いい匂いがして目が覚めると、目の前にアキーエの顔があった。
後頭部に感じる柔らかい感触‥
どうやらアキーエが膝枕をしてくれているようだった。
そのまま顔を90度傾け頭をグリグリ〜する。
「はあ〜いい匂いぐえっ」
横になり、弛緩している柔らかい俺の腹筋に、アキーエの振り下ろした拳が刺さる‥
「お、俺は怪我人‥」
「そんな事できるならもう大丈夫よっ!」
頭の下から膝を抜き立ち上がるアキーエ。
もちろん支えのなくなった俺の頭は地面に落ちましたよ。
「あ、マルコイさん起きたですかぁ!」
ミミウが気付いて走り寄ってくる。
「ミミウは怪我なかったか?」
俺の前で一旦止まったミミウは俺の前でくるりと回って見せた。
「はい!なんともないです。それよりも大事な時に気絶して役に立たなかったのが申し訳ないですぅ‥」
落ち込んだ様子のミミウ。
「そんな事はないよミミウ。多分ミミウがいなかったら間に合わなかった。」
そう。ミミウの盾士としての立ち回りや、アキーエの魔法の援護がなければ自分や大切な仲間の誰かが死んでいたかもしれなかった‥
「もっと強くならないとな‥」
今回の戦いではまだまだ弱いのだと思い知らされた。
「ところでここは何処になるんだ?」
日除けのためか、木の柱を立てそれに大きな布をかけてある。
その中に怪我をしている人たちだろうか?たくさんの人が並べられている。
「ここはモンスターと戦った場所から少し離れたところよ。戦いの最中に怪我して自分で王都に戻るのが困難な人を一時的に収容している所ね。」
30人程の人がいるだろうか?その周りを回復魔法が使える人たちが走り回っているようだ。
「お?起きたのか?」
2メートル以上はありそうな大男がこちらに近寄って来る。
確か魔族との戦いの時に応援に駆けつけて来てくれた‥
「『折れた翼』の人?」
「いや、『折れない翼』な!勝手に折ってもらったら困るぞ!」
おう、どこかの受付のおっさんのような素早いツッコミだな‥
「俺の名前はガリックス。とりあえず礼を言わせてもらおう。君が魔族を引き付けてくれていなかったら、もっと犠牲者が出ていただろう。君と君の仲間達に感謝する。」
「いや、こちらの方こそ助かりました。あなた方が来てくれなかったら俺たちの方が死んでいたかもしれませんから‥ほんとにありがとうございました。」
ガリックスさんは笑顔を見せていたが、急に目を細める。
「ところで俺達が駆けつけた時には魔族は満身創痍だった。あれはマルコイ君がやったのかい?」
「そうですね。ただ無我夢中だったので説明しろと言われても難しいです。仲間のサポートもあってなんとかなったってところです。」
「そうか‥あの魔族は倒しはしたが、傷をおった状態でもかなり手こずったからね。君に感謝の気持ちを伝えたいと同時に話を聞きたくて君が起きるまで待たせてもらったんだよ。」
「すいません。」
「いいんだ。君の力がどうあれ沢山の冒険者が助かった事と王都を守る事ができたのは事実だ。本当に感謝する。」
そして今度王都で飲もうと言ってガリックスさんは出て行った。
「それじゃ、俺たちも王都に戻るか。」
「そうね。それじゃあ準備しましょうか?」
王都に戻ろうと思い立ち上がろうとするマルコイ。
しかし痛みと疲労感で動けない身体がまだうまく動かない。
そのままアキーエにもたれかかるように倒れ込む。
「もう。しょうがないわね。肩を貸してやるから帰るわよ。」
マルコイを受け止め、支えながらアキーエは少し嬉しそうにマルコイに伝える。
「くんかくんか‥」
そのまま吹っ飛ばされた‥
結局マルコイは荷車に押し込められて王都に戻るのだった‥
身体の痛みでその日は動けなかったが、次の日には多少動けるようになっていたため状況確認のためギルドに寄ることにした。
「おうマルコイ!」
受付のバーントさんが声をかけてきた。
「‥‥‥バーントさん、あれからどうなった?少しは落ち着いたのか?」
「お、お前に普通に呼ばれると気味が悪いな‥」
「大丈夫だ。ちゃんとバーントさんと呼ぶ前に、心の中でなんでおっさんなんだよ。どうにかして美女に出来ないだろうか?そのうちギルドマスターに直談判してみようかな‥ってつけてるから。」
「俺の名前呼ぶ前に少し間があったのはそれでかいっ!」
「もうバーント。マルコイさん達が来たなら教えてくれないと。」
バーントの後ろから、この人が受付にいたらいいのになと思える美女がやってきた。
「俺たちに何かようですかサベントさん?」
「そうですね。少し部屋で話しましょうか。」
サベントさんに連れられて応接室に入る。
ソファーに座るとサベントさんが嬉しそうに話を始める。
「魔族の話などいろいろありますが、とりあえずいい話から。今回のモンスター氾濫での戦いを評価して、マルコイさん達をCランクにランクアップします。」
「俺たちがCランク?」
「はい。もともとバーントからCランク相当の実力はあると聞いていましたが、ランクアップするきっかけがなかったので。今回の功績でスムーズにCランクに推薦する事ができました。」
(ん〜、あれは【勇者】の力を借りてやった事だしな‥いいんだろうか?)
そんな風に思っているマルコイにサベントが話を続ける。
「Cランクに推薦したのは魔族と戦う前までの功績です。魔族を単独パーティで倒したとなればBランクいやAランクにも推薦したのですけどね。」
それなら話は違ってくるか。魔族が出る前までは単純に自分たちだけの力だったしな。
まぁ模倣スキルも自分の力である事は変わりないから判断に困るところだけど‥
「それじゃありがたく昇格させてもらいます。」
サベントは笑顔を顔に貼り付けたまま話を続ける。
「ところでマルコイさん。魔族相手にも大活躍だったみたいじゃないですか?『折れない翼』が到着する前に魔族は満身創痍だったらしいですね。」
「あれは魔族が油断してくれたからですね。その後にボコボコにされましたから。」
「ふ〜ん。確かに瀕死だったらしいですね。今は元気そうですけど。」
「まあいいです。王都が守られたのは確かですし、まだ話してくれないって事は秘密を教えてくれるのはもう少し先になりそうみたいなので。」
「はは。ありがとうございます。」
「あとこちらからもサベントさんに報告があります。」
「俺たち王都を離れようと思ってます。」
昨晩の事
「第2回!今後何をやっていくのか決めましょーう!」
「いえー!」
俺とミミウがアキーエを見る。
「わ、わかってるわよ。い、いえー‥」
「よしっ!真っ赤になったアキーエも見れた事だし会議を始めよう!」
アキーエの可愛いオデコに青筋が立ってる。
「今回魔族と戦ってみてどうだった?」
「まったく歯が立たなかったわ。」
アキーエは自分の魔法が全く通用しなかった事を思い出しているのか、とても悔しそうな顔だ。
「私も簡単にあしらわれましたぁ‥」
ミミウもいつもの元気な感じではなく申し訳なさそうにしている。
「だよな。俺も正直あそこまで差があるとは思ってなかった。スキルも手に入れた事で増長してた。強いやつはたくさんいる。俺たちはまだまだ弱い‥」
「もっと強くならないとな。俺はもっと模倣スキルのレベルを上げたいと思う。」
「わたしは属性魔法を系統進化させたい。」
「私も盾士を進化させたいですぅ。」
2人とも強くなりたい思いは一緒でよかった。
「そこで相談なんだけど、獣人国に行かないか?」
「なんでいきなり獣人国になるの?理由はあるの?」
「獣人国は力があるものが国を統べるとこだからかな。強い者が正しいって考えだから、王都よりも模倣スキルを使いやすいと思うんだ。多分自分の力を誇示する人が多いと思うしね。模倣スキル自体は借り物の力って思われるから秘密にしないといけないとは思うけど、模倣できるチャンスは王都よりも多いと思う。スキルを統合するためにも多くのスキルを模倣したい。」
「でもこれは俺のわがままだから、2人の意見を聞きたいんだ。」
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