異世界のやつは真っ白だったが、少し茶色い炊き上がりだな。
量が少ないので少量ずつ分ける。
「美味しいですぅ!」
早いなミミウ‥
「これがパンと同じように主食として食べる事ができるみたいだぞ。」
「うん。甘くて美味しいわね。」
アキーエも美味しいと食べてくれている。
あれ?キリーエが固まっている。
「どうしたキリーエ?口に合わなかったか?」
「ふふふふふ‥お金や。これは金になるっ!マルコイさん!これは道具があればもっと大量に作れるんですか?」
「そうだな。道具は作り方なんかは説明はできるぞ。炊かなかったら保存もある程度できるみたいだぞ。」
「ちょっと待っててください!この村の村長さんと少しお話してきますっ!」
そのままものすごいスピードでキリーエは駆け出していった‥
しばらくしてキリーエは1人の男性と一緒に戻ってきた。
聞けば村長の息子らしい。
「マルコイさん、この人に道具の説明と作り方を教えてくれません?」
「わ、わかった。」
キリーエの迫力に思わず後退りしてしまった‥
精米までの過程に必要な道具作り方や用法を村長の息子さんに教える。
「教えるのはいいんだけど、これが商売になるのか?」
「道具を作るお金やしばらく精米作りを重点的にしてもらうと思うので、ある程度の支度金を渡しました。定期的な精米の購入と数年ウチ以外に精米を売らない事を条件にしてます。この村は特産品が特になかったので、喜んで契約してくれましたよ。」
おお、この短時間でそこまでするとは‥
凄いな。この村の特産品を作って、しばらくはキリーエが独占販売するのか。
支度金まで用意してやるなんて、村の事もきちんと考えているんだな。
「うひひひひ‥市場の開拓、食品関連の人脈確保、商品の需要が‥利益が‥」
うん。怖い‥
見なかった事にしておこう‥
しかし【異世界の知識】は勇者たちの持ってる知識に左右されるはずだが、誰がこんな詳細な知識を持っていたんだろうか?
勇者やあやめは違うような気がする‥
あの中で唯一知識人っぽいのは恵だったから恵の知識なのだろうか?
「ぶえっくしゅんっ!」
「あやめちゃん‥今のクシャミはあまりにも女の子としてどうかと思うよ‥」
黒髪でロングヘアーの淑やかな雰囲気の女性がクシャミをした女性に声をかける。
「誰かが私の事を噂してるわっ!クシャミレベルからすると、多分イケメンね。」
黒髪のショートカットで勝ち気な感じがする女性が応える。
ウルスート神聖国に戻ってきた、勇者パーティの恵とあやめである。
王都にモンスターの氾濫が起こったと同時にウルスート神聖国でもモンスターの集団が確認された為、訓練先の王都からすぐに召喚された神聖国に戻り数日前に到着したのだった。
モンスターの氾濫に魔王が絡んでいるのであれば、神聖騎士団では手に負えないため、急いで戻ってきたのだが、モンスターは確認された場所から動く事がなかったため現在も騎士団による監視が行われているのであった。
「あ〜あ、もう異世界に来て1年近くなるよ〜。でも甘酸っぱい思い出とか物作りチートとか全然できてないんだけど〜‥」
あやめ達は異世界に来て1年近くなるが、ほとんど神聖国で過ごしており誰かの監視下での生活を余儀なくされていた。
「エルフェノス王国に行く事になった時はやっと私の知識の出番だって思ってたのに、すぐに蜻蛉返りになるんだもん。せっかく異世界召喚された時の為に米の作り方とか味噌や醤油、いろんなのを覚えてたのに神聖国には原材料が全くないんだよ!お米食べたいよぉ〜‥」
「あやめちゃんそう言えば、いつか役に立つって一所懸命覚えてたね‥」
確かに和食食べたいなと思っている恵の元にガーノスと正人達がやってくる。
「まだモンスターが動く様子はありませんね。もうしばらく様子見して魔族や魔王の動きがなければそのまま討伐に動くようです。」
ガーノスの言葉を聞き、恵は言い表せない不安を感じながら外を見つめていた。
「ねぇマルコイさん。他に何かお金になりそうな話はないの?」
キリーエが契約をまとめる為、1日村に滞在した後に獣人国に出発した。
道中で米で成功した(本人曰く確実らしい‥)事で俺の知識にお金の匂いを感じたらしいキリーエが聞いてきた。
「あるのはあるけど‥何か見かけたら教えるようにするよ。でも教える代わりに品物とか少し安くしてくれよな。」
俺が覚えていた知識ではなく突然手に入れた知識なので教える事にそれ程抵抗はないのだが、少しくらいは俺たちにもメリットがあればいいなと思ってしまった。
「何言ってるの?米の件もそうだけど、ちゃんとマルコイさん達に商品の使用料は払うよ。今回の米は最初に教えてもらった道具の料金をまとめて渡すけど、お客に買ってもらう商品とかだったら売れた分の1割程度は渡すつもりだよ。」
「え?そうだったの。」
「もちろん。ウチはお金儲けさせてくれた人との繋がりは大事にしたいからね。特にマルコイさんとの繋がりは大事にしたいと思ってるからね〜。」
はは。やっぱりキリーエは信頼できる。
お金が絡んだら特にだけど。
「マルコイ。キリーエさんには伝えてもいいと思うよ。」
アキーエも同じか。俺もいいんじゃないかなと思っていた。
「キリーエ。話してなかったけど、実は俺のスキルは【模倣】って言ってさ。」
俺はキリーエに自分のスキルの事と、勇者たちの事は伏せて【模倣】スキルの副産物として別の世界の知識を得る事ができたと話をした。
「マルコイさん!凄い‥凄いな!この世界にない知識をまだまだ持ってるってことなんや!」
話を終えるとキリーエが抱きついてきた。
「ウチはついてる!最初に護衛してもらった人がこんな凄い人やったなんて!マルコイさん何か思いついたり商品に出来そうな物があったらいつでもウチに言ってや!」
「わかった。これからもよろしくな。」
う〜ん、女性の身体は柔らかくて気持ちがいいなぁ。胸の辺りがもう少し柔らかかったらなぁと思っていたら魔力を杖に込めているアキーエと目があった‥
予定より少し日数がかかったが、20日ほどで国境に着くことが出来た。
国境では俺たちは冒険者ギルドカード、キリーエは商人ギルドカードを提示して国境を超える事が出来た。
「ふーん。国境越えたからって何か変わるわけじゃないんだな。」
「それはそうでしょ。国境の壁越えたら一面雪景色でしたなんてあったら、誰も国境越えようなんて思わないわよ。流石に生活環境変わり過ぎでしょ。」
アキーエが呆れ顔で言ってくるが、国境越えたら建物の造りが違ったりとかちょっとだけ変化を期待してただけなんだが‥
思ってることのスケールがでかいな‥
「流石にそこまで思ってなかったけど、建物とか少し違うかなって。」
「獣人国に行けば少しは違いますよ。ウチも父の手伝いで数回しか行ったことないですけど、石造りの建物が多かったりしますよ。」
流石商人だな。
俺たちは初めてだから、いろいろとキリーエに教えてもらうとしよう。
「食べ物も違いますか?美味しいですぅ?」
ミミウは相変わらずブレないな‥
「王国と違って、そこまで調理に力を入れてませんね。でも素材の味がいいと思うんですが、美味しい料理も多いですよ。」
あ、ミミウの涎が‥
「じゃあ早く街に行くですぅ!」
「そうだな。さっそく次の街に行くとするか。獣人国は治安とかどうなってるんだ?」
「あまり良くないですね。首都や街は大丈夫ですが、街道なんかは盗賊とか出るみたいです。ここからは商人は護衛がいないと進まない方がいいって言われてます。」
盗賊ね。ここまでの道中はモンスターが数回襲ってきたくらいで盗賊なんていなかったからな。
気を引き締めていかないと。
今まで以上に警戒して進む事にした。
次の街まであと1日程度のところでミミウが遠視で人影を発見する。
「マルコイさん。何人か街道の真ん中でこちらを伺ってるみたいで、あと茂みにも何人かいるみたいですぅ。」
「茂みに隠れてるなら、ほぼ盗賊で間違い無いだろうな。」
ふとアキーエを見ると杖に魔力を溜めてらっしゃる‥
「アキーエ‥何をしてるのかな?」
「え?ここからまとめて魔法でぶっ飛ばしてしまった方が早くない?」
う〜む。アキーエの言ってる事も一理ある‥
「よしっ!アキーエさんやってしまいなさいっ!」
「あかんあかんっ!なんでそうなるんっ!もし旅の人とかだったらどうするんですかっ!」
あら?キリーエさん意外と常識人。
もちろん冗談で‥
「跡形もなく吹っ飛ばしたらわからないわよ。」
アキーエさんは本気でありましたか‥
「とりあえず警戒して進もう。ミミウ、茂みに隠れてる人が弓持ってるかもしれないから注意してくれ。」
「わかりました!」
街道いる人が認識できたあたりで、向こうから声をかけてきた。
「おうおう。悪いがここを通るには通行料払ってもらおうか?そこの荷馬車でいいぞ!」
うん、やっぱり盗賊でした。
吹っ飛ばした方がよかったかも。
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