音楽とは精神と感覚の世界を結ぶ媒介のようなものである。
ー ベートーヴェン ー
私は、五百川七々。小さい頃からヴィオラをやっていて、いまはヴィオラ奏者として活躍をしていた。でも今は耳の病気に侵されたのが原因で、最近はコンサートでも絶不調。
もう耳も治っているのに……
怖くて、どこか虚しくて、苦しくて、音楽が嫌いになり始めている。いままで凄く楽しかった。ヴィオラの音、他楽器の音に包まれて演奏するのが、愛おしくて、面白くて、楽しかった。でも、いまはちがう。
まったく楽しくない。楽しいはずの音楽、私を変えてくれた音楽でさえ、演奏するのが怖くて怖くて怖くて堪らない。どうしたらいいのか分からない。なぜ、ヴィオラを続けているのかも分からない。何をしたらいいのかわからない。
私は、ついに死ぬことを考えてしまった。こんな苦しいなら死んだ方がましだ。せめて好きだったこのヴィオラと海で死のうと、私は夜、海にいた。
私は海へ飛び込もうと、目をつぶりながら、向かった。
そんな時だった。辺りが明るくなった。朝の太陽のような明かりではない。まるで夏の花火のような光りだった。
私は瞬く間にその世界に包まれ、七々は瞳を閉じた。
ヴィオラを胸に抱いたまま、その世界へと包まれ、飲み込まれてしまった。どこか温かった。表現するなら、お母さんのお腹の中の温もりのようだった。
私は、どうなるのだろうか。その時だけ少しだけ引き攣っていた顔が柔らかくなった感覚になるを覚えた。
ー ページ#000 音・序章 ー 続く。
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