この大陸にはいつくかの伝承がある。そのほとんどが魔王と勇者の戦いについてだった。
魔王とは魔族と呼ばれる種族の王であり、世襲制ではなく突然現れると言われている。一説ではスキル【魔王】が発現するのではないかと言われているが定かではない。
魔族はいくつかの小さな国を持っていて魔族側から他の種族に対して敵対はしてこないが、魔王が出現した場合には突然交戦的となる。魔王のスキルによってある程度思考誘導がなされていると思われるが、これも定かとはなっていない。
また魔王が現れた時には勇者も現れるとされている。勇者は同時期に複数確認された事はなく、常に発現するのは1人しかいない。
勇者が現れれば魔王が現れる。逆もまた然り。これは神が決めたこの世界のルールなのやもしれない。
薄暗い部屋に2人の男がいる。1人はしっかりとした作りの椅子に腰掛けており、片肘をついている。側に仕える男が座っている男に声をかける。
「人族の国が勇者を召喚したもようです。」
「そうか。ふははははっ!やはりな。思った通りだったな。これで女神の世界構築システムから私は逸脱したわけた。」
「御意。」
「これで全ての準備は整ったな。」
男の言葉は闇に響き、静かに消えていった。
次の日の朝、準備を終えたマルコイ達は村を立つことにした。
自分たちが強くなる為、冒険者として成功する為とはいえ16年育ってきた町である。やはり感慨深いものがある。
見送りにナーシャさんが来てくれた。ギルドの仕事はいいのかと尋ねたら、ギルドマスターに押し付けてきたから大丈夫だそうだ。
「では行ってきますナーシャさん。」
「うん。気をつけてね。いつでも帰ってきていいからね。」
ナーシャさんの言葉に笑みを浮かべ答える。
「次帰って来る時は凄い冒険者になって帰ってきますよ。」
「ふふ、期待してるわ。あの3人の冒険者は私が冒険者登録したのよっ!って言わせてね。」
ナーシャさんが笑顔で手を差し出して来る。この笑顔が見れなくなるのは、とてもとても残念である。
ナーシャさんの差し出した手をしっかりと握り返した後、ハグをする。
「それじゃ。」
マルコイ達は王都に向けて歩き出す。ナーシャさんの柔らかかった感触と、アキーエの突き刺すような視線を感じながら。
王都に向かう20日の間にスキル【鑑定】の検証をしてみた。
街道に現れたゴブリンに対して【鑑定】を使ってみる。
ゴブリン
スキル【なし】
対象の名前とスキルがわかる。これは村で使った時と同じ結果だった。
ただ村で使用した時は対象が人族であるため、全員が何らかのスキルを持っていた。
スキル【なし】の鑑定結果は今のところモンスターのみである。
ただスキルを持っているモンスターもいると思う為、モンスター戦でもかなりのアドバンテージだと思う。
【模倣】については【鑑定】で確認してもスキルを模倣することは出来なかった。
また【鑑定】で確認した後にスキル効果、スキル名を確認したが、模倣には至らなかった。
この事から、スキル【模倣】の条件自体は変わりがなかったようだ。
しかし今までの
①スキルカードを見てスキルを確認する
②スキル効果を自分の目で確認する
③スキル名をスキル保持者の口から聞き取る
という模倣するまでの過程で、①でスキルカードを見るまでは相手が何のスキルを持っているかわからなかったのが、先に何のスキルを持っているか確認できるのは、スキル【模倣】を使いやすくなったと思える。
そんな検証をしながら王都に向かい残り数日程度になった頃、アキーエが今後の事を聞いてきた。
「王都に着いたらまず何をするの?」
「とりあえず拠点となる宿を決めて、その後ギルドに行ってその後の活動内容を話し合うことにしよう。」
「そっか、王都のギルドどんなとこだろ?楽しみだね。」
そんな事を言うアキーエに俺は気が緩み過ぎだと思い注意する。
「アキーエ。王都のギルドは俺たちみたいに若い人間が行くと絶対に絡まれるらしいぞ。そしてアキーエみたいな若い女を自分のパーティーに引き込もうとするらしい‥」
「なんですって!そんな事がまかり通るの?」
「絡まれた方が弱かったらまかり通るらしいぞ。近所に住んでいたターナカさんがそう言っていた。」
ターナカさんは村で近所に住んでいたおじさんで、世界の様々な事を俺に教えてくれた。
王都で流行ったアフロといった髪型やスポーツなんかも知っていて、俺は王都に行く前にターナカさんの所に寄って話をいろいろと聞いてきたのだった。
「あとは王都ギルドの受付嬢は顔で選んでいるらしくて全員ナイスバディの美女らしい。そして受付嬢をしながら将来有望な冒険者を青田買いしているらしい‥ 楽しみだウゴッ!」
舞い上がり過ぎてアキーエのぼでーをモロに受けてしまった‥
「あわわわ、マルコイさん大丈夫ですか?」
「ふんっ!ミミウそんな変態置いてささっと行くわよ。」
しばらくもんどり打って、のたうち回ったあとに2人を追いかけるのだった。
『エルフェノス王国』人族であるエルフェノス王家が治める王国である。大陸の東に位置する国であり、西側にウルスエート神聖国、南側にロレッタス獣王国が位置する国で、人間至上を謳っている神聖国と獣人族が治める獣王国との諍いに度々被害を被っている。
今まで大きな戦争を仕掛けた事も仕掛けられた事もなく平和な国である。しかし元々王国は、王都セイウットの北側にある魔の森から現れるモンスター討伐の為に出来た辺境国が大きくなったもので、モンスターの出現については未だ変わらずといったところである。
そのため王都には様々な冒険者が滞在しており、人族だけではなく獣人族、ドワーフ族など多種族が王都で活動している。
そんな王都に3人はおよそ20日間かけてようやくたどり着いていた。
「これがセイウットか!城壁もすごいな。」
マルコイが見上げているのは王都セイウットを囲む高さ10メートルはあるかという城壁だった。
王都の入り口で門番の男性2人が身分証の確認を行なっている。
マルコイたちは身分証となるギルドカードを提示できるよう準備をする。
(あれ?門番の仕事ってギルドカード見放題じゃないか?)
そう思い門番の男性に仕事について聞いてみると、基本的に門番の仕事は騎士など王国所属の人がするらしい。
確かに身元も明らかじゃない者が、門番の仕事をして揉め事など起こしたら目も当てられない。高名な冒険者などは門番として働く事ができるらしいが、門番などせずにモンスターと戦っている方がお金になるので、ほとんど引退した高名な冒険者が暇を持て余してする程度らしい。
(う〜ん、名前が少し売れてきたら門番で短期の仕事して模倣スキルを増やすのもいいかも‥)
そんな事を思いつつ、身分証を提示した3人は王都の中に進んでいった。
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