宿に戻ろうと帰路についた。
宿の近くまで来た時に、宿の前に誰が立っているのが見えた。
その人物は此方に気づくと走り寄ってくる。
走り方からして女性のようだが、残念ながら首都で俺に用事があるような女性の知り合いはいない‥
残念ながら‥
「マルコイさん!」
名前を呼ばれた事に驚き、こちらに近づいてくる女性を観察すると見覚えのある女の子だった。
確かドラゴン討伐の時に助けたDランクパーティの女の子だった。
確かナーシスといったかな。
「確かナーシスだったよね?どうしたんだ。俺に何か用かい?」
「名前覚えててくれたんですね。ありがとうございます!以前助けていただいたお礼をしたいってお伝えしてたんですけど、なかなかお会いできなくて‥。今日もお邪魔したんですけど、そろそろ帰ってくるんじゃないかと思って待っていました。」
おう。わざわざ律儀な子だな。
オレンジのポニーテールの毛先を揺らしながら近くに寄ってくる。
「よかったらお時間があれば明日にでもお礼させてもらえませんか?」
「いいって。そんな大した事してないんだから。感謝の気持ちは十分もらったからさ。」
ナーシスは顔を近づけて来て
「それじゃ私の気持ちが収まりません。私あの時死ぬって、ここで終わりなんだって思ったんです。でもマルコイさんのお陰で死なずにすんで、まだ先に進めるんだって。本当に感謝してるんです。」
少し目が涙目になっている。
そこまで言ってくれるなら何か受け取るのもやぶさかではないな。
「ただ私Dランク冒険者なんで、そこまで蓄えがなくて‥。それで友達がやってるお店があるからそこで何かお礼の品を買わせてもらっていいですか?」
「構わないよ。ありがとう。そしたら明日の昼くらいでいいかな?」
「はい大丈夫です。それじゃまた明日お願いします!」
ナーシスは頭を下げるとそのまま自分の宿に戻って行った。
「可愛い子じゃない。よかったわね、おモテになって。」
「そうだな。あれくらい素直だと好感持てるな。アキーエも見習わないと‥あぎっ!」
「ふんっ。余計なお世話よ。」
知ってるかい?
【格闘士】の蹴りって歩けなくなるんだぜ。
宿の前でしばらくもんどり打って自分の部屋に戻った‥
ちなみにミミウはしばらく側にいてくれたが、ご飯の匂いがしたら宿に戻っていきました‥
翌日の昼前に待ち合わせ場所のギルドに向かうと、すでにナーシスが待っていた。
グリーンのワンピースにオレンジの髪の毛が映えていてとても可愛らしい。
「あ!マルコイさん。こっちです〜。」
ナーシスは手を振りながら近づいてくる。
「待たせたか?」
「いえ私も今来たところです。それじゃさっそく行きましょう。」
先を歩くナーシスについていく。
しばらく歩くと雑貨屋?みたいなお店の前でナーシスが立ち止まる。
「ここが友達がやってるお店です。友達は錬金術士なんで色々取り扱ってるんですよ。」
なに?錬金術士だって?
俺の知っている限り錬金術士は体力ポーションや魔力ポーションを作製する職業だ。
しかしスキルがシングル、よくてダブルのこの世界ではかなりの人数が揃わないと満足に作ることができない品物だ。
抽出や蒸留など様々なスキルを持った人が集まり、作製した物を厳選されたお金持ちの人たちに納品しているはずだしな。
特に錬金術士などレアなスキルを持っている人は国のお抱えなどをしているはずで、こんな雑貨屋の店主をやっているはずないのだが‥
「アリア〜!前に言ってた人連れてきたよ!」
すると店の奥からサロペットを来たナーシスと同じ歳くらいの女の子が出てきた。
白銀の髪にちょこんと狐の耳が出でいる。
顔には少しそばかすが残っているが、可愛い顔をしている。
「ナーシス久しぶり。この人が前に言ってた命の恩人さん?意外とイケメンじゃない!ちょっと眠そうな感じがするけど‥」
ふむ。余計なお世話だ‥
しかしまぁ見所はあるな。
最後は余計だったが、イケメンというのは当たっているしな。
「なんかドヤ顔が気に触るんですけど‥」
ドヤ顔じゃないんですぅ。
こんな顔なんですぅ。
「俺はマルコイだ。よろしく。」
「アリアよ。ナーシスを助けてくれてありがとう。ナーシスはロッタスに来てから初めて出来た、とても大切な友人だから私も感謝してるわ。」
アリアは少し涙ぐんでいるように見える。
本当に感謝しているのだろう。
「ナーシスにも伝えたけど、本当に偶然なんだ。俺が1番近くにいてドラゴンの動きに気づいたってだけ。ほんと気にしなくていいんだ。」
アリアはナーシスを呼んで少し奥に行き話し始めた。
「本当にいい人じゃない?優良物件なんじゃないの?まあまあカッコいいし。他にライバルはいそうなの?」
「アリアちゃん‥ほんとにそんなんじゃないんだって。それにとても綺麗な人とパーティ組んでたから、私の出番なんてないの。」
なんか奥でごちゃごちゃ言ってる‥
しばらくして戻ってくるとナーシスの顔が赤くなっている‥
「ナーシスどうかしたか?」
「な、な、な、なんでもないです!」
「そ、そうか。」
アリアがニヤニヤしてるのが気になるな‥
「ところでアリア。話は変わるが、君は錬金術士なのか?」
「そうよ。スキル【錬金術士】持ちよ。一応セイウットの錬金術ギルドに所属してギルドカードも持ってるわ。こっちには錬金術ギルドがないから苦労してるけどね。」
話によると錬金術ギルドも定期的な報告などがあるらしく、除名されないように何年かに1度セイウットに行っているらしい。
「錬金術士がこんな街中に店を出してるってのは初めて聞くんだが、何かあったのか?」
「特に何もないわよ。私は王宮務めより、お店を出して人と触れ合っていたかっただけ。あんまりお客さんはこないけど、楽しくやってるわ。」
ふ〜む、何かありそうではあるが王宮で働きたくないってのはわかるな。
俺も王宮務めなんかはできないだろうし。
錬金術か‥
錬金術ギルドのギルドカードで模倣ができるかわからないけど、試してみるか‥
「アリア、錬金術ギルドのギルドカードって俺見た事がないんだけど見せてもらってもいいかな?」
「別にいいわよ。私も冒険者ギルドのギルドカード見た事あるけど、そんなに変わらないわよ。」
アリアはポケットから錬金術ギルドのギルドカードを取り出した。
錬金術ギルドのギルドカードは冒険者のギルドカードと違い楕円形だった。
それ以外は特に違いはなく記載されている項目も同じだった。
アリア
錬金術ランクB
スキル【錬金術士Lv.5】
ランクBってかなり高くないか?
「ランクBってかなり高いな。何か大きな実績があるとか?」
「ちょっとだけね。昔にあった薬の内容を解明しただけよ。私の祖父が持っていた材料で一度だけ作製できたけど、材料を採取する事が不可能に近いからもう作れないわ。でもそのおかげでランクも上がったし、売ったお金でお店も建てられたから御の字だけどね。」
多分かなり高価で効果が高い物を作製したんだろうな。
「ところで錬金術って見せてもらうことはできるかい?見た事がないし、もしお礼をって言うのならそれだけで構わないからさ。」
アリアは少し考える仕草をする。
「別に構わないわよ。今から錬金術で体力ポーションを作製して、それを貴方へのお礼って事でいいかしら。ね、ナーシス?」
「私は大丈夫なんですけど、マルコイさんはそれでいいんですか?」
ナーシスがそんな物でって顔をしているが、俺としてはそっちの方がありがたい。
「貴重な体験だからな。見せてくれるってなら十分過ぎるお礼になるよ。」
「わかりました。それじゃアリアお願いしてもいい?」
するとアリアは薄い胸を叩きドヤ顔を見せる。
「任せて!それじゃランクBの【錬金術士】の実力を見せてあげるわ。」
そうして俺たちはアリアが普段工房として使用している店の奥に連れて行ってもらった。
「さぁそれじゃ始めるわね。」
工房の作業台の上にはポーション作製に必要と思われる薬草やガラス瓶、それに水やらが置いてある。その前に座り薬草を水に入れ、煮沸を始めた。
「これに魔力を込めるのか?」
「そうね。この工程に30分かけるわ。それに抽出やら状態の安定化なんかで2時間はかかるわね。」
「へ?」
アリアは俺が間抜けな声を出したからか、呆れた顔をしてこちらを見上げている。
「あなたね、私がスキルレベル5だからその程度で済むけど、レベル1だと体力ポーションを作るのに6時間はかかるわよ。」
な、なるほど。
とてもじゃないが、【錬金術士】を模倣した後にポーションを大量生産ってわけにはいかないんだな‥
(ピコーンッ)
『模倣スキルが発現しました。スキル【錬金術士】を模倣しました』
うん。スキルは模倣できたけど、とりあえずはお蔵入りになるかな‥
しっかりと2時間かけて作ってもらった体力ポーションをもらいながら、マルコイはそう考えるのだった‥
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