翌朝ギルドの練習場にマルコイたちは来ていた。
俺たち3人以外に試験官となるだろう男3人とバーントがいる。
「それでは今から昇格試験を行う。まずはマルコイ。相手はDランクの前衛のハタットだ。」
バーントに呼ばれマルコイは練習場の中央に向かう。反対側からマルコイより10歳程度は上の長い茶髪を後ろで結んでいる青年が進んでくる。軽そうな皮製の鎧にロングソードを下げている。スピード重視の剣士のようだった。
「マルコイ。一応試験内容だが模擬戦となってるが、絶対勝たなければならないわけじゃないからな。」
「ふはは。聞いたかい?坊主。俺の胸を借りるつもりで思いっきりかかってこい。」
う〜ん。このハタットって男だが、ドヤってしてるところがムカつく。
しかし俺より格上のDランク冒険者だ。しっかりと勉強させてもらうとしよう。
「準備はいいか?それでは始めるぞ。」
俺は盾とロングソードを構える。村で買ったロングソードとお試しで買った盾だ。Dランクに昇格したら新しい装備にしてもいいのかもしれない。
そんな事を考えているとバーントから開始の合図がでる。
「それじゃいくぞ!多少は手加減してやるから、本気出してかかってこいよ。」
ドヤ顔がやっぱりムカつく。
盾を構えてそう思っていると、ハタットが動く。
「様子見か?じゃあ俺からいくぞ!」
ハタットはそう言って上段から剣を振り下ろす。
???
あまりに真っ直ぐ過ぎる剣の軌道に驚くが、手加減をすると言っていたから牽制の意味なんだろうか?
俺は剣の軌道を逸らすため、盾に力を入れて剣を弾く。
「ぐわっ!」
ハタットが吹っ飛んだ‥‥‥
あれ?
「ぐぅ、なかなかやるじゃないか。ロングソードを持っていたから【腕力】持ちだとは思わなかったぜ。じゃあ次は本気でいくぞ!」
そして体勢立て直し、こちらに駆けるハタット。
回り込むように動き剣を横なぎにする。
「どうだ!これだけ素早い動きはみたことあるまい。喰らうがいい必殺‥ぐわっ!」
動きがしっかり見えてたので横なぎの剣をまた盾で弾くとハタットがまた吹っ飛んだ。
変な格好で着地している。
ワザとなのか?お笑いなのか?笑うべきなのか?
「それまで。」
バーントが終了の合図を出す。
「マルコイはDランクに昇格だ。多分それ以上の力を持ってそうだが、とりあえずDランクへの昇格試験だからな。」
何か釈然としないが、合格ってことだそうで無理矢理納得する。
しかし最後の一撃に関しては果たして本気の一撃だったのだろうか?
だとしたらあまりにも弱過ぎる。もしかして思っている以上に自分は強くなれているのだろうか?
すると吹っ飛んで変な格好をしていたハタットが変な角度に首を曲げたままこちらに歩み寄ってくる。
「お前なかなかやるな。今日のところは引き分けにしといてやる。今日から同じDランクだから次やる時は手加減は一切しないから、そのつもりでいろよ。」
やはり手加減していたのか‥
変な格好の時に笑っとけばよかったかな。
「よし、次はミミウの番だ。」
「はいですぅ!」
中央に歩み寄るミミウ。そして反対側から茶髪のツンツンした頭の青年が歩いてくる。
なんか見覚えのある男だな‥?
「オーウットさん?」
そうミミウの相手はマルコイが【俊足】を模倣したオーウットだった。
しかしマルコイとしては複雑な思いだった。オーウットはマルコイに【俊足】を模倣させてくれ、それがきっかけで【剣闘士】まで発現することができたのだ。マルコイは勝手に恩人と思っていた。
その恩人が今から酷い目に合うなんて‥どうせなら知らない人の方がよかったとまで思っていた。
あ〜、オーウットさん‥お気の毒です‥せめて怪我のないように‥
「それでははじめっ!」
掛け声とともにオーウットは【俊足】を使い、一気にミミウの後ろに回り込んだ。
そしてミミウの死角から突きを入れようとしたが‥
「はぁっ!」
うん。ものすごい音と共にオーウットさんミミウのシールドバッシュで練習場の隅まで吹っ飛んでいった‥
死んでないよな‥?
はっきり言ってミミウには俺も勝てない。正確には負けはないし、ミミウが攻撃してきたら隙をついて勝てると思うが守りを固めたら勝てないと思う。
基本、スキルは使用すればするほどレベルが上がると言われている。
それが確かなのかは証明はされていないが、確かに使用していた方が上がっている気がする。
ミミウは【遠視】のレベルを上げるため、【遠視】
を普段の生活でも使用していた。
そのため近くの物が見えなくて転んだりするのは日常茶飯事だったが、その甲斐あってスキルレベルはかなり上がっていた。そしてレベル5を超えた時から視界の補正が付きほぼ360度死角なしで見れるようになったらしい。スキル効果で済ませれないほどの規格外である。
そのため【盾士】として盾を扱える場面が増え、その結果【盾士】のレベルも上がり筋力補正なども増加していった。
今のミミウのシールドバッシュはかなりデカいサイズのキラーベアでさえ行動不能にできるくらいである。
そんなシールドバッシュを喰らったオーウットさんはハタット並みに面白い格好でギルド練習場の壁に刺さっていた‥。
「よし。ミミウもDランク昇格だ。」
「ふぁ〜やったですぅ。」
オーウットさんには今度お酒でも奢ろう。
これで残るはアキーエだけだか‥
はっきり言ってアキーエもかなり規格外になってるので心配はしていない。
「次はアキーエだな。アキーエは後衛だから得意な魔法を見せてもらう。」
そう言ってバーントは練習場に人型の的を用意した。
「あの的に向かって得意とする魔法を放ってもらう。そしてその結果をDランク冒険者に判断させる。もちろん公平になるように俺も判定には入るがな。」
「わかったわ。それじゃはじめるわね。」
すると魔法発動に集中するアキーエ。
膨大な魔力がアキーエの周りに集まり、編み込まれていく。
「爆炎球!」
轟音とともに的に向かって直径1メートルはあろうかという火の玉が凄まじいスピードで飛んでいく。
そして的を跡形もなく蒸発させる‥
「‥‥‥‥。」
Dランクの魔法使いの人もバーントも言葉を失っている。
アキーエは【属性魔法:火】を伸ばすために努力はしていたが壁にぶつかっていた。
そしてアキーエはなかなか強くなれない自分が、パーティで役に立つために【判別】を伸ばす事にしたのだ。
【判別】のレベルを上げて冒険中の危険を少しでも減らせればと思っての事だった。
そしてある時【判別】のレベルが上がり、ふと自分の【属性魔法:火】の火球を判別したらどうなるのかと思い判別したらしい。
アキーエ曰く、俺たちが吸っている息の中に燃える空気があるらしく、それが燃えて火になるらしい。目に見えないものだから、言われても理解はできなかったが、アキーエには【判別】した事で正確に理解できたらしい。
そして魔法はイメージだそうで、自分の火球の仕組みを知った事でイメージが明確になり、火球の威力向上と新たな魔法の取得に至った。
それが結果として【属性魔法:火】のレベルアップに繋がったらしい。
しばらくして後衛担当のDランク冒険者が口を開く。
「‥‥‥バーントさん。なんですかあれ?」
「いや、俺もわからん。と、とにかくアキーエも合格だ‥」
Dランク冒険者でもやはりアキーエの魔法は規格外らしい。
「昇格試験の結果は追って伝えるつもりだったが、火を見るよりも明らかだな。結果は全員合格だ。3人ともDランク昇格だ。」
全員合格できるとは思っていたが、実際に結果がでるとやはり嬉しい。
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