってもらう予定やったから、使用するのは今日が初めてなんや。」
それは素直に嬉しいと思ってしまった。
しかしそれはそれ。
「キリーエ。お店の名前をアキーエにしたのはなんでだ?」
するとキリーエはこちらをキラキラした目で見てくる。
「うちは首都で商いをする上で、仲間がいたから成功する事ができた。それを絶対に忘れないでいるために仲間の名前をつけたんや。だからミミウちゃんやアキーエちゃんのおかげでここまで来る事ができたっていう証明にしたかったんや。」
「で、その本性は?」
「やっぱり女の子が看板背負ってるって思ったら人気が出るやん。アキーエちゃんもミミウちゃんも可愛いから看板見たお客さんも来るからがっぽがっぽや。」
キリーエはやっぱりキリーエでした‥
「ここはほとんどお米を使用した料理をだしとるけど、今までがなかった食材やから試行錯誤なんよ。何か意見があったらどんどん言ってな。」
奥から料理が運ばれてくる。
コース料理のようで、食べ終わったら次が出てくるシステムのようだ。
具材のたくさん入ったおにぎりや米を薄く伸ばして間にお肉を挟んだ物。
お米とお肉を混ぜて焼いた物やすり潰したお米を調味料をつけて焼いた物など様々な料理が出てきた。
お米の料理だけあってなかなかのボリュームで俺はすぐにお腹いっぱいになった。
「マルコイさんどうやった?」
「全部美味しかったよ。凄いな。まだ米を使うようになってそれ程時間も経っていないのに、ここまで色んな料理をするなんて。」
「逆に今までなかったからいろんな物にアレンジしてみようと思ったんよ。マルコイさんの知識で他にも何かある?」
そうだな。
かなりの料理を作っていて異世界にあるきりたんぽやライスバーガーなんてのも独自に作り上げていたから頭が下がる。
「他はせんべいとかはどうだ?」
キリーエは俺の言葉を聞いた瞬間に俺の横に座っていた。
え、何?瞬間移動か何かですか?
「せんべいって何?どんな料理なん?」
「今のお米でできるかわかんないけど、米を精米の時点ですり潰した後に蒸して搗き上げてから‥」
料理を食べた後もしばらくその店から出る事ができなかった‥
その間ミミウはずっと料理を食べてたけどね。
どうやったらあの量があの体に入るのが1番の謎だ‥
闘技会は約一ヶ月後に開催予定との事だった。
そのため、それまでの時間は討伐依頼と自由時間の半々とした。
俺がサミュウさんの所にダマスカス鋼の作製に行ったりアリアの店に行ったり忙しくしていたため、皆が気を遣ってくれたのだ。
今日もサミュウさんの作業場にお邪魔して作業をする予定だ。
ちなみにサミュウさんの商品はキリーエに大部分をおろす事になったそうだ。
商品を作るのは一流だが、お店の経営は元々些か不安があったようで今回の件でお店には最低限の品を置いて、作製作業をメインでやっていくそうた。
実は今回の件も俺が持って来た話のため、売上の何割かがパーティ資金に入っているそうで俺のやる気も爆上がりだ。
商品はホット商会が扱う事になっており、キリーエが首都を離れても運営できるようにしているそうだ。
流石キリーエ。
サミュウさんの作業場に向かっていると、向こう側から見知った顔がやってくる。
ナーシスだった。
「マルコイさんっ!お久しぶりです。」
ナーシスとはアリアと共にご飯などを食べに行くような関係になっていた。
ナーシスもだが、アリアの話も面白くて俺のちょっとした息抜きになっている。
「ナーシス久しぶりだな。今日はパーティで活動してるのか。」
俺は駆け寄って来たナーシスの後ろから歩いてくる男女に目を向けて尋ねる。
「はい。私のパーティメンバーで、Cランクパーティの『狂乱の剣』の皆さんです。」
おいおい‥
随分と物騒なパーティ名だな。
「みんな、この人が私がお世話になってるBランク冒険者のマルコイさんです。」
「あ、この人が〜。ナーシス、意外とイケメンじゃない!」
薄い茶色髪をした猫みたいな女の子が嬉しい事を言ってくれる。
「少し眠そうだけど。」
それ以外に俺の表現はないのか‥
今度から目をいっぱいいっぱい開けておこう。
パーティメンバーを見ていると1人こちらを睨みつけるような目で見ている男の子がいる。
多分ナーシスと同じ歳くらいなんだろうけど、さっきまでは普通だったのにナーシスが俺の事を紹介したとたんに目つきが鋭くなったな。
確か初対面のはずたが‥
「あんたがマルコイさんか。ナーシスが随分とお世話になってるようで。あんた闘技会に出るんだろ?俺も出るからよろしく頼むな。」
彼はそう告げると、そのまま先に進んでいった。
「ボコボコにしてやる‥」
何か物騒な事を言っているな。
なるほど彼がCランクでギルドから推薦される冒険者か。
しかしなぜここまで交戦的なんだろう?
恨まれるような事をした覚えがないのだが‥
すると先程の猫っぽい女の子がこちらに寄ってくる。
「あいつノギスって言うんだけど、実はナーシスに惚れてるんだよね。でもナーシスがあなたの話ばったりするから。それで闘技会にあなたが出るって聞いて、参加するって決めたみたい。」
なるほど。
これは負けれません。
ナーシスの事は妹みたいに思ってるから、お兄さんとしては相応しいかどうか見極める必要があるからな。
「あいつがナーシスに惚れてるのはナーシス以外は知ってるんだけどね。あと、あいつ見かけより強いから気をつけた方がいいよ。」
確かに希少スキルって言ってたもんな。
少し楽しみだ。
「もう!ノギスったら何なのあの態度!ごめんなさいマルコイさん。ほんっとに子供っぽいんだから。多分マルコイさんが高ランク冒険者だから嫉妬してるんだと思います。後できつく言っておきますね。」
ふっふっふ。
残念だったなノギス君。
君の気持ちは全くナーシスには伝わっていないぞ。
恋に必要なのは、かけ引きなんだよ。
俺はスキル【異世界の知識】によって異世界の恋愛事情にまで精通しているのだ。
なので俺くらいの恋愛マスターになると、相手がどんな思いを持っているかすぐにわかるってものだ。
はっ!
ど、どこかでアキーエがせせら笑っているような気がするっ!
俺がキョロキョロと周りを窺っていると何故かにこにこしながらナーシスが近づいてくる。
「今日はこれからサミュウさんの所に行くんですか?」
「ああ。少し仕事をする予定だからな。」
「そうなんですね。あっ!そう言えばアリアが用事があるって言ってたので、お暇な時にでも顔を出してあげてください。」
アリアの用事?素材の採取だろうか‥
「わかった。近い内に寄ってみるよ。」
「ありがとうございます。それじゃよろしく頼みますね。」
パーティメンバーが先に行った様で、話足りなさそうにはしていたがナーシスは追いかけて行った。
ナーシスは最近よく笑うようになったな。
最初は謝ってばかりだったけど。
あと笑い方がとても優しくなった。
誰かに恋でもしているのかな‥?
むっ!
アキーエのため息が聞こえたような‥
その後サミュウさんの所に寄ってダマスカス鋼のインゴットを作製した。
最近サミュウさんは刃先だけではなく、他の職人とも協力して軽鎧の作製にチャレンジしているようだ。
ダマスカス鋼を全面に使った鎧は作製が難しいようで、結果軽鎧になったみたいな事を言っていた。
完成したら買わせてもらうようお願いしたら、試作品にはなるけど無料提供してくれるらしい。
無料って素晴らしいよね。
キリーエも時々来ているそうで、商品に関してはもの凄い売れ行きで受注が追いつかないとか。
これほどまでに売れたのはダマスカス製品の品質の良さは勿論のこと、キリーエの商人としての能力の高さがあるからだろう。
ただサミュウさん曰く、時々商品を見ながら「‥‥材料費については安価で人件費はマルコイさんがこのくらいで、サミュウさんが‥純利益が‥うひひひひひ‥」
とか聞こえてくるので少し怖いと言っていた。
そこは生暖かい目で見ていてもらおう‥
サミュウさんの手伝いも終わり宿に帰る途中、市場に寄る事にした。
時々面白いものが置いてあったりするからな。
しかし今日は食材などはいつもと変わらず目新しい物はないようだ。
帰路に着こうとした時にある店の商品が目に入る。
疲れたとには酸っぱいものを!粉末ありと書かれた看板があった。
もしかしてミミウと約束した品物かもしれないと思い店に立ち寄る。
「お?お兄さん一つどうだい?うちは疲労回復の魔法の粉を売ってるんだ。」
響きが怪しい‥
「疲れている時は酸っぱい物を摂ると回復するだろう。しかし酸っぱい果実なんて荷物になるから持っていけない。そんな時にこの粉なら場所を取らずにたくさん持っていけるぜ!どうだい?」
「一つもらおうかな。」
俺の予想が正しければスキル【異世界の知識】にあるあの材料だと思うが‥
試してみないとわからないな。
そう思い商品を多めに買うことにした。
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