アキーエはコボルトと対峙して出方を伺っているようだった。
アキーエに譲渡した模倣スキルは【格闘士】【下肢筋力上昇】の2つだ。
レベルは1とはいえ、いきなり新しく2つのスキルを覚えたのだ、自身の動きに戸惑いがあるに決まっている。
いつでもフォローできるように構える。
おそらく【下肢筋力上昇】でスピードを上げて間合いを測りながら魔法で戦うのだろう。
そして相手が近づいた場合には【格闘士】で対応すのが‥
アキーエがコボルトに向かってダッシュした‥
あれ?
アキーエは猛ダッシュでコボルトに近づくと前蹴りを繰り出した。
見事な前蹴りのつま先がコボルトの腹部に突き刺さる。
ダメージを受けて後ろにたたらを踏むコボルトに対してアキーエは追い討ちをかける。
左右のガントレットを使い、コボルトに連打を浴びせる。
たまらずコボルトが剣を横なぎに払うが、それを華麗にかわして回し蹴りを放った。
コボルトはかろうじて防御したようだが、後ろに尻餅をつく。
そこにアキーエは溜めていた魔力を放つ。
「炎球!」
アキーエの放った魔法はコボルトに着弾し、コボルトは火だるまになる。
「ふぅ。上手くいったわ。」
いやいやいや‥
なんじゃそれ‥
【格闘士】だけであればレベル1だからコボルトと戦える事はできないだろう。
しかし【下肢筋力上昇】があることで蹴りの威力がとんでもなく上がっている。
その事でCランクモンスターのコボルトと渡り合うことが‥
いや、違うから。
「ア、アキーエ?なぜそんな戦い方を‥」
「いやね。どれだけ動けるか試しただけよ。普段は魔法メインで考えてるわ。立ち回りはこれから特訓するけど、今のスキルでどれだけ戦えるか確かめたかっただけ。」
なるほど‥
しかしあの状態で蹴られたら致命傷になるんじゃないか?
これからはアキーエの蹴りには十二分に注意することにしよう‥
「な〜に考えてるのよ。大丈夫、ちゃんと自分の役割はわかってるつもりよ。」
そう言いながらアキーエは俺の身体を軽く叩く。
か、かるくない‥
アキーエにスキルを譲渡した事を、少しだけ後悔しながら帰路に着くのだった。
次の日からはスキルの模倣を再開した。
今日はAランクパーティ『戦神の矛』の拠点に向かっている。
『戦神の矛』には【指揮】と【探索】のスキルを持ったバラックスさんとシクーさんがいる。
2人のスキルは是非模倣したいと思っている。
そして‥
30分後くらいに何故かバラックスさんと対峙していた‥
「俺は言葉で教えるのが下手だからな!こうやって身体を使えって教えるのが1番だ!」
ふむ。
ザッ脳筋め‥
『戦神の矛』の滞在している宿に着いたらバラックスさんしかいなかったので、とりあえず闘技会の件から話をしたらこうなった‥
他のパーティメンバーの模倣もしたいので、できれば他の人の話も聞きたいから宿でしばらく待たせて欲しいなんて言ったのが間違いだった。
「よしっ!それじゃ行くぞー!」
脳筋が突っ込んできた!
こうなってしまっては仕方がない。
今の俺の実力がAランクにどこまで通用するのか確認出来るいい機会だ。
バラックスさんが間合いに入り袈裟斬りに剣を振るってきた。
それをシールドで押し返しバランスを崩させようととする。
しかし‥
剣が重い‥
押し返すことが出来ずに腕を押し込まれる。
すぐ切り替えてシールドを斜めにし、そのまま剣が地面に向かうように仕向ける。
しかしバラックスさんは一歩足を踏み込みはしたが、そのまま剣を斬り上げてきた。
慌てて剣の範囲外に退がる。
こちらが退がった事でバラックスさんはそのまま連続で斬りつけてきた。
盾と剣で捌きはするが、スピードと重量が今まで対峙した人とは段違いだ。
間合いを取るため、バラックスさんを退がらせようと無理に剣を振るう。
バラックスさんは冷静に振るった剣を絡めとり、体制を崩した俺に剣を突きつける。
「参った‥」
「ふぅ‥やはりお前は強いな‥もっと軽めで済むと思っていたが、思いの外本気になっちまった。もう少しスキルレベルが上がったら苦戦しちまうかもな。俺は【剣鬼Lv.8】なのにここまで戦えるとは【剣闘士】ってスキルはずいぶんと優秀なようだ。」
「このスキルにはかなり助けてもらってますからね。だからスキルレベルを上げるために皆さんに教えを乞おうと思ってるんですよ。」
「なるほどな。じゃあ他のメンバーが帰ってくるまでもう少し身体を動かすか。」
少しげんなりしてしまうが、いい特訓になりそうだ。
本音を言うと【堅牢】だったり先日模倣した【身体能力上昇】があるのだからもっと戦えるだろう。
しかし純粋に剣技系のスキルで戦うとやはりAランクの壁はまだまだ高いようだ。
しばらくバラックスさんと訓練をしていると他のメンバーも戻ってきた。
さっそく自分のスキルカードを提示してバラックスさんに話したように闘技会に誘われた事、スキルのレベルアップのために行っている訓練について聞く。
すると全員ギルドカードを提示し話をしてくれた。
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【指揮】を模倣しました。スキル【剣士】は統合しています。スキルを模倣できません。』
『模倣スキルを発現しました。スキル【盾士】は統合しています。スキルを模倣できません。』
『模倣スキルを発現しました。スキル【探索】を模倣しました。スキル【俊足】は統合しています。スキルを模倣できません。』
やはりシクーさんの【疾風】は【俊足】の系統進化だったか。
残念だがミミウへの譲渡はまた今度だな。
そして残すはエリネさんの【属性魔法:暴風】だな。おそらく【属性魔法:風】の系統進化だとは思うが、もし風だとしたら属性魔法の4元素を覚える事になる。
【指揮】【探索】も模倣したかったが、【属性魔法:風】を模倣する事で魔法系のスキルを得る事が出来るのではないか思い密かに期待している。
そのうちスキルレベルが上がれば、アキーエのような魔法も使えるようになるかもしれないし。
俺は少し期待を胸にスキルを模倣した。
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【属性魔法:風】を模倣しました』
『スキル【属性魔法:風】を確認しました。統合条件を達成し【属性魔法:四元素魔法】が確認されました』
(やった!これで俺も魔法が‥)
『統合したスキルの中に【剣士】【盾士】を確認しました。統合条件に必要なためスキル【剣闘士】を解体します。模倣スキル【剣士】【盾士】【腕力】【俊足】を確認しました』
『統合条件を達成しました。模倣スキル【属性魔法:火】【属性魔法:水】【属性魔法:土】【属性魔法:風】【剣士】【盾士】を統合します。スキル【エレメントナイト】に統合しました』
はい?
‥‥‥もうだいぶ慣れたけど、模倣スキルさんは俺の予想の斜め上をいくなぁ‥
まさか1度統合したスキルを解体されるとは思わなかった‥
スキル【剣闘士】を解体して模倣した【属性魔法】を統合して【エレメントナイト】になったわけか‥
【エレメントナイト】を覚えた事でスキルの使用方法が頭に入ってくる。
【エレメントナイト】は‥‥魔法は使えないようだ‥
正確に言うと放出系の魔法が使えなくて、属性魔法については全てエンチャントと呼ばれるものになるようだ。
【エンチャント:火】身体能力の向上(筋力等)
【エンチャント:風】身体能力の向上(速度等)
【エンチャント:土】防御力等の向上
【エンチャント:水】治癒能力の向上(自身であれば重度の負傷でも治癒可能)
となる。
魔法系のスキルを覚えて、野球ボールみたいな魔法じゃなくて大きな魔法で薙ぎ払いたかった気がするが、なんだか凄そうなスキルを得る事ができたのでよしとしよう‥
武具は今まで通り剣と盾を使用するようだか、属性エンチャントは武器にも出来るようなので、これは重宝しそうだ。
しばらく固まっていた俺を心配そうに見ていた『戦神の矛』の人たちと少し話をして帰ることにした。
脳筋バラックスさんが、少し時間があったのでもう一度訓練しようと言ってきたが、自分のスキルを把握できていないので丁重にお断りした。
時間作ってまた来いと言われたけど‥
宿に戻り今日の成果をアキーエたちに話す。
「〜と言うことで【剣闘士】から【エレメントナイト】になりました。」
「何がという事なの‥またとんでもスキルを発揮したわね‥」
アキーエの呆れ顔も見慣れたものだ。
「そうだな。同じエンチャントの重ねがけは出来ないみたいだが、別のエンチャントについては重ねがけできるみたいだ。ただエンチャントの発現には魔力が必要で、使いすぎると魔力切れを起こすから考えながら使用しないとな。」
「はぁ‥少し強くなれたと思ったら、また先に行くのね‥」
アキーエが何か言っているが聞き取れない。
「どうしたアキーエ?」
「何でもないわよ!やっぱりマルコイはマルコイね!」
突然怒られた‥
闘技会がきっかけで模倣スキルを増やそうとしたが、思ってた以上に能力アップする事ができたようだ。
「サミュウさんと所に行こうと思ってたけど、ちょっと延期だな。明日は新しく得たスキルの調査をしたいからモンスター討伐に出かけよう。」
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