「わたしは賛成。」
アキーエは迷いもなく賛成してくれた。
アキーエは属性魔法の系統進化を目指すなら、モンスターと戦う機会が多い王都を離れるのは嫌がると思ってたけど‥
「いいのか?アキーエはてっきり王都に残りたがると思ってた。」
「属性魔法の系統進化を目指したいのは本音よ。でもそれと同じくらい自分を守る術を得たいと思ってるの。」
「わたしは魔法という攻撃手段はあるけど、それ以外は誰かに守ってもらわないといけない。でもわたしが自分の身を守れるなら2人とも前衛として戦えるでしょ。」
なるほど。確かにアキーエの言うことも一理ある。
アキーエは魔法使いだが、鈍いわけじゃない。身体能力系のスキルを持っている人に比べると劣るかもしれないが、素の身体能力は立ち回りを習得すれば、戦えるまではないにしろ攻撃を避ける位置取りを意識して動けるはずだ。
ナイスなぼでーも放てる事だし‥
しかしそういったパーティの攻撃力を上げる方法もあるか‥
さすがアキーエだな。
「ミミウはどうだ?」
「私も戦闘術に長けた獣人国に行くのは賛成ですぅ。タンクとして、もっと的確な動きが出来るように盾士のレベルだけじゃなくて立ち回りも勉強したいですぅ。それにアキーエさんが言っていた、私も積極的に戦闘に参加するのであれば、ハンマーでの戦い方ももっと学びたいですぅ。」
「あとシュワシュワドリンク飲みたいですぅ。じゅるり‥」
うん。最後がなければ決まってたけど‥
とりあえずハンカチハンカチ。
よかった。いくらパーティとはいえ俺の目的だけで動くのは申し訳なかったし、アキーエは魔法の習得、ミミウは屋台があるからあまり王都を離れたくないだろうって勝手に思い込んでいたな。
「わかった。それじゃ次の目的地は獣人国に決まりだな!」
「そうね。」「頑張るですぅ!」
「でも出来ればCランクまで冒険者ランクを上げてから移動したかったところだけどね。」
「それは獣人国に行ってもあげられるでしょ?」
「いや、やっぱりCランクって言うと獣人国に行った時に扱いが違うかなと。あと獣人国のギルドの受付嬢の見る目が、がふっ」
アキーエ‥
まだ全部言ってないのにナイスぼでー‥
「ところで話は変わるけど、魔族との戦いの途中からマルコイ別人みたいに強くなってたじゃない?あれについて説明してくれない?」
まだプルプルする脚を叩いて力を入れた後、椅子に座って魔族との戦いで起こった事を話す。
「あ〜あれね。強さ自体が上がった事については説明できるんだけど、なんでってのが説明できないんだよね。」
「どう言う事?多分スキルが関係あるんだろうなっては思ってたけど、マルコイが模倣したスキルで急に強くなるようなスキルはなかったはずだけど、それでもやっはり模倣スキルが関係あるの?」
「その件については、少し思うところがあってさ‥」
魔族との戦いで強くなれたのは、模倣していたスキル【勇者】が発現した事によるものだ。
それはわかる。しかし何故急に発現したのか‥
「スキル【勇者】は魔族に対してのみだとは思うけど、魔族と敵対してる時は急激に全ての力が上がるスキルだった。」
「これについてはスキル効果として説明できるんだ。多分伝承に残っている過去の勇者とかは、このスキル【勇者】のレベルが上がる事で魔族だけではなく、魔王とも戦う事ができたんじゃないかな。でも俺が模倣したスキル【勇者】は今の模倣スキルのレベルでは発現できなかったんだ。でも魔族にやられて動けなくなった時に、頭に模倣スキルを使った時の声が聞こえたんだ。『著しい身体能力低下を確認しました。周囲に魔族を確認。模倣スキル【勇者】を一時的に開放します。』てね。そして発現時間は120秒。開放時間が過ぎたら動けなくなる程の疲労感と全身に痛みが走った。本来使えないスキルを無理矢理使った反動みたいだった。」
「それはマルコイを守るために発現したんでしょ。おかしな事ないんじゃない?」
アキーエが不思議そうな顔でこちらを見ている。
うん、くんかくんかしたい‥
睨まれた‥
「ただのスキルがそこまで判断するなんて聞いたことない。スキルが自分の身体の状況を把握してるって事だよ。いくら他にないスキルと言ったって、それで済ませられるレベルじゃないだろ。あまりに俺にとって都合が良すぎて気味が悪い‥」
「それこそ‥誰かの意図が絡んでるような、まるで俺が死んでもらったら困るみたいな気がしたんだよ。」
そう。まるで都合が良すぎる。死ぬところだったから、スキルに助けられた事は感謝している。
自分が得たスキルの優秀さに、感謝こそしても、なくなればいいなんて思ってはいない。
しかし今回の件についてはあまりに不可解すぎる。
「でもスキルは魂に結び付かれたものでしょ?そんな物を誰かが後からどうにか出来るもんじゃないでしょ。それこそ産まれる前からの話になるわよ。そんな事できるなんて女神様でもない限り無理だわ。」
確かにアキーエの言う通りだ。
女神でもなければスキルに細工なんて出来やしない。
もし持って生まれて来るスキルを変える事が出来るのなら、スキルで人生が決まってしまう事もないしな。
「それはそうなんだけどさ、なんか釈然としなくてね‥まぁ、でもあんな思いは2度としたくないから、検証したくてもできないんだけどね。」
自分が保持しているスキルなんだから、自分を害するような事はないと思ってはいるんだけどね。
「ほら暗い顔しないっ!せっかく強くなるためにこれからする事も決まったんだし。決起会でご飯でも食べに行きましょう!」
確かに今はわからない事を考えてても仕方ないか‥スキルレベルが上がればわかる事もあるだろうし、獣人国に行ってから考えよう。
マルコイはとりあえずミミウからびちゃびちゃになったハンカチを回収してご飯を食べに行った。
「俺たち王都を離れようと思ってます。」
その後しばらくの沈黙が流れる。
「また急ですね。何か用事が出来たのですか?」
サベントさんは少し眉を顰めて聞いてくる。
「単純に強くなるためですよ。魔族と戦って自分の実力を思い知らされました。」
「王都では強くなれないと?」
「そうは言いません。しかし今までモンスター相手に戦ってスキルを磨いてきましたが、相手が魔族となると話が違ってきます。対モンスターの強さではなく、対魔族の強さが必要になると思います。だから対人戦での強さを得るために獣人国に行きます。」
「なるほどですね。」
サベントは諦めたかのように溜息をつく。
「わかりました。本来冒険者は自由な稼業ですからね。私が引き止める事は元々できませんから。」
「すいません。」
「でもマルコイさんは一つ私に借りがありましたよね?」
サベントさんは笑顔が張り付いたいつもの顔でこちらを見る。
「そ、そうでしたね‥」
美人の作り笑いは怖いとしか言いようがない‥
「ふふ。そうですね、もしマルコイさんが秘密を話す気になった時は、私に1番に教えて下さい。それで貸し借りなしにします。」
そう言うとサベントさん先程までの作り笑いじゃなく、花が咲くような素敵な笑顔をしていた。
ふぅ、何をさせられるかと思ったけど、それくらいなら大丈夫だ。
ただ王都に戻ってくる事は約束させられたみたいな感じだな。
しかし作り笑いじゃなくて、本当に笑ってるサベントさんは初めて見たかも。
エルフだし長命だから、ずいぶん歳上なんだろうけど、とても可愛らしい印象を受けた。
アキーエから脛蹴りも受けた‥
応接室を退出しギルドから出ようとするとバーントから声がかかる。
「おうマルコイ!Cランク昇格おめでとう!まさかこんなに早くCランクになるとは思わなかったぜ。」
「ありがとうバーントさん。一応バーントさんにも報告しとく。俺たち近々王都を離れようと思ってる。」
突然の俺の報告に目を丸くするバーント。
「‥‥そうか。問題児だったが、いなくなると思うと寂しくなるな。」
「心配するな。さっき置き土産で受付に美人を入れるよにサベントさんに直談判してきたから。」
「そんなお土産いらないよっ!おじさんは受付の仕事譲らないよっ!おじさんは死ぬ時は受付の机に突っ伏して死ぬんだからっ!」
いろいろあったけど、王都を守れて本当によかった。
でも次も守れるって保証はない。
もっと強く、それこそスキル【勇者】に頼る事なく魔族を倒せるようになりたい。
「よしっ!今日は俺が奢るから飲みに行くぞ!」
バーントさんが鼻の穴を膨らませて言ってきた。
「いいのか?」
「任せろ。こう見えてそこそこ稼いでるからな。」
俺はパーティの食いしん坊さんを見てみた。
すでにヨダレが滴っていた。
「じゃあお言葉に甘えて。」
うちの食いしん坊さんは相変わらずの食べっぷりだった。
会計の時に涙目だったバーントさんが印象的だった‥
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