王都に入った3人はまず拠点となる宿探しから始めることにした。
本来ならギルドに行っておすすめの宿を聞くつもりだったが、ミミウの「ご飯が美味しいところがいいです!」の一言で、聞き込みをしながら宿を探すことにした。
マルコイが綺麗な女性にばかり声をかけ、アキーエからぼでーを喰らわせられる以外は特に問題なく、美味しいご飯を出す宿を見つける事ができた。
「ここが宿屋『大きくて可愛い熊』か。」
かなり変な名前ではあるが、食事はボリュームがあり、美味しいらしい。宿の主人が熊みたいな顔をしていて敬遠されがちな為、女将さんが可愛い名前をつけたとかなんとか‥
とりあえず30日分のお金を払い2部屋確保する。
俺は1部屋でいいと思ったが、お金も多少はあるので2部屋借りることにした。
けっしてアキーエが怖かったからではない。
昼過ぎだったため、ギルドに行く前に腹ごしらえをする事になった。
さっそく宿の自慢の食事を食べる事にした。席に案内してもらい座ると正面のミミウと目が合う。
うん、すごいね涎‥
今日のメニューは猪肉のシチューで、しっかりと煮込まれた肉がスプーンで押しただけで繊維がほぐれる柔らかさだった。
「うん、美味しいな。宿は朝は付いてるし、夜も食べようと思ったらここで食べれるらしい。だからミミウゆっくり食べてね。」
皿まで食べてしまいそうなミミウにそう告げる。
「美味しいですぅ!やっぱり王都はご飯が美味しいですぅ!」
う〜む、喋り方が幼い‥実は素がこっちで、今までの喋り方は無理してたんじゃないかな?
パンも柔らかくて村で食べていた、スープにつけないと食べれないようなガッチガチのパンではなかった。
ミミウがポケットにパンを入れているのは見なかったことにしよう‥
ミミウが言っていたから、王都の食事は美味しいんだろうな程度で思っていたが、まさかここまで村の食事と違うとは思っていなかった。王都で強くなるという目的はあったが、それ以外にミミウと一緒に王都や他の国の料理を食べ歩くといった目的もいいのかもしれない。
腹を満たしたところで、さっそくギルドに向かう事にした。
さて、ターナカさんが言っていたオヤクソク?ってやつを確認しなくては。
マルコイたちは緊張した面持ちでギルドに向かって行った。
「おう!待たせたな!ギルドに何のようだ?」
‥‥‥‥
俺の前にガチムチのおっさんがいる‥
昼過ぎではあったが、さすがに村のギルドとは違い、チラホラ冒険者達もいる。
そしてそんなギルドのカウンターに座っているおっさんだが、人相も悪いので多分捕まった盗賊なんかだろう。
「おっさん、牢屋から抜け出してきたのか?俺はギルドに用事があってきたんだが、受付嬢の人を呼んでくれないか?」
「誰が牢屋から抜け出してきただっ!俺はれっきとしたギルドの受付嬢だ。まあ嬢ではないがな!」
男はガハハハッと笑っている。
なぜだ‥
王都の受付嬢はナイスバディのお姉さんじゃなかったのか‥
ターナカさん‥
お、俺の旅の目的の1つが無惨にも消え去ってしまった‥
「わたし達はカーロッタ村からきた冒険者で、あの変態がマルコイで、わたしがアキーエそれとミミウよ。今日から王都を拠点として活動しようと思っているの。それで挨拶にね。」
「お、おう。あのピクピクしてるのはほっといていいのか?」
「いいわよ。そのうち元に戻るから。」
「わ、わかった。基本的にはカーロッタのギルドと同じと思ってもらっていい。ただ王都には常設依頼ってのがあって、モンスターや採取品なんかを持ってきてから依頼を受ける形でいいものがいくつかある。またカーロッタではなかったかもしれんが、指名依頼や緊急依頼ってのもある。これはどちらも拒否する事ができない依頼だと思っていてくれ。これを拒否するとなんらかのペナルティもあるしな。」
「その依頼はランク的にどれくらいから依頼されるんだ?」
「お、おう。もう体調はいいのか?」
「ん?何の話だ?体調は元から絶好調だぞ。」
「そ、そうか。さっきの話だが、指名依頼は基本的にCランク以上になる。だが指名だから依頼者との関係性で例外的にDランクでも呼ばれる時はある。あと緊急依頼は基本全ランクの冒険者が参加する事になる。」
「緊急依頼はどんな時にかかるんだ?」
「それこそ王都の危機だな。王都がモンスターの大群に襲われそうな時なんかだ。国の危機って時だ。戦争なんかは自由意志になる。あくまで冒険者ギルドは中立になるからな。しかし戦争で国がなくなるかもって時に参加しないなら、他国に逃げるしかないけどな。」
「あと一つ。なんで王都の受付嬢がおっさんなんだ?現実を受け止めるのに適した意味を教えてほしい。」
「またかよっ!まあいい。王都はいろんな国から冒険者が集まる。それこそ荒くれ者もな。だから揉めた時でも対応できるよう、対応力のある者がなる事が多い。お前の期待している受付嬢は残念ながら夢物語だ。」
マルコイがカウンター前で膝をつき、打ちひしがれているとカウンターの奥から女性が出てくる。
「どうしたんだい?さっきから大きな声を出して?揉め事かな。」
受付のおっさんに絡んでいると、後ろから声がかかった。
受付奥の階段から降りてきたのは絶世の美女だった。
もちろんナイスバディ‥
ではなくアキーエとどっこいどっこいだった。
アキーエからひねりの入ったローキックをいただきました。腿に入った。折れたかもしれない。
金髪で腰まである髪を靡かせて絶世の美女がこちらまで歩いてきた。
整った顔立ちで透き通るような白い肌。強い意志を感じさせる目だった。特に特徴的なのは長い髪のから出ている長い耳。彼女はエルフと呼ばれる種族だった。
「ギルドマスターすいません。カーロッタからきた冒険者にギルドの説明をしていたところでした。お騒がせして申し訳ないです。」
「そうだったんですね。何やら楽しそうな感じだったので気になって見にきてしまいました。仕事の邪魔をしてすいませんね。」
「いえいえとんでもないです。」
おっさんは鼻の下を伸ばして話をしている。胸のボリュームは足りていないが、これだけの美人だ。おっさんの気持ちもわからないでもない。
そう思った瞬間、突然周りの温度が急激に下がったような気がした。
「いま、何やら不快なものを感じましたが‥」
慌てて目を逸らす。この殺気はAランクどころかもっと上かもしれない‥
「まあいいです。私は王都ギルドのギルドマスターでサベントと言います。お3人ともよろしくお願いしますね。」
「はい。わたしはアキーエで、こっちがミミウ。あの変態はマルコイです。」
「まぁ変態さんですか。変態はほどほどにしといてくださいね。何か困った事があったらバーントに相談して下さい。」
俺たち3人が誰?といった顔をしていたのを見て
「あら?バーント自己紹介してないのかしら?」
すると受付にいるおっさんがそういえば的な顔をしている。
「そういえば忘れてました。坊主達、俺はバーントだ。牢屋から出てきた賊じゃなく、れっきとした王都ギルドの受付だ。何かあればいつでも相談にこい。」
相変わらず釈然としないが、しょうがないので無理矢理納得する事にする。
「わかった、何か有れば相談に来る。明日から活動するつもりなんで、よろしく頼む。しばらくは様子見で近場のモンスターを狩るつもりだから討伐依頼中心になると思う。」
「それじゃ今日はこれで失礼する。」
そう言って一礼した後、サベントとバーントを【鑑定】する。
バーント
スキル【身体強化】
サベント
スキル【精霊魔法:風】【属性魔法:水界】
流石に魔法に長けたエルフ、スキルがえげつない。
エルフ特有魔法の精霊魔法に【属性魔法:水】の系統進化した属性魔法か。
おっさんの方は【身体強化】か。身体能力系のスキルでは希少スキルだな。
【鑑定】を使った時にやはりギルドマスターは何かに気づいたようだった。
高ランクに不用意に使用したら、バレて揉め事になるかもしれないな。
とりあえずギルドマスターが怖いので、今日のところは退散だな。
マルコイ達は拠点である宿屋に戻る事にしたのだった。
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