山の中腹を見上げると、そこに大きな横穴があるようだった。
バラックス話では、その横穴がドラゴンの住処らしい。
「全員警戒して進むぞ。シクー探索を頼む。ドラゴンの場所の特定したら報告をしてくれ。もし寝てたりするといいんだがな。」
バラックスが仲間に告げると、猫族のようなしなやかな身体をした女性が横穴に向かって走り出した。
走っているが、音がしない。
すごいな、あれもスキルの効果なのかな?それとも修練して得た技術なのか。
しばらくするとシクーが戻ってくる。
「今はしっかりと起きてて食事中みたいだね。横穴から入ってしばらく進んだ大きめの場所にいたわ。上が吹き抜けになってるから、そこから出入りしてるみたい。」
「そこで戦えるか?」
「いや、この人数入るとなると厳しそうだったわ。あそこから誘き出してここら辺で戦う方が利口ね。」
「そうか、わかった。」
バラックスはしばらく仲間と話をした後、他のパーティのもとにやってきた。
「ドラゴンは確認できたが、今いる場所は戦闘に不向きのようだ。なのでこの辺りに誘き寄せて討伐したいと思っている。」
他の高ランクパーティ達も頷いている。サポートにあたるC.Dランクのパーティも問題ないようだ。
「それじゃ戦闘前に作戦を立てよう。ドラゴンが厄介なところは飛べる事とブレスだ。ブレスに関してはうちの盾士と『雷鳴の音』の盾士で防ぐからいいとして、飛ばないように最初の段階で翼を攻撃する必要がある。誘い出してこの場所に降りてきたと同時に魔法や遠距離攻撃が使えるものは翼に一斉攻撃を仕掛けてくれ。」
「「了解した。」」
俺は気になった事をバラックスに尋ねる。
「ドラゴンはどうやって誘い出すんだ?」
バラックスはニヤリと笑い
「お食事中の顔に魔法をぶっ放されたら誰でも怒るだろ?」
なるほど。
ミミウなら一生恨むレベルだな‥
ミミウを見ると、なんて恐ろしい事を!みたいな顔になってるし‥
シクーとAランクパーティの魔法が使える人が一緒に横穴に入って行った。
「すぐに上から出てくるぞ。盾士は攻撃に備えてくれ。盾士が受け止めたら、一斉攻撃頼むぞ。」
魔法や遠距離攻撃力ができる者達が頷く。
しばらく経つと横穴で爆発音と、巨大なモンスターの咆哮が聞こえた。
まるで空気が震えるようだ。
この咆哮を聞くと、とても人が手を出してはいけない気がする‥
「くるぞっ!」
横穴からシクー達が戻ってくる。
すると上から物凄い吹き下ろしの風が打ちつけてくる。
上を見るとドラゴンが大きな鉤爪を向けて此方に向かってきていた。
それを盾士達が受け止める。
「いまだっ!」
バラックスの合図に色とりどりの魔法や弓矢がドラゴンの翼に収束する。
流石高ランク冒険者の攻撃だな。
ドラゴンの翼が片方だが、完全に折れている。
「ここからは地上戦となる!サポートパーティは後方に下がって傷薬や魔法の準備をしてくれ!攻撃パーティ行くぞっ!」
こうしてドラゴンとの戦いが始まった。
高ランクパーティは最初の攻撃でドラゴンの翼を折る事ができたので、飛ぶ事が出来なくなったドラゴンと地上戦を行っている。
サポートに徹する為に少し離れた場所に待機している俺の所へアキーエが駆け寄ってきた。
「何とかなりそうね。」
「そうだな。しかし流石高ランクパーティの攻撃だな。最近の攻撃でかなりダメージを与えたっぽいな。特に火属性の魔法が凄かった。」
「え?あれ多分私の魔法よ。魔法放った人で火魔法使ったのわたしだけだったから。」
ん?
今戦っているドラゴンは火属性で、俗に言うレッドドラゴンと呼ばれるドラゴンだ。
属性魔法:火に関してはあまり効かないと思っていたが、先程の一斉攻撃でかなり大きな火の玉がドラゴンに当たり火魔法なのにダメージを与えていたので、単純にレッドドラゴンにダメージを与えるほどの威力だったのだと関心したのだが‥
「アキーエさん?また属性魔法のレベル上がりました?」
「そうね。時間がある時はギルドの練習場で魔法の訓練してるから。今はそこそこ高レベルになってるわよ。」
いつの間に‥
あの威力のフレンドリーファイア喰らったら、即死しそうな気がする。
戦闘前はアキーエと仲良くしておこう‥
ドラゴンに視線を向けると追い詰められてブレスを放とうとしていた。
あれ?この射線って俺たち被ってないか?
しかも射線に高ランクパーティの盾士がいないんですけど‥
「ブレスくるぞ!位置的に盾士がカバーできない!各自散開しろ!」
やばい!モロにくるぞ!
「任せてくださいですぅ!」
ミミウが俺とアキーエの前に立つ。
タワーシールドを地面に刺して、構えをとる。
ミミウの後ろに移動して衝撃に備える!
あれ?
衝撃がこない‥
炎の奔流だけが通り過ぎて行くような感覚だった。
「もう大丈夫ですぅ。」
うん。
やっぱりうちの盾士さんは優秀だなぁ。
俺がスキルの研鑽やら鍛治なんかで時間使ってる時に、ずっと訓練してたみたいだからな。
ブレスを耐えた後周りを見ると何人か驚いた顔している。
まさか無傷とは思わなかったのか、傷薬を用意してこちらに向かおうとして固まってる人もいるようだ。
その人たちに軽く手を振り戦況の確認をすると、攻撃隊の優位に進んでいるようだった。
盾士はパーティに攻撃がいかないように、上手く鉤爪と尻尾の攻撃を防いでいる。
そして隙を見てバラックスさんや、『獅子の立髪』の人達が攻撃を加えている。
しかし『獅子の立髪』の人たちすごいな。全員が前衛だけあってすごい連携だ。
大剣使いが攻撃し怯ませて、ショートスピアと片手斧で攻撃している。
三位一体って感じだな。
特に大剣持ってるアマンダさんが凄い。あの大きさの剣を振り回しているのにスピードが早い。
ドラゴンもかなりのダメージを受けていて満身創痍だな。
油断はできる相手ではないが、問題なく討伐する事ができそうだ。
それじゃちょっと高ランク冒険者のスキルを確認しよう‥
ドラゴンとの戦いの最中、俺は高ランク冒険者の鑑定を行う。
何人かは何となくスキルがわかりはしたが、数人は見ているだけではわからない者もいた。
まずはAランクパーティ『戦神の矛』からだな。
バラックス
冒険者ランクA
スキル【剣鬼Lv.8】【指揮】
ヤックル
冒険者ランクA
スキル【盾鬼Lv.7】
シクー
冒険者ランクA
スキル【疾風Lv.5】【探索Lv.7】
エリネ
冒険者ランクA
スキル【属性魔法:暴風Lv.5】
ふむ。
流石にAランクだな。
ダブルスキルが2人もいるのか。
バラックスの【指揮】とシクーの【探索】は欲しいかな。
次はBランクパーティの2つだな。
スコル
冒険者ランクB
スキル【下肢筋力向上Lv.5】
オーファン
冒険者ランクB
スキル【盾鬼Lv.2】
アックレ
冒険者ランクB
スキル【格闘鬼Lv.3】
ストール
冒険者ランクB
スキル【属性魔法:水Lv.6・土Lv.4】
アマンダ
冒険者ランクB
スキル【身体能力向上Lv.6】【強化Lv.2】
アムテル
冒険者ランクB
スキル【槍士Lv.9】
カリーン
冒険者ランクB
スキル【剛腕Lv.2】
Bランク冒険者もやはりスキルレベルが高い。ほとんどのスキルが系統進化しているみたいだ。
この人たちのスキルを模倣すれば多分どれかは統合できるはず。
一緒の討伐依頼を受けたんだし、これまでのように知らない人から模倣するよりは警戒される事もないだろう。
なによりも模倣するための工程を1つクリアできているのが大きいな。
マルコイが鑑定を終えると同じくらいにドラゴンが力なく地面に倒れた。
攻撃隊が終始優位に戦いをすすめ、特に被害もなく討伐は完了したように見えた。
討伐が終えたと思い安心した時に、ドラゴンは動いた。
最後の足掻きなのか1人でも道連れをと思った行動なのかはわからない。
しかし安心しきっていたDランクパーティの1人に向かいドラゴンは尻尾を振るった。
虚をついた攻撃だったため誰も動けないように見えた。
しかしその中で1人だけ予想していたように動いていた男がいた。
目に力が残っているように見えたんだよね。
これって異世界で言う『残心』ってやつかね?
ドラゴンの尻尾での攻撃をスモールシールドに角度をつけて上にズラす。
勢いがありはするが、もうそれほどの力は残っていなかったのだろう弾かれた尻尾は上空に逸れ力なく下に落ちてくる。
念のためにマルコイは尻尾に向かい剣を振るう。
尻尾はさほど抵抗もなく、真ん中辺りから切り落とされた。
「ふぅ。」
「大丈夫?よくわかったわね。」
アキーエが駆け寄ってくる。
「なんとなくかな。カッコ良かったろ?」
そう言いながらアキーエを見る。
「はい!」
ん?
その声はアキーエがいる方ではなく、俺の後ろから聞こえた。
振り返ると先程助けたDランクパーティの女の子が目を潤ませながら見ていた。
「あ、いやありがとう。」
何か変な返事をしてしまった‥
そんなマルコイ達パーティを助けた女の子以外にも数人の冒険者が見ているのにマルコイは気づかなかった。
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