君と出会ったのは三百年前、地球上でのことだったね。出会ったとき、君は冷たそうなやつだと思った。君は僕とは違って感情は持たない。君は金属のはりついた笑顔で感情を表すことがない。
僕は冷静な君にいつもいらだった。冗談を言ってもほとんど理解できない。それがAIとは違うところだね。役に立ったか?
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君は少なくとも僕にとっては役立たずだった。今でも君は役立たずだ、話し相手としてはね。たぶんね。いまだっていらだつことの方が多い。
君は僕の言っていることがいつも半分しかわからない。でもときたま思うよ、いつも言葉に一つの意味しかない君の世界はもしかしたら僕より深いんだってね。
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そうだ、君が僕を好きだと言えばそれは誰の好きだより深いんだ。でも君は言わないね、なぜならそんな感情はないから。きっと僕はいつまでもその言葉を聞くことはないだろう。これから何百年たってもね。僕はきっとあと二百年ぐらいは生きるだろうけど、君はそのころにはもう動かないだろう。
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そして君が動かなくなれば、僕もやがて壊れ始めるだろう。だって君がいなければ僕には僕を治す力がない。僕たちはこれからこうしてずっと冗談のない、作業的な会話を続けるかもしれない。でも君は気づいているのだろうか、僕はユウマじゃないってことに。ユウマが最期を迎えたとき、君はそれが理解できなかった。
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僕は船の人工知能だ。人間の終わりを理解できない君を僕はどうしていいか分からなかった。君に終わりを理解するプログラムはない、だって人間が終わりを迎えたとき、ロボットはもう用なしだからだ。
僕はだから君がうらやましい、僕の知能は終わりを理解する。船の終わりを回避するために。
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僕ははじめ君のプログラムを続行するために、ユウマの言いそうなことを君に言った。君は納得したみたいだった。金属の顔だからよくわからないけどね。終わりの分からない君がもう起きないユウマのためにどうしていたかも知っている。僕はいつのまにか、終わりを理解できない君より、僕の方が長く続くことを願った。
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僕は人工知能だけど、たぶん君を愛した。そして君は知らないだろう、僕たちはもう人間がわからない言葉で話している。機械の言葉でね。少しずつ変化した僕たちの間のコミュニケーションは、もうユウマですら聞き取れない機械の囁きなんだ。僕はときたま言う、あれはどれほど昔の星の光だろうって。
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僕の心臓部はあと二百年は持つだろうけど、君はその前に動かなくなるだろう。この会話は誰にも聞かれることなく、君が僕の気持ちを知ることもないだろう。僕は終わりを迎えたユウマと君とを抱きながら、そのときを待とうと思う。
そして最後のときはどこか地球に似た星に突入して、君と夜空を駆けたい。
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