こんなとこで客引き?
そう思っていると男が話を続けてくる。
「うちのお店は鍛治ギルドの奥にあってなかなかお客が来ないんですよ。よかったら寄っていただけませんか?お安くしますよ。」
今日は特に予定もなかったので、お腹が空いたとぐずるミミウにパンを渡して男の店に向かう。
「確かにこんな所にあるなら客は来ないな〜。」
男の店は鍛治ギルドから奥に進み首都の外壁付近にあった。
店自体は小綺麗にされており、客が見やすいよう展示品を並べてあった。
しかし剣、槍がほとんどで防具類は見当たらない。
「私の名前はサミュウと申します。スキル【鍛造】を持っていて、主に武器類を販売しています。」
「スキル【鍛造】ですか?鋼を叩いて伸ばすやつですよね?」
「はいそうです。なのでうちで取り扱っている商品は剣や槍といった鍛造を用いて作成した商品を取り扱っています。」
サミュウは自身のギルドカードを提示しながら伝えてくる。
あれ?模倣しなかったな。【鍛造】を聞くタイミングが悪かったのか?
そう思いながら、サミュウのギルドカードを確認する。
サミュウ
鍛治ランクD
スキル【鍛造Lv.5】
確かにスキル【鍛造】持ちだ。
「剣の装飾とかはどうしてるんです?」
「はい。私が得意とするのは【鍛造】までですからね。他は装飾師や装具師などに頼みます。」
やはり模倣する気配はない。もしかしてスキル【鍛造】に関しては見て確認しないと模倣できないスキルなのか?
「この武器類はこちらのお店で作ってるんですか?」
「はい。店の奥に炉があるので、そこで作っていますよ。」
「すいません。厚かましいお願いとは思うんですが、その炉を見せてもらう事ってできますか?」
「今日は店を閉めてから少し作業をしようと思っていて、ちょうど他のものに炉に火を入れるよう言っていたのでお見せできますよ。」
自分でも無茶なお願いだと思っていたのに、結構あっさりと承諾してくれたな。
「私のスキル【鍛造】は他にはあまり見ないスキルでして。お店に来られたお客様でたまに作業を見せてくれないか?って人もいらっしゃるんですよ。」
なるほど。
スキル【鍛造】はなかなかレアなスキルのようだ。
サミュウに連れられて、店の奥の作業場に移動する。
作業場には炉が設置してあり、すぐにでも鍛治ができるよう準備がしてあった。
「では作業中のショートソードの鍛造をしますが、しばらく時間が掛かりますが見ていかれます?」
サミュウに聞かれてパーティの皆んなを見る。皆んな頷いてくれたのでそのまま作業を見ることにした‥
作業場に鋼を叩く音が響き、火花が散る様を見つめていた。
ミミウがウトウトする以外は特別な事はなく作業は終了した。
「これを繰り返し様々な温度で叩く事で不純物を取り除き剣を作り上げます。」
汗を大量に滴らせてサミュウがこちらにやってくる。これだけ大変な作業を続けるから、鍛造は鋳造に比べて、やはり時間もかかるし値段も高くなるはずだ。
「ありがとうございます。素晴らしい物を見せてもらいました。」
「それはよかったです。私も自分のスキル【鍛造】に誇りを持ってますから。」
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【鍛造】を模倣しました』
『スキル【鍛造】を確認しました。統合条件を達成しました。模倣スキル【鍛治】【装飾師】【鍛造】を統合します。スキル【剣匠】に統合しました』
おおっ!
スキルが統合できた。幾つか模倣して統合できたらいいなとは思っていたが、こんなに早く出来るとは思わなかった。
しかしスキル【鍛造】が必要だったとなると、今日の出会いがなかったら統合も出来なかっただろうな‥
だってこんな外壁側の端にある店は多分来なかっただろうし‥
スキル【剣匠】か。
スキルを得たと同時に様々な知識というか感覚が頭に入ってくる。
炉の温度や鍛造する状態などが今ならわかる。
うわ〜、めちゃくちゃ鍛治してみたい‥
「サミュウさん。ここは特注で剣を作ってもらう事はできますか?」
「はい。お受けしてますよ。ただお値段は展示品よりお高くなりますけどね。」
「それと相談なんですが、料金はきちんと払いますので俺にここの炉を使わせて貰えないでしょうか?」
作業を見せてくれと言ってきた人はいるだろうが、作業場を使わせてくれと言ってくる人はいなかったのだろう。
サミュウさんは少し驚いた様子の表情をしていた。
「それは構いませんが、お客様は鍛治スキルを持たれてるんですか?」
まあそうなるよな。
さて唸れ俺の【思考】!
「俺のスキルは少し特殊で色々と応用が効くんですよ。ははは‥」
‥‥‥唸らなかった。
「別に構いませんよ。ただ使用する時間はこちらで指定させてもらっていいですか?あと作業場の使用料はいただきます。素材はどうしますか?」
「素材はちょっと検討させてください。自分で用意できるのはやってみたいんで。」
「それじゃ素材や日にち等が決まったら教えて下さい。それまでにこちらも時間を検討しときますね。」
サミュウさんに礼を伝えて店を後にする。
「いきなりどうしたの?またスキル統合とかしたわけ?」
さすがアキーエさん付き合いが長いとわかりますか。
「その通り!スキル【剣匠】を発現した!これで自分だけの武器を作れるぞ。」
「それで素材とかどうするの?採掘しに行くの?」
ふふ。アキーエの呆れ顔も見慣れたもんだ。でも笑っているから楽しんでいるとは思うけど。もしかして採掘マニアとか?
しかし採掘もいいが、でるかわからない物を探すより適任がいるからな。
「キリーエ。剣の素材なんかはこの街で手に入るのか?」
「そうね。多分市場に行けば、手に入るとは思うけど専門じゃないから品質とかはわからないわよ。」
「ふふふ。うちのパーティには【判別】のスキルを持っているアキーエがいる。それで良質な物を判断して、キリーエの交渉能力で安く手に入れるのだ!」
「あ、なるほど。それならいい物が安く手に入りそうね。」
「そして市場なら食べ物も出てるはずだから、ミミウの食欲も満たす事ができるばす!なので明日は皆んなで市場巡りをしよう!」
翌日、朝から首都の市場に向かう事にした。
「よっしゃー!着いたぞ!それじゃミミウの希望である食べ歩きをしながら鉱物を探すとしよう。」
「やったですぅ!食べ歩きを楽しむために、今日は朝ご飯も少なめにしてきました!」
「少なめって?」
「朝のスープとパンとサラダを2人前しか食べてないですぅ。なのでもうお腹が空いてきました。」
少なめ‥
少なめの定義ってなんだ‥
「でも色々食べるつもりだったから、ウチやアキーエちゃんも朝は抜いてきたよ〜。」
やっぱり女性は皆んな食べるのか好きだな。実は俺も楽しみにはしてたんだけどな。
首都の南門付近にある市場は新鮮な物は早朝に売り出すが、それ以外にも屋台や露店などが並び、仕入れ以外でも需要があるため沢山の人で賑わっていた。
俺たちはさっそく腹ごしらえも兼ねて屋台を回る事にした。
驚いたのが、王都の屋台でアドバイスをしたポテトフライがすでに首都にあったことだった。
昔からあったのではなく、ここ最近出店される様になったとの事で王都で売れた事で、ここロッタスにも入ってきたようだった。
まぁ調理自体は簡単だしな。
こっちで売っている物を食べたが、やはり美味しかった。
首都の屋台は凝った物はやはり少なく、基本的には串に刺した物を焼いてそのまま食べる物が多かった。
しかし肉や野菜の他にほとんどは生で売っていたが、時々果物まで焼いて売っているのには驚いた。
バナーナが焼いて売ってあるのには正気を疑ったが、食べてみると以外に美味しい事にこちらが驚いた。
焼く事で甘味が増しており、獣人国のとりあえず何でも焼いてみようの文化を不覚にも見直してしまった。
気になったのは、小麦の粉を水で溶いた後に串に丸めてくっつけて焼いている物だった。
味付けは塩のみであったが、パンに近いものになっていて中々美味しかった。
しかし小麦の粉が売っているのか‥
「ミミウ。あの小麦の粉が甘くて美味しい食べ物になるって言ったらどうする?」
「粉を買ってくるですぅ〜!」
ダッシュで小麦の粉を買いに行った。他にも必要な物があるんだけど‥
もう見えなくなった。迷子にならないといいなぁ。
無事に買って戻ってきたミミウに小麦の粉以外に必要な物を伝えると、また疾風のように走って行った‥
しばらく食べ歩きをしていると、ちらほら鉱物が売ってある店があった。
気になる店に寄りながら目的の物を探しているとインゴットされていない鉱物の塊を置いてある店を発見した。
ほとんどが鉄や銅といった物、金の混じっている鉱物もあった。
そこでやっと見つけた。
小ぶりではあるが、俺が必要としている量としては十分である。
やはり希少な鉱物だけあってかなり高額な値段が表記されている。
「アキーエ。あの鉱物の判別をお願いしていいか?そして質的に問題がなければキリーエに値段交渉をお願いしたい。」
店にあった俺の目的の金属はミスリル。魔法銀と呼ばれる金属だ。
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