「ははは。お前らも運が無かったな。この大盗賊のネリンド様の前を通ろうとするとはな。残念だが、荷馬車を置いていく事だな。」
1番体格のいい男がこちらを見ながら声をかけてくる。
あの男がリーダーか。
リーダーをサクッと行動不能に出来たら他は大人しくなるだろうか?
しかし相手を戦闘不能にするのに梃子摺ると囲まれてしまうし、アキーエたちを危険に晒してしまうかもしれない‥
荷馬車を背にしてとりあえず様子を見るべきか‥
「お前らも出てこい!」
ネリンドと名乗った男が声を上げると、茂みの中から2人の男が出てくる。
街道にいた3人と合わせて5人か‥
う〜ん、ネリンドはデカい斧を構えてて厄介そうだが、他の4人は弱そうなんだけどなぁ。
2人くらいナイフをペロペロしてるんだけど‥
「どうだ?これだけの人数に囲まれたら諦めるしかないだろう?今なら荷馬車を置いて逃げれば見逃してやるぞ?」
俺とミミウで敵を捌きながら、アキーエの魔法を放って少しずつ敵を減らしていくのがベストかな。
ミミウとアキーエに耳打ちして、荷馬車を後ろにして構えをとる。
「な、なんだ?まだやろうってのか?」
ん?何か焦ってるような気がするな‥
とりあえず相手のスキルを鑑定して確認してみるか。
ネリンド
スキル【腕力Lv.2】
ん‥?あれ?
他は【大工】【器用】【気丈】【握力】
‥‥‥リーダー以外に戦闘に向いてるスキルを持ってる人がいない気がする。
「仕方ない。じゃあお前らが諦めるように俺のとっておきを見せてやろう。俺は過去、冒険者としても
活躍していた。しかもCランクだっ!」
ネリンドはギルドカードを掲げてみせる。
名前のところを持っているので名前の確認はできないが‥
冒険者ランクC
【斧士Lv.7】
うん。あれ自分のギルドカードじゃないな‥
ギルドカードに載っているスキルと鑑定で確認したスキルが違っている。
もしかして彼らは脅す事で、戦わずして盗賊行為を行ってたんじゃないか?もしかしたら‥
「そうか。奇遇だな俺たちもCランク冒険者だ。お前たちのような盗賊から護衛する為に雇われてるんだ。全員道連れでも倒してやるぞっ!」
各自戦闘体勢をとり、相手を威嚇するような態度をとる。
俺の考えが間違ってなければ‥
「く、くそ。‥き、きょうの俺は機嫌がいいからな。しょうがない何も取らずに通してやるとするか。それじゃ野郎ども帰るぞっ!」
彼らは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
‥‥‥な、なんだったんだ。
詐欺まがいの盗賊だった。というか彼らは本当に盗賊だったのか?
獣人国に入ったのに、全員人族だったし何らかの理由でエルフェノス王国から逃げてきた人たちなんだろうな。
盗賊?を追い払ったのでしばらく警戒した後に先に進む事にした。
「そういえばマルコイさん。さっきギルドカード見てたけど、模倣ってできたの?」
キリーエが興味津々で聞いてくる。そういえば説明の時に詳細は省いてたな。
「いや、ギルドカードでスキルを確認してから、実際に使用してもらった後に本人の口からスキル名を言ってもらわないと模倣出来ないんだ。」
「そのギルドカードってどのギルドカードでもいいの?例えば商人ギルドのギルドカードとかは?」
え?なんですと‥?
キリーエは興味本位で聞いてきたんだろうけど、俺としては目から鱗が落ちた思いだった。
「い、いや試した事ない。」
「冒険者のギルドカードじゃないと駄目って決まってるわけじゃないんだ?商人ギルドや鍛治ギルドとかギルドカードを発行してるところは、ほとんどスキル名が入ってるから試したみたらいいんやない?」
そうか、戦闘向けのスキルじゃないと模倣できないって先入観で思ってた‥
「試しにウチのスキルを模倣できるかやってみる?」
キリーエは自分の商人ギルドのギルドカードを見せてくれた。
キリーエ
商人ランクE
スキル【高速思考Lv.2】
「【高速思考】?どんなスキルなんだ?」
「自分の考えが早くなるスキルなんだけど、言葉で説明するのは難しいかな。常時発現スキルだから今も使ってるんだよね。じゃあ試しに【高速思考】!」
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【思考】を模倣しました。』
「おおっ!スキルを模倣できた。」
スキルを模倣した瞬間に頭の中で考えてた事がスピードを増した。
頭の中で考えている事が突然早くなった感じだ。考えを纏めるまでに要する時間が1.5倍ほどになった気がする。
まるで頭の中だけ早口になった感じがするな‥
確かに言葉にして説明するのは難しい。
「キリーエの【高速思考】は【思考】が系統進化したものなのか?」
「そうね。ウチの場合というか、商人になるような人はほとんど常時発現スキルだからレベルが上がるのが早いみたい。」
なんてこった‥
全くの盲点だった。
しかしこの【思考】は商人が持っていたら重宝するスキルなんだろうけど、戦闘時にも十分すぎるほど役に立つはずだ。
戦闘時の状況判断や仲間に対しての指示が今まで以上に早く行えるはず。
「多分商人は自分のスキルを見せるのに抵抗とかないから、冒険者から模倣するよりも簡単なんじゃないかな?ウチも知り合いの商人のスキルほとんど知ってるし。」
スキル統合が起こる確率を上げる為には、単純に模倣するスキルを増やせばいい。
数打ちゃ当たる戦法だな。
「キリーエ、ギルドってどれくらいあるもんなんだ?」
「そうね、ギルドカードを発行しているのは冒険者ギルド、商人ギルド、鍛治ギルド、薬師ギルド、錬金術師ギルドくらいだったかな。」
なんてこった。その全てのギルドカードから模倣できるのであれば、スキル統合して自分のスキルになる物が必ずあるはず。
「そのギルドは獣人国にもあるのか?」
「獣人国にも各ギルドの支部はあるはずよ。確か獣人国は冒険者ギルドと鍛治ギルド、商人ギルドの登録人数が多かったはずだわ。」
冒険者よりもスキルの提示に抵抗がないギルドが2つもあるわけか‥
獣人国に行ってからスキルを模倣するのが目的だったが、思ってた以上に多くのスキルを模倣できそうだな。
「ねえマルコイさん。ウチ役に立つやろ?」
キリーエが上目遣いで見てくる。
可愛いが、裏がありそうだな‥
「ああ。素晴らしい情報ありがとうな。本当に助かるよ。」
「よかった。それでな、ちょっと相談なんやけど‥」
やっぱり裏があった‥
「いや、相談ゆーてもそんな大した事じゃなくてね。しばらくマルコイさん達と一緒に行動させてもらおうかなと思ってるんだ。」
「それは護衛依頼が終わった後もって事?」
「そそ。まぁ嫌じゃなかったらだけどね。マルコイさん達と一緒にいた方が楽しそうだし、何より儲け話が多そうかなって。本当は獣人国で仕入れをしたらエルフェノス王国に戻るつもりだったんやけど、こっちにおった方が商人として成長できそうやからね。」
なるほど。こっちとしては断る理由もないかな。商人としての知識もありがたいし、ツッコミスキルも高い‥
そして何より可愛い‥
セクシーさはないけど‥
おわっ!物凄い悪寒がするっ!
辺りを見回すと、アキーエの突き刺さるような視線でこちらを見ながら何故か石を拾っている。
とりあえず持ってる石は下に置きましょう‥
そしてキリーエを見るとジト目でこちらを見ていた‥
「お、俺はいいと思うけど、みんなはどう?」
「わたしは大歓迎よ。キリーエさんいろんな事知ってるし、相談ものったりしてくれるから。ア、アドバイスなんかもしてくれるしね。」
「アキーエちゃんはわかりやすいから。でも相手が凄いにぶちんやらな。なかなか手強い相手や。」
キリーエがクスクス笑いながらアキーエを見ている。何故かアキーエの顔が真っ赤になってる‥
そんなに恥ずかしい事を相談してるのかな?
「私も賛成ですぅ。もっと食べ物の事を教えて欲しいですぅ。」
ミミウさんは相変わらずブレません。
「みんな賛成みたいだな。歓迎するよキリーエ。これからもよろしくな。」
「よかった。こちらこそよろしくお願いします。でもウチは戦う事はできんから、みんなが街の外でモンスター討伐してる時なんかは街で商売してるから。もし必要な物なんかあった時は言うててくれたら格安で探しとくよ。」
「はは、心強いな。」
キリーエがいてくれると獣人国でもいろいろと助かるだろうな。
護衛対象から新たな仲間になったキリーエと共に獣人国の首都を目指す事となった。
「おー、あれが獣人国の首都ロッタスか。セイウットも凄かったけど、ここも凄いな!」
首都ロッタスも外敵から首都を守る為に高い外壁を造ってあった。
王都と違うのは、こちらの外壁に関しては異世界のお城に近い作りで大小様々石を敷き詰めて積み上げられている感じだ。
外壁に近づくと門番の人がいたのでギルドのカードを提示して首都の中に入る。
「キリーエが言ってた通り王都とはだいぶ違うな!」
街の中は王都でよく見かける木造の建物はほとんどなく、石を積み上げられたような家や建物がたくさんある。
しかし無造作に石を重ねているのではなく、規則正しく積み上げる事で建物の造形は美しい佇まいとなっていた。
それに何より獣人族の人がほとんどで、人族はそれこそ数えるほどだ。
すれ違う人の殆どが獣人で、耳や尻尾を見るといろいろな種族がいるようだ。
「まずは拠点となる宿を探すか?」
「それならウチが獣人国に来た時に泊まった宿にする?父親のお陰やけど、少しは顔がきくと思うよ。」
よし、拠点の確保の後は冒険者ギルドに行ってみるか!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!