首都での拠点とする宿を決めた後、冒険者ギルドに行く事にした。
荷物を置いてすぐに行く予定だったが、食いしん坊さんが軽くでいいので食事をとりたいの事だったので宿付きのレストランで遅めの昼食を軽くとった。
流石に王都で2番目に大きな商会のトップが泊まる宿である。
獣人国の料理ではあるらしく、野菜や肉を煮込んだだけの料理ではあったものの素材の味が良く出ててとても美味しかった。
ミミウは軽くと言っていたが、2回ほどおかわりしていた。
いや、ミミウにとってはそのくらいが軽くなのだろうか‥
胃袋の中をちょっと見てみたい気がする‥
お腹が落ち着いたところで冒険者ギルドに向かった。
王都ではある事で入ってすぐに落ち込んでしまったが、獣人国は違うと思っている‥
いや信じている。
首都の冒険者ギルドは2階建てになっており、1階が受付や素材の買い取り、2階が資料室などになっているそうだ。
ギルドはお昼過ぎだったが、冒険者が多数おり受付にも数人の人が並んでいた。
並んでいる人の奥に受付嬢の姿が見えた。
どうやら兎人族の人のようで頭に長い耳が生えていた。
いよいよ自分たちに順番が回ってきたので受付嬢の前に立った時、デジャヴと絶望感を味わった‥
兎人族で長い耳を持った‥
マッチョおっさんだった‥
俺が持っているスキル【異世界の知識】でわかった事なのだが、異世界にもバニーガールという兎の耳を模した物を頭につける女性がいる。
そう‥世界が変われども兎人族の女性は万国共通で求められるものである。
「なんでおっさんやねんっ!」
思わず口から出てしまっていた‥
「あら〜ご挨拶ね〜。私は心は誰よりも女性よ。」
うさ耳でマッチョでおっさんでオネエだった‥
てんこ盛りだった。
力なく床に座り込み、地面を叩くマルコイを尻目にアキーエたちは受付向かう。
「わたしたちは王都から来たCランク冒険者です。これからしばらくは首都を拠点として活動をする予定なのでよろしくお願いしますね。」
「あら?その若さでCランクなんて凄いわね〜。活躍期待してるわよん。ところで‥地面を叩くのをやめて、のの字を書き出している子はほっといていいのかしら?」
「あ、大丈夫です。いつもの発作なので。」
「わかったわ。かわいそうな子なのね‥ところで王都からきたって事だけど、ここのギルドは他と違うところは1つだけよ。他の国は冒険者同士のいざこざは禁止してると思うけど、ここでは自己責任って事になるわ。理由はあまりにも揉め事が多いから。新人には絡まないよう高ランクの冒険者が目を光らせてるみたいだけど、中堅になると誰も止めないわ。もし困った事があったら私に言ってきて。私の名前はイザベラよ。こう見えて元Aランク冒険者だから。」
胸元に付いているグレイソンという名札を見ながら頷くアキーエ。
「今日は挨拶だけなので、明日また依頼を受けにきますね。」
アキーエたちはマルコイを引き摺りながらギルドを後にした。
「よしっ!鍛治ギルドに行こう!」
冒険者ギルドから引き摺り出されて、1時間くらい立った後にマルコイが言い出した。
「あれ?ここはどこだ?」
「ここは冒険者ギルドの近くにあるレストランで、あんたが復活するまで皆んなでお茶してたのよ。」
テーブルに3人分の紅茶が置いてある。
キリーエが変わった生き物を見るような目でこちらを見ている。
「マルコイさんて残念な人やったんやね‥こらアキーエちゃんも苦労するわ‥」
何故そこでアキーエが出てくるのかわからんが、今は置いておく。
「そんな事はどうでもいいっ!目指すは鍛治ギルドだっ!」
何か冒険者ギルドで衝撃的な事があったような気がするが、思い出せないのでいいとしよう。
冒険者ギルドからそう離れていない所に鍛治ギルドはあった。
付近には武器防具を取り扱っている店が多数あるようで、鍛治ギルドの周りは冒険者の他に鍛治に長けているドワーフがちらほら見かけられた。
「頼もーうっ!」
鍛治ギルドに入り周囲を見渡す。ギルドの受付嬢やギルドに用事があるのかドワーフが数人いる。
「ねえ。マルコイさんちょっとテンションがおかしいんだけど?」
「多分冒険者ギルドでの出来事がよっぽどショックだったんじゃない?まあそのうち戻るでしょ。」
後ろでアキーエとキリーエがコソコソと話をしている。
「はい。鍛治ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」
あ‥スキルを模倣する事しか考えてなくて、どうするか決めてなかった‥
焦って仲間を見る。
キリーエが多少呆れたような顔でカウンター前に来てくれた。
「私達は今日ロッタスに着いた冒険者なんですけど、旅の途中で装備品にガタがきたみたいなんです。それで近くの店で装備品を購入する予定なんですけど、よかったらギルドに登録されてる職人の方の名前とスキルを教えてくれませんか?自分達が購入したい装備に適したスキルを持ってある方のお店で買いたいので。」
「承知致しました。こちらにまとめてありますので確認された後、お返し下さい。」
おお!さすが商人キリーエさん。
「こんな時にも【高速思考】は便利なのよ。」
なるほど。あれ?俺にも【思考】がなかったか?仕事してください【思考】さん‥
受付嬢から借りた資料を確認する。
ザーイス
スキル【鍛治】
アイレス
スキル【研師】
ヤックス
スキル【加工師】‥‥
なるほど‥
さすがに鍛治ギルドに登録している人たちだな。
様々なスキルがあるが、ほぼ全てが鍛治に適したスキルのようだ。
とりあえず俺が持っていて役に立ちそうなスキルを抜粋して店の確認を行う。
今日は【鍛治】と【装剣師】の2箇所を回るとしよう。
「この【鍛治】と【装剣師】のお店に伺いたいので場所を教えてもらっていいですか?」
「わかりました。」
店の場所を教えてもらい、もし目当ての物がなければ明日も来る事を伝えてギルドを出る。
さてさて久しぶりにスキルを模倣しに行きますか!
紹介してもらった店はギルドから15分ほど離れた所にあった。
店の中は整頓されており、様々な剣や槍、鎧などか飾られている。
「いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」
店の中を見ていると40歳くらいの獣人族の男性が声をかけてきた。
「ギルドから紹介してもらってきました。ここの店主は【鍛治】を持ってあるそうなのでいい物があるかと思って。」
「なるほど。店主は私になります。こちらギルドカードです。」
男性は胸元からギルドカードを出してこちらに見せてきた。
ザーイス
鍛治ランクC
スキル【鍛治Lv.7】
「レベル7ですか!それはいい品を作られそうですね。」
「はは。私はスキルが発現してからすぐに見習いとしてこの世界に入りましたから。長年このスキル【鍛治】を使って装備品を作り商売しております。【鍛治】は常時発現スキルではありますが、品物を作らないと上がりません。20年以上使用してやっとこのレベルまで上がりました。」
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【鍛治】を模倣しました。』
よしっ!鍛治関連のスキルは常時発現スキルみたいだから、見なくても模倣できるみたいだな。
目的は果たしたが、すぐに店を出るのは申し訳ないのでしばらく店の中を見て回る。
「これ10本まとめて買うからもう少し安くしてくれん?」
ん?
「1本金貨1枚を10本で金貨7枚で!」
「それじゃ商売にならないよ。10本で金貨9枚なら。」
「じゃあ10本で金貨7枚と銀貨5枚でっ!」
「金貨8枚と‥」
キリーエの熱い戦いは続きそうだったので先に店を後にした‥
キリーエは30分程度戦いを繰り広げた‥
た、頼もしい仲間だ‥
次に紹介してもらった店に行く。
そこでも同じ様に説明を行う。
『模倣スキルを発現しました。スキル【装飾師】を模倣しました。』
初日の成果としては上々だろう。
今日はこのくらいにして宿に戻ることにした。
「マルコイは装備品買わなくてよかったの?」
先程の装飾師がいる店で杖を購入したアキーエが聞いてきた。
ミミウは何も購入しなかったが、アキーエは杖、キリーエは剣を10本購入していた。
「せっかく鍛治ギルドのスキルを模倣できるんだし、できれば自分で作ってみたいと思ってさ。」
「でも模倣できてもレベル1でしょ?だったら高レベルの人が作った武器なんかがよかったんじゃないの?今使ってるのも、そこまでいい品じゃないでしょ?」
確かに今使ってるのは魔族との戦いで折れた剣の代わりに購入したもので、鋳造で作られた量産品である。
「男のロマンってやつさ‥」
アキーエに白い目で見られた‥
「ロマンって美味しそうな響きですぅ。」
ミミウさんや‥今度首都にも屋台でてるから、屋台回りしような。
宿に戻るため、帰り道を歩いていると鍛治ギルド周辺の店を抜けるところで目の前に男が出てきた。
「お兄さん!よかったらうちの店ものぞいていかないかい?」
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