『対象に模倣スキルを譲渡しますか?』
「は?」
『対象に模倣スキルを譲渡しますか?』
いや、だめだだめだ。
譲渡しない!
『スキル保有者の不承を確認致しました。譲渡を中断します』
「おいどうした?急に固まって?」
「い、いやなんでもない‥ないです。」
スコルが心配して声をかけてくれているのはわかる。
しかし少し頭が整理できず生返事になってしまった。
模倣スキルの譲渡だと?
まさか俺が模倣したスキルを他者に渡す事ができるのか?
「あ、あの訓練の事については、うちのパーティメンバーも聞けたら凄く助かります。なので後日改めてお伺いしてもいいですか?」
「それはもちろん大丈夫だ。もしかしたら闘技会で対戦する可能性もあるから、手の内まで見せる事は出来ないが自分達が強くなる為にやってきた事を教えるのは構わないよ。また協力して依頼を受ける時があれば自分達の生存率も上がるしな。」
急なお願いだったにも関わらず、スコル達は快く引き受けてくれた。
「ありがとうございます。」
次にスコル達が休暇を取る日を聞き、その日に伺う約束をしてからその場を後にした。
宿に戻るとアキーエたちはすでに戻っていたので、声をかけ俺の部屋に来てもらった。
「今日スキルを模倣しに行ったんだが、いくつか模倣する事ができたよ。それで模倣スキルのレベルが上がったんだが‥」
「どうしたの?もしかして何か出来る事が増えたわけ?良かったじゃない!」
アキーエは自分の事のように喜んでくれている。
「アキーエの言う通り出来る事が増えた。でも今度の能力は自分に対してじゃなかったんだ。譲渡って能力で他の人に模倣したスキルを渡す事ができるみたいなんだ。」
「なにそれ⁉︎もしかしてマルコイが模倣したスキルをわたしたちが使う事ができるってこと?」
アキーエが驚いた表情をして口をポカンとあけている。
最近見てなかった顔だな。
ヨシヨシしたくなるぞ‥
「な、な、な、なにするのよっ!」
あ、思うより先にヨシヨシしてた‥
「でも凄いですぅ!人にスキルをあげる事ができるなんてマルコイさん神さまみたいですぅ!」
確かに凄い能力だがミミウ、神さまは言い過ぎだ‥
目をキラッキラさせている。
こっちもヨシヨシしたくなる‥
「ん〜、気持ちいいですぅ。」
あら。
やっぱり思うより先にしてた‥
「でもおいそれと使える能力じゃないから試す事ができてないんだ。もしかしたらリスクもあるかもしれない。最悪スキルを譲渡する事で持っていたスキルがなくなってしまう可能性だってある。だから使うかどうか迷ってるんだ‥」
凄い能力だとは思う。
しかしリスクについては確認しようがない。
だからこの能力は危険性を確認してから使った方がいいのではないかと思っている。
しかし今のところ確認する方法がわからないから死蔵する能力になってしまうかもしれないが‥
「私に使っていいわよ。」
アキーエが特に考える様子もなくそう言ってくる。
「聞いてたのか?リスクがあるかもしれないんだぞ。」
「ふふん。もしわたしのスキルがなくなったとしてもマルコイなら何とかしてくれるでしょ?信じてるから大丈夫よ。」
俺は驚いて二の句が継げなくなる。
信頼してくれているのはわかってたけど、心が熱くなる。
やっぱアキーエはいい女だな‥
「本当にいいのか?」
「いいに決まってるじゃない!」
俺はアキーエの頭に手を乗せる。
少し震えているのがわかる。
いくら信頼していたとしても自分のスキルがなくなるかもしれないんだ。
怖くないはずがない。
頼むぞ模倣スキル。
俺は頭の中で模倣スキルを譲渡する事を思い浮かべる。
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。対象にスキルを譲渡しますか?』
譲渡する‥
『スキル保有者の承認を確認致しました。譲渡を行います。どのスキルを譲渡しますか?』
【格闘士】
『譲渡するスキルを確認致しました。スキルを譲渡します』
するとアキーエの身体が微かに光る。
「どうだアキーエ?何か変化はあったか?」
アキーエは自分の身体を動かして様子を見ている。
「凄い感覚ね‥急に身体の動かし方って言ったらいいのかな?そういうのがわかる気がするの。歩き方や身体の動かし方に今までどれだけ無駄があったのかわかるわ‥」
アキーエは魔法使いだし、魔法を使った立ち回りの訓練をしていたからな。
「今ならゴブリンくらいなら素手で倒せるような気がするわっ!」
そう言いながら部屋の中で動き出す。
危ないならやめなさい‥
ワンピースの部屋着を着ているのにそんなに動いて‥
スカートがひらひらしてるじゃないか!
太ももが太ももが‥
目の前でアキーエが華麗に一回転すると見事な回し蹴りが俺の太ももに入った‥
悶絶する‥
太ももが太ももが‥
ア、アキーエに【格闘士】を譲渡したのは、俺の命を脅かすんじゃないだろうか‥
「アキーエ。今までのスキルはどうなってるんだ?」
「問題ないわよ。【属性魔法:火】も【判別】も使えるわ!」
よかった。1番懸念していた事は
あは起こらなかったようだ。
しかし今後何らかの制限があるのかもしれない。
まあそれは起こってから考えればいいか。
こんな嬉しそうなアキーエに水を刺す必要もないだろう。
「それじゃ今後どんなスキルを模倣していくか考えておこう。アキーエはやっぱり魔法がメインだから立ち回りが上手くなるようにスピードをメインで。あとミミウは盾士以外に攻撃手段となるメイス系のスキルと筋力アップだろうな。」
「そうね。後は立ち回りで必要なのは身体の動かし方とスピードだと思うから異論はないわ。」
ミミウはしばらく考えていたがまとまったようだ。
「私はメイス系かショートスピアを扱えればと思いますぅ。後は上肢の筋力アップがあればいいかなと。それと足が少し速くなれば何かあった時は便利かなと思うですぅ。」
「わかった。あとキリーエはメインで戦闘系のスキルがないから、身を守る程度のスキルと商用スキルが模倣できたら渡すようにするよ。」
「ウチもいいの?」
キリーエは自分の事は考えてなかったらしく少し驚いた表情をしている。
「もちろん。パーティだからな。」
「あと譲渡についてはわからない事が多い。もしかしたら譲渡出来る数に上限があるかもしれない。だから優先順位の高い物から譲渡するようにしていこう。」
「それがいいと思うわ。何でも譲渡できるようなデタラメスキルじゃないと思うから。まあ今の時点でも、とんでもスキルだとは思うけどね‥」
確かに‥
最初はクズスキルだと思ってたのにとんでもないスキルになっていってるな。
今回模倣したスキルで譲渡しようと思っているスキルは【下肢筋力上昇】と【槍士】の2つだ。
アキーエには【下肢筋力上昇】
ミミウには【槍士】
キリーエについては今後商人のスキルを模倣できた時に譲渡する事にした。
まずはアキーエに【下肢筋力上昇】を譲渡する。
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。対象にスキルを譲渡しますか?』
譲渡する‥
『スキル保有者の承認を確認致しました。譲渡を行います。どのスキルを譲渡しますか?』
【下肢筋力上昇】
『譲渡するスキルを確認致しました。スキルを譲渡します』
先程と同じようにアキーエが淡く光る。
「今回のスキルは発現確認型だから頭に入ってきた情報はスキルの使用方法くらいだったから、そこまで驚かなくてすんだわ。」
アキーエはスキルのオンオフを確かめているようだ。
「じゃあ次はミミウだな。」
「はい。」
ミミウはテクテクとこちらに寄ってくる。
う〜ん。やっぱ小動物っぽくて可愛いな。
ほっこりしながらミミウにもスキルの譲渡を行う。
『譲渡するスキルを確認致しました。スキルを譲渡します』
ミミウも同じように小さな光を放つ。
しばらく考え事をしているような様子だったが、頭の中がまとまったのかこちらを見上げてきた。
「15歳の時に最初にスキルを発現した時みたいな感じでした。」
ふむ。ミミウへの譲渡も上手くいったようだ。
とりあえず明日はスキルの模倣は中断して、2人の装備を買ってモンスターでスキルの確認をしてみよう。
翌日、サミュウさんとところでミミウのショートスピアとガントレットを購入してギルドに向かう。
今回は無難にCランクの討伐依頼を選ぶことにした。
しばらく街道から外れて森のそばを歩いていると、討伐対象のコボルトを発見する。
コボルトは獣人族と違い、犬をそのまま二足歩行にしたようなモンスターだが、知識があり武具を装備したり魔法を使用したりもする。
油断できない相手ではあるけど、今の2人なら問題はないだろう。
都合よく2体出てきたので、1体ずつ分かれて対処するようだ。
まずはミミウが動いた。
タワーシールドを前方に構えたまま突進する。
シールドバッシュをしかける様子だが‥
警戒したコボルトは突進を避けるために横に避ける。
しかしミミウは急停止してコボルトに向けてショートスピアを放つ。
今までメイスでただ殴りつけていた時と違い、相手の急所に正確な突きを放っている。
コボルトはシールドバッシュに驚き、横に避けたことで体勢を崩しており次のショートスピアを避ける事が出来ずにミミウの突きを受けて倒れる。
うん。
シールドの扱い方からショートスピアへの移行に無駄がない。
常時発現スキルだから切り替えるって感じではなく常に両方のスキルを使って戦えるようだな。
盾士と槍士の相性はかなりいいようだ。
さて次はアキーエだがどんな戦い方を考えているのかな。
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