「さ〜て、一丁やったりますかっ!」
魔族を前にマルコイたち3人は気合を入れる。
「ん?次の相手はお前達か?肩透かしさせるなよっ!」
魔族の男はそう言うとマルコイに向かって突進してくる。
顔を狙ってきた男の拳は堅牢を易々と壊しマルコイに迫ってきた。盾で逸らそうとするが、膂力に勝る男の力に抗えず後退させられる。
(やばっ。堅牢は全く意味なしかよ。しかも一発で手が痺れた‥盾越しとはいえ何発も受ければ腕が動かなくなる。)
「ん?今何か結界張ってたか?しかしそんなもんじゃ俺は止められんぞ。」
魔族の男は満面の笑みを浮かべる。戦闘狂だな。
ニヤニヤしながらもその場から動こうとしない男に鑑定をかける。
ザックタルト
スキル【身体能力向上Lv.4】【剛腕Lv.3】【属性魔法:闇Lv.2】
トリプルスキルかよっ!
しかも脳筋!獣人族かっての!
「ん?この纏わりつく感じ‥お前何かスキルを使ってるな?まぁ何のスキル使っていようがぶっ殺せば関係ないかぁっ!」
ザックタルトが突っ込んでくる。
その時俺とザックタルトの間にミミウが割り込む。
「ミミウ!堅牢は効果ないと思ってくれ。」
「ミミウが防御、俺が攻撃、アキーエは牽制頼む!」
「はいですぅ!」「わかったわ!」
ザックタルトが振りかぶって拳を打ちつけてくる。ミミウが盾で防ぐが、まともに受けたためか後退させられる。
しかしその隙にマルコイはザックタルトの機動力を奪う為、脚を斬りつける。
「いい連携だ。しかし遅いなぁ。」
ザックタルトは今までより速いスピードでバックステップしマルコイの剣を避ける。
そしてすぐにマルコイに向け再突進する。
「ははー、もらった!」
自分の攻撃が当たると思いニヤけていたザックタルトの顔にアキーエの火球が当たる。
「よしっ!」
ダメージは無さそうだか、視界が塞がれたザックタルトの脚を今度こそマルコイが斬りつける。
しかし岩に剣を叩きつけたような感触を残し、マルコイの剣は弾かれる。
「なっ」
「残念だったなぁ。それくらいじゃ俺には傷つけれんぞ。」
ザックタルトが近距離からミドルキックを放つ。マルコイは盾で受けるものの、衝撃は逃す事が出来ずに吹っ飛ばされる。
「今の魔法はお前か?いいタイミングだったぞ。しかしその程度の魔法だとちょっと熱いくらいだぞ。」
そう言うとザックタルトはアキーエに向かい歩き出す。
ミミウが間に入り、アキーエは魔力を練り始める。
ザックタルトの薙ぎ払いにミミウが盾ごと飛ばされた。その間にアキーエの魔法が完成しザックタルトに襲いかかる。
「爆炎球!」
「これは熱そうだな。喰らったら火傷しそうだ。喰らったらだけどな。」
ザックタルトはその場で向かってきた1メートル程の火球に拳を突き刺す。
すると拳のスピードが出す衝撃波により火球の勢いは大きく削がれ、ザックタルトには対してダメージを与えられない。
「これで終わりか?残念だが、この程度では相手にならんぞ。死んで反省してこい。」
ザックタルトはアキーエに向かい歩みを進める。
先程のザックタルトの攻撃により、吐血して倒れ込むマルコイの目の前を悠々と歩きながら。
完全に目測を誤った。まさかここまでの実力差があるとは思わなかった。
ミミウの盾士の力と俺の剣闘士の力があれば勝てないまでも時間稼ぎくらいはできると思っていた‥
そんな甘い考えのせいでアキーエの命が奪われようとしている。
どうにかして身体を動かそうとするが、まるで自分の身体じゃないようで這いずるのが精一杯だった。
魔法で回復をしようとするが、魔力がうまく纏まらない‥
喉の奥から血が迫り上がってくる。
内臓をやられたのだろう。身体から力が抜けていく。
(すまないアキーエ、ミミウ‥‥‥)
(ピコーンッ)
『著しい身体能力低下を確認しました。周囲に魔族を確認。模倣スキル【勇者】を一時的に開放します。開放時間は120秒になります。』
『模倣スキル【勇者】の能力により、身体機能が向上します。』
(な、なんだ?)
突然頭の中に鳴り響く音と機械的な声‥
呆然としていたマルコイだったが、身体に力が戻り纏まらなかった魔力も今は操作できるようになった。
「彼の者を癒せ!」
マルコイの身体が光り身体の痛みが薄れていく。
「なんだか知らんが助かった!考察は後だ!おい、魔族!お前の相手はまだ俺だっ!」
アキーエに歩み寄っていたザックタルトに向かい猛スピードで迫るマルコイ。
(なんだこのスピードは!自分の身体じゃないみたいだ!でもこの力なら‥)
「あいつに届くっ!」
気配を察したのか、こちらを振り向くザックタルト。
「ふん。お前との格付けは終わっている。邪魔をするな。」
マルコイに対して薙ぎ払うように腕を振るう。
それを盾で逸らす。膂力の差で逸らすことすら出来なかったザックタルトの腕がポンッと上に弾かれる。そして隙だらけになった腕に渾身の剣を振るう。
先程まで弾かれていた剣はあっさりとザックフルトの腕を斬り落とす。
「なっ!なんだと?」
明らかに動揺するザックタルト。
『開放時間残り60秒です』
信じられないくらい身体が動く。
しかし開放時間が60秒を切ったな。
開放時間が終わった後に何があるかわからない。リスクもなしにこれ程の力が得られるとは思えないからな‥
「光矢!」
マルコイは光の矢をザックタルトの斬り落とした右腕側から放つ。
ザックタルトは矢を無意識に右手で弾こうとして一瞬の隙がうまれる。
矢を放つと同時に動き出したマルコイは、左手で光の矢を弾いたザックタルトの脚に剣を突き刺す。
モンスターとの戦闘で脆くなっていたのか、その剣はザックタルトの脚に刺さったまま半ばあたりから折れた。
「き、貴様!いったい何をした?何故急に‥くそっ!」
ザックタルトは脚に刺さった剣を力任せに引き抜くと、マルコイを睨みつける。
「ゆ、ゆるさん!殺してやるっ!」
脚を引きずっているとは思えないスピードでザックタルトがマルコイに迫ってくる。
身構えるマルコイに絶望的な機械音が頭に響く。
『開放時間が終了しました。模倣スキル【勇者】の使用を凍結します』
それと同時に全身の力が抜ける。それと同時に身体中に痛みが走る。
「ぐっ‥」
スキルを無理矢理使用した反動でマルコイは指の一本すら動かす事が出来なくなっていた。
ザックタルトが突進しながら残っている左腕に力を込める。
「岩土槍!」
声がしたと同時くらいにザックタルトの足下から岩で出来たような槍が現れる。
「なっ!」
岩の槍は刺さらなかったものの、大きく後退させられるザックタルト。
「な!今のでダメージ喰らわないなんて硬いわね。」
マルコイの後ろから声が聞こえる。振り向くと4人組のパーティがこちらに駆け寄ってくる。
熊の獣人だろうか?大きな身体にタワーシールドを持った毛深い男がマルコイの前に位置取る。
「時間稼ぎ感謝する。もう大丈夫だ。あの魔族は俺たちで相手する。」
「Aランクパーティの『折れない翼』だ!助かった。」
周りから歓声が上がる。
「た、助かったのか‥」
そのまま崩れ落ちるよう座り込むマルコイ。
すぐにアキーエが駆けつけてマルコイの身体を支える。
「ありがとうアキーエ。ミミウは大丈夫なのか?」
「うん。魔族に飛ばされたけど気絶してただけで、怪我は大した事ないみたい。でも動けないから、後方に運んでもらってる。」
「そっか‥」
そしてそれを聞いたマルコイは意識を手放したのだった。
マルコイが気絶した後も戦いは続いた。
魔族も最後まで抵抗したが、片腕で機動力も削がれていたためかAランクパーティの『折れない翼』の連携になすすべなく討ち取られた。
魔王の関与も疑われ、魔族との戦闘中に情報を引き出そうとしたが、関与が疑われるような情報もなく、今回の氾濫は偶発的なものだと結論づけられた。
騎士団、冒険者合わせて死者50名程度、重傷者100名程の被害を出したモンスターの氾濫は終幕するのだった。
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