「よし!アキーエ頼む!」
マルコイは襲いかかる熊型のモンスターキラーベアの振り下ろされる腕を盾で逸らした後、キラーベアの足を剣で斬りつける。
そしてマルコイの合図を受けたアキーエはすぐに魔法を撃ち込む。
「炎球!」
アキーエの魔法がキラーベアの顔に着弾する。すると物凄い勢いで炎がキラーベアを包み込む。
絶命はしないものの、かなりのダメージを受けたキラーベアにマルコイがトドメを刺しに向かうが、キラーベアが最後の足掻きでその爪を振るおうとする。
しかしその前にミミウのシールドバッシュがキラーベアに直撃する。
するとキラーベアの身体があまりの衝撃でズレる。
そして少し下がったキラーベアの首を正確にマルコイの剣が撫でる。
しばらくしてキラーベアの頭が身体から落ちていく。
「よし。Dランクでも上位のキラーベアも問題なく討伐できたな。」
「そうね。でも相変わらずマルコイの【剣闘士】は凄いわね。」
「そうだな。俺もここまで強くなれるとは思ってなかったよ。でもアキーエの炎球もミミウのシールドバッシュもえげつないな。」
2人とも着実に強くなっている。
しかしそれ以上に自分が強くなっている事を実感する。
マルコイ達は【剣闘士】を発現してから、いくつかのDランク依頼を達成していた。
マルコイの【剣闘士】は盾を扱う腕力の補正以外に剣士としてのレベルも上がっていた。
そして常時発現スキルのためか、身体能力も格段に上がっている。
このキラーベア討伐を達成したらDランクへの昇格試験である。
マルコイは自信をもって試験に臨める事に興奮を覚えていた。
ギルドに戻り受付にいるおっさ‥バーントの座っている場所に進んでいく。
「おうマルコイ。お前らついにキラーベアも討伐したのか?」
「ああ。なんで美女じゃなくておっさんなんだよ‥じゃなくてバーントさん。」
「それもう間違いじゃなくねっ?全部言ってなくね?」
「キラーベアも特に問題なかったよ。でもこれで討伐依頼の条件の突破したし昇格試験を受ける事ができるんだろ?」
「そうだな。後は試験官の都合もあるが数日中には試験が行われる。明日の朝ギルドに来てくれ。その時には日程が決まってると思うから。」
「わかった。ありがとう、なんで美女じゃくておっさんなんだよ‥バーントさん。」
「それいつまでやんのっ!」
「まあいい。ところでマルコイ。もう少ししたらウルスート神聖国から勇者様御一行がセイウットにくるらしいぞ。お前は何かいろいろと絡まれたり絡んだりするから、ちょっかい出すなよ。国賓扱いらしいから、国家間問題になるからな。」
「へ〜勇者が来るんだ?」
1年ほど前にウルスート神聖国でスキル【勇者】を発現した人が現れたのはマルコイも知っていた。
「確か勇者の他にもスキル【賢者】と【聖騎士】、【聖女】も同時期くらいに発現したんだよな?出来過ぎだよな。魔王でも現れるのかね?」
「噂では魔族の動きが怪しいから本当に魔王が現れたんじゃないかって言われてるぞ。そうでなきゃそれだけのスキルが急に発現した理由にならないだろうからな。」
「そっか。魔王も勇者も俺には関係ないけど、本当に魔王が現れたんなら、勇者様には頑張って欲しいけど、一目見たら満足だから関わらないようにするよ。」
「そう願うよ。いくらギルドが中立とはいえ、わざわざ国同士の揉め事の種を作りたくないからな。」
「わかった。じゃあまた明日。」
そのままギルドを出る。
するとミミウが嬉しそうに俺の前に出る。
「それじゃ今日はもうお休みですか?だったら皆んなで王都の屋台巡りしませんかっ!」
「お?そうだな。せっかくだしミミウのお勧めの店でも教えてもらおうかな。」
ミミウは依頼がない時は王都内の屋台に足を運び、いろんな店の食べ物や飲み物を食べ歩いていた。
アキーエは時々付き合っていたが、俺は【鑑定】で模倣スキルを選ぶのにギルドに行ったり、本が置いてあるところでスキルを調べたりして付き合うことがなかったな。
「じゃあ皆んなで屋台巡りだ!」
3人は王都の屋台広場に出発した。
「ふぁ〜、いつ来てもワクワクしますぅ!」
王都の西側にある、実に王都の1/10程の大きさを誇る王都の西方広場。
この広場にはお店を持つための資金稼ぎをするものや、新作を試すもの、広場での人気ナンバーワンを狙うものなど様々な人たちが屋台を開き、100近くの店が並んでいる。
ミミウは勝手知ったる様子で目的の店に向かっている。
さすが我がパーティの食いしん坊担当である。
「マルコイさんこっちですよぉ〜。」
ミミウについていくと、そこはドリンクを売っているお店だった。
「まず屋台でいろいろ食べ物を食べる前に、ここで飲み物を頼むですぅ。」
「あら?ミミウちゃんまた来てくれたの?いつもありがとうね。」
お店のおばさんがミミウに声をかける。
「すいません、ミミウってけっこう来てるんですか?」
「けっこうどころじゃないよ〜。朝方はほぼ毎日来てるよ。時々昼とか夕方にも来てるけど、その度にうちのドリンク買ってもらってるからね〜。」
「えへへ〜。」
いや、待ちなさいミミウさん。毎日って依頼を受けて討伐に行く日も買いに来てるのかい?
ミミウは依頼達成で分配したお金はほぼ屋台で消えてるんじゃないだろうか‥
「じゃあわたしはブドージュースで。」
おう、アキーエさんも動じないですね。
「おばさん私はいつもので〜。」
「バナーナジュースのハチミツマシマシだね。」
流石常連さん。いつもので注文が通っておる。
おばさんのやってる屋台はフルーツをメインとしたジュースを売っているらしく、その場でフルーツを加工してくれるから新鮮で美味しいらしい。
俺もメロロンジュースを頼んだ。
確かにフルーツの甘味がすごく感じられる。ミルクも入ってるけど、ミルクがフルーツの味を消さないような割合で入ってるようで、ミルクの味もあるがそのおかげでメロロンの味が際立っている。
「それではいろいろ回りってみるですぅ!」
次に来たのはボア串屋と書いてあるお店だった。
「ここはちょっと小腹が空いた時に食べるおやつみたいな物があるんですぅ。」
店先を見ると串に刺さった肉を焼いている店主がいる。なかなかのボリュームで一本食べたらお腹にたまりそうな量である。
ミミウが買っているのを見て俺とアキーエも同じく一本ずつ買ってみる。串に刺した肉に塩を振りかけてあるだけの単純な料理だが、お肉も柔らかくてなかなかいける。しっかりと肉が柔らかくなるように下処理をしているからだろう。しかし‥
ミミウさんこれはおやつではありませぬ‥
他にもいくつか回り、ボリュームが少なそうなやつだけ食べて回った‥
そしてお腹がたまり帰ろうかとしている時にミミウが立ち止まる。
「あれ?あそこのお店は初めてみました。行ってみるですぅ。」
胃袋の中身のせいで重くなった体を動かして、軽やかに歩くミミウについていく。
「はじめまして〜。ここのお店はいつからですかぁ?」
するとポテート屋と書いてあるお店から店主が顔を出す。
「今日から店を開いてます。よかったらどうぞ。」
店の中を覗いてみると、店主が煙の中からポテートを取り出していた。ポテートは細長く切ってあり、それを蒸しているようだった。
仕上げに塩をパラパラと振りかけ箱の中に入れる。
「美味しそうですぅ。一つお願いします。」
ミミウは一つ買っていたが、俺とアキーエは2人で一つ買う事にした。
「2人で一つ。ポ、ポテートの端と端を‥」
アキーエがなにかブツブツ言っている。
とりあえず一口食べてみる。ポテートが蒸される事でホクホクになっており、塩加減が絶妙にいい。しかし食べ続けていると口の中が乾き飲み物が飲みたくなる。
「ポテートは美味しくできてますけど、一緒に飲み物も売った方が売れると思いますぅ。」
ミミウさんがアドバイスまでしていた‥
「お嬢ちゃんありがとう。しかし難しいもんだね屋台ってのは。店が多いから人気がでないとなかなか人が来てくれない。でもお嬢ちゃんみたくアドバイスしてくれる客もいたりするし、まだまだ頑張ってみるよ。」
単純な料理だから人気がでないのか?単純な料理でも串焼きみたいにインパクトがあればいいんだろうけど。何かもう一つアクセントがあれば売れそうな気がする。
気にはなるが俺は料理人でもないし、アイデアもないからな。
お腹いっぱいになったところで宿に戻る事にした。ちなみにミミウさんは宿に戻った後にしっかりとご飯も食べてました。
翌朝ギルドに向かい試験内容を確認する。
「マルコイとミミウはDランク冒険者と模擬戦だ。アキーエは模擬戦ってわけにはいかないから、Dランクの後衛が魔法の確認を行う。それぞれ1人ずつ行い、合格したものがDランクだ。不合格であれば、規定数の依頼をこなし再挑戦ってとこだな。」
「わかった、護衛を雇ってでも美女を置いた方がいいはず。おっさんの顔を朝から見て頑張ろうってなる人はいないと思うんだが。なぜおっさん‥じゃなかったバーントさん。」
「それってもう文句だよねっ!?おっさん頑張ってるよ!朝から身だしなみ整えて皆んなを応援しているよっ!」
マルコイたちの昇格試験は明日の朝から行われる事になった。
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