村にあるギルドは、二階建てではあるがこじんまりとしており、昼前ということもあり閑散としていた。
ギルド受付のナーシャさんの下へ向かう。ギルドに入るのは初めてだが、ナーシャさんの事は知っていた。茶髪のボブカットで知的な美人さんである。ギルドの外で会うこともあり、会うたびに目の保養といい匂いで元気をいただいていた。
なんて事を考えていると腹にぼでーが刺さった‥
「鼻の下が床に着くくらい伸びてるわよっ!」
どうやら鼻の下がだいぶ伸びていたようだ。
うむ、痛い。半端なく痛い。確かアキーエはスキル【腕力】は持っていなかったはずだが‥
いや、もしかしたら言わないだけで、スキル【察知】【腕力】をも持っているクアドラプルなのかもしれない‥
なんて事を考えているとナーシャさんから声がかかった。
「あら?マルコイ君にアキーエちゃん、今日はどうしたのかしら?」
「今日はマルコイと冒険者登録をしにきたのっ!」
アキーエが平な胸をそらしてそう言った。
そう思った瞬間、殺気を感じお腹を丸めるような動きをとる。すると腹の前をアキーエの剛腕が通り過ぎる。
(躱せたっ!)
するとアキーエの身体が8の字を書くように動く。そして反動をつけた逆の剛腕がぼでーに突き刺さる。
俺は膝から崩れ落ちる‥
「ほら、ギルドでイチャつかないの!」
「イ、イチャついたりしてないわよっ!」
多分アキーエはスキル【拳士】のスキルも持っているクインティプルだなと思う。
「それじゃ、登録前にスキルを教えて。」
ナーシャさんがと聞き取りをしてきた。
「私のスキルは【属性魔法:火】と【判別】よ!」「あら!アキーエちゃんはダブルなのね。将来高名な冒険者になるかもね。じゃあマルコイ君は?」
「俺は【模倣】だよ。」と伝えると、ナーシャさんがやや興奮気味に聞いてくる。
「マルコイ君!初めて聞くスキルだわ。どんなスキルが発現するの?」と身体を乗り出して聞いてきた。
「‥‥‥ない」
「え?」
「まだ発現していないから、わからない‥」
「え?じゃあ‥今はスキルなしってこと?」
するとナーシャさんが難しい顔をする。
「スキルなしなの‥ちょっと待ってて」
ナーシャさんは席を外し、奥の方へ入って行った。
しばらくしてナーシャさんは初老の男性と一緒に戻ってきた。
「マルコイ、スキルが発現していないなら、冒険者稼業でやっていけるか俺が直接確認してやる」
ガチムチモンスターのギルドマスターであるギバスが開口一番そう告げる。
そしてそのままガチムチに引き摺られるようにギルドの練習場に連れて来られる。
「さてマルコイ、好きな武器をとれ。」
「なんでだよ?冒険者になるのは自由だろ?こんな試験みたいな事するなんで聞いてないぞ。」
「まぁ確かに冒険者になるのに試験は必要ない。しかし冒険者になるほとんどの者は何らかの攻撃スキルなり補助スキルを持っている。それを持っていないお前が危ない目にあうのは友人であり、お前の父親でもあるマージスに申し訳ない。」
「なんだよ、父上は関係ないだろっ!」
マルコイの父、マージス・アンバーエストはカーロッタ村を治める男爵である。
スキル【模倣】を得たときこそ喜んでくれたが、発現しないとわかるとあきらかに落胆した様子だった。だからといって冷遇するわけでもなくそれまで通り接してくれたので見返してやる〜や、ざまぁなどは考えていない。
ただそんなに大きな村でもないので、男爵家の三男が将来が決まっているわけでもなく、何をしようが自由みたいな感じではある。
「確かにお前は関係ないと思うだろうが、それでも友人の子だ。実力もわからないまま冒険者にする訳にはいかん。」
「わかったよ、おっさんとやればいいんだろ!俺も家で剣は習ってたんだ。実力見せてやるよ。」
マルコイは木剣を手に取る。
「よし、まずは軽めに行くぞ。」
そう言ってギバスは木剣を上段から振り下ろす。
はい、木剣は見えませんでした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。これし死ぬんじゃないかな‥?」
「大丈夫だっ!当たりどころが悪くないなら、人はそうそう死ぬもんじゃない。」
「ちょ、それって悪かったら死ぬってことじゃんか。」
「そうとも言うな」
しばらくマルコイの悲鳴が聞こえ、試験は終了した。
家での訓練とは違い、まったく遠慮のない訓練でボコボコにされ、面白い格好でピクピクしているマルコイにギバスは告げる。
「基礎ができているから、多少鍛えればモノになるだろう。今日から毎日訓練すれば一月もすれば合格できるぞ。」
そんな言葉が薄れていく意識の中マルコイの耳に入ってきたのだった‥
あれから1ヶ月頑張った‥
気絶して起きたら、アキーエが膝枕をしてくれていたので、嬉しくてアキーエの身体のを方を向いてグリグリしたら腹にぼでーが入って亡くなった祖父に会えたりなんて事もあった。
そして今日晴れて俺は冒険者になった。
「ほら。2人ともギルドカードよ。」
ナーシャさんが持ってきてくれた銀色のギルドカードをもらい、アキーエと2人で互いに見せ合った。
マルコイ
冒険者ランクE
スキル【模倣Lv.1】
アキーエ
冒険者ランクE
スキル【属性魔法:火Lv.3】【判別Lv.2】
「よしっ!これから2人で頑張っていこうぜ!」
「任せといて!私の【属性魔法:火】でモンスターなんて焼き尽くしてやるわっ!」
まったく頼もしい限りだ、俺の幼馴染は。
(ピコーンッ!)
突然頭の中にかる〜い音が鳴り響いた。
『模倣スキルを発現しました。【属性魔法:火】を模倣しました』
「はい?」
突然頭の中に響いた声に理解が追いつかない。どんなに待ち焦がれても得られなかった物が、突然目の前に現れた。
訳が分からな過ぎて思考が追いつかないでいる。
「どうしたのマルコイ?突然ボーッとして?いつもは眠そうな目がこれでもかってくらい大きくなってるんだけど?」
アキーエの声で我に帰る。眠そうな目は余計なお世話だったので、後でエッチなイタズラでお返ししてやる。
「アキーエ、話がある。」
「どうしたの?突然真面目な顔して。わかったわ。でも笑顔もいいけど、そっちも‥‥」
後半は聞き取れなかったが、了承してくれたのでアキーエとギルドに戻り、隅のテーブルに移動する。
「発現した。」
「なんのこと‥?もしかしてスキルの話っ?」
大きな声を出そうとしたアキーエの口を塞ぐ。
「別に隠す訳じゃないけど、そんな大きな声で俺のスキルを宣伝しないでくれ。」
「わかったわ、ごめんなさい。」
アキーエが申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん、ごめん。アキーエも一緒に発現する努力してくれたんだから、そんな顔しないで。」
すると嬉しいのか恥ずかしいのか、複雑な笑顔を見せるアキーエ。
「ありがとう。それでスキルはどんな効果なの?」
俺は自分のスキル【模倣】を確認する。
マルコイ
スキル【模倣Lv.1】
模倣スキル【属性魔法:火】
「多分アキーエの【属性魔法:火】を模倣したみたいだ。」
「ほんとに?凄いじゃない」
「でもなんでいきなりスキルが発現したのかがわからない。今までと何か違う事をしたのか?」
自分の行動を振り返ってみる‥
「わかった、ギルドカードだ‥」
「え?」
「新しく自分達が得た物といえばギルドカードだよ!」
「でもおかしくない?ギルドカードだったとしても模倣したのは【属性魔法:火】だけでしょ?もしギルドカードが発現のきっかけだとしたら、なぜ【判別】は模倣しないの?」
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。【判別】を模倣しました』
「アキーエ。」
「なに?」
「今、【判別】も模倣した。」
「え?なんで急に?」
再度自分の行動を振り返る。ギルドカード、アキーエとの会話‥
「アキーエありがとう。条件が多分わかったよ。おそらくスキルカードでスキルを確認して、そのスキル名を本人に言ってもらう事が条件だと思う。」
そう言いながら、俺の身体に新たな火が灯ったのがわかる(【属性魔法:火】を模倣しただけに)ドヤっ
「アキーエ!スキルカードも貰ったし、さっそく村の外に行こう!スキル【模倣】を試してみたいんだっ!」
「わかったわ。これから一緒に冒険する相方が強くなるのは嬉しいことだものね‥‥あ、相方って‥」
なぜかアキーエは自分の言った言葉でモジモジしている。
しかし今はそれどころではない。俺は今から最強の階段を駆け上がれるのかもしれないのだ。スキル【模倣】を使えばスキルをダブルどころか、クインティプルでもディカプルにでもなれるのだから。
スキル【模倣】を使えば今まで物語でしか知る事の出来なかった、英雄にもなれるはず。
「アキーエ、俺は強くなるよ。」
「そう。じゃあわたしも負けないように強くならないとね。マルコイは危なっかしいからわたしが側についててあげるわ。」
「ああ。有名な冒険者になれるように頑張ろうな。」
互いに頷き合い村の外に向っていった。
マルコイ
冒険者ランクE
スキル【模倣Lv.1】
模倣スキル【属性魔法:火】【判別】
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