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殺し屋と少女の物語
百はな
百はな

48.笠間春と言う男

公開日時: 2023年11月22日(水) 21:07
文字数:5,163

CASE 二郎


僕には、殺したい男がいる。


絶対に、この手で殺してやると誓ったんだ。


笹木那津(ささきなつか)が殺された、あの日から。


「春!!置いて行くぞ。」


ブルルルッ…、ブルルルッ!!


改造された250cc ホンダ CB250T(バブ)に跨る那津は、俺の相棒だった。


青に染められた髪を後ろに流しているが、前髪が少し垂れていて、釣り上がった目、黒のスカジャンを

着ていた。


スカジャンの背中には、Loneliness(ロンリネス)の刺繍がされていた。


チームLoneliness、意味は孤独。


俺も那津も孤独だった。


親にも学校にも見放された俺達は、最初からウマがあった。


那津と知り合ったのは、中学の頃だった。


お互い似たものを感じたのか、話をしたらすぐに仲良くなった。


俺は那津が14歳の時にチームを作り、孤独だった奴等を仲間に入れ、バイクに乗って走った。


売られた喧嘩を買い、他のチームの奴等と喧嘩をしての繰り返しだった。


俺と那智は、2人で最強だった。


俺はそんな生活でも、楽しかったんだ。


那智と仲間さえ居れば、この先だって楽しくなるものと思ってた。


中学にも行かずに喧嘩ばかりしていた僕を、両親は見限った。


いや、居ないものとして扱った。


その頃から、家には帰らず、那津と溜まり場に住み着いていた。


溜まり場を貸してくれた先輩の仕事を手伝い、その日暮らしをするのが、当たり前になった。


仕事と言っても塗装屋の真似事。


バイト程度の仕事をして、溜まったバイト代で、バイクの部品を買ったりした。


余った金は先輩に家賃代として渡していた。


そして、那津の弟である笹木莇(ささきあざみ)がチームに遊びに来ていた。


まだ12歳のクソガキだった。


莇は何故か、俺に懐き、髪色を真似してきた。


溜まり場で自分のバイクを改造していると、莇が走って来た。


「春!!隣で見てて良い!?」


「あ?お前、学校はどうした。」


「抜けて来た!!春だって、学校行ってないじゃん!!」


「俺は良いんだよ。那津が心配するぞ。」


「兄貴の事を出すなよ!!」


莇はそう言って、不貞腐れる。


「なぁ、見てて良いだろ?」


「仕方ねーな、好きにしろ。」


「うん!!」


「馬鹿っ!!くっつくな!!」


「良いじゃーん!!」


俺に抱き付いた莇は、満面の笑みを浮かべた。


「おいおい、春。まーた、莇の世話か?」


「どっちが兄貴なのか、分からねーな?春。」


周りに仲間が集まり、俺と莇を見て軽く笑う。


「あれ、莇。お前、学校はどうした。」


「げっ!?兄貴っ…。」


「また、サボったのか。」


「ゔっ…。」


「母さんが心配するだろ。」


ドカッと俺の隣に座った那津は、煙草を咥えた。


「莇、あんまり母さんに心配掛けんなよ。」


「兄貴を邪魔者扱いする母さんは嫌いだよ。父さんも兄貴を邪魔者扱いして…。何で?何で、兄貴だけ…。」


「俺はお前だけでも、可愛がってくれるだけで満足だよ。俺の家族は春と莇、チームの仲間だ。お前は


まだ子供なんだから、親に甘えとけ。」


那津なそう言って、莇の頭を乱暴に撫でた。


「何だよ、子供扱いしやがって。」


「ハハッ、それが嫌だったら、俺よりも大きくなる事だな。那津にも甘えない所から、初めねーとな?」


「ゔっ、そ、それはないだろ!?」



「「「あははは!!!」」」

那津と莇、チームの仲間がいれば良い。


そう思っていたのに、俺の生活は音を立てて、壊れ始めていた。



1年後、莇が小学校を卒業し、チームに入った頃。


俺達と敵対しているチームが、俺達の地元で暴れていた。


俺と那津に喧嘩を売り、負けて帰っての繰り返しの日々を送っていた。


季節は冬、那津がツーリングに誘って来た。


俺と那津は地元から離れた、海に到着し煙草を吸っていた。


真冬の海は幻想的で、白い雪が海に溶けて行った。


「春、莇の事を頼むな。」


「あ?お前の弟だろ?何で、俺が…。」


「莇、春の真似して髪も染めて、春の後ろばっか付いて来てるだろ。可愛いよな。」


「鬱陶しいくらいだ。那津のブラコンもきめーな。」


俺がそう言うと、那津は蹴りを入れて来た。


ドカッ!!

 

「痛ってーな!?何すんだよ。」


「くらえ、ブラコンキック!!」


「だから、やめろって!!」


「マジな話、本当に頼むよ。」


那津は真面目な顔をして、僕の顔を見つめた。


「何だよ、急に…。」


「俺の家族は弟と春だけだ。莇が道を間違えそうになったら、止めてくれ。お前の言葉の方が、莇には効く。」


「分かったよ、仕方ねーからなぁ。」


「ありがとう、春。」


「マジで、どうしたんだよ?那津。」


俺の言葉を聞いた那津は、白い煙を吐き、煙草を空き缶の中に入れた。


「何でもねーよ。」


「俺に隠してる事、あんだろ。それぐらい分かる。」


「あ?あー、お前には、お見通しか。」


「言えよ、俺に。言えねー事なのか?」


「そうじゃねーよ。敵対してるチームの奴が、莇の

事を狙ってる。俺の弱みと知って。」


アイツ等なら、やりそうな事だ。


敵対してるチームは、卑劣な奴等の集まりだった。


有名な私立に通ってる生徒が殆どで、薬やヤリ捨て、窃盗などをしていた。


俺の地元の女達も、ソイツ等に食われてる。


無駄に頭が良い所為で、やり方も陰湿だ。


「俺は莇を守りたい、お前の事も。」


「那津、1人で乗り込む気じゃねーよな。」


「ハッ、そこまで分かんのかよ。」


「1人で乗り込むのは危険だ。俺も行く。」


那津なら、1人で片付けようとするだろう。


だけど、相手は何をして来るか分からない奴等だ。

那津を1人で、行かせられない。


「那津、俺は仲間だ。お前1人で行かせられねぇ、行くなら俺もだ。」


「春、お前はどこまで、男前なんだよ。」


そう言って、那津は俺の肩に顔を埋めた。


「正直な話、莇に何かあったらって思うと…。すげー、怖い。」


「当たり前だ、家族が危ない目に遭うのは、誰だって嫌だろ。」


「お前が死んじまったら、どうしようって、思うようになってさ?俺、お前まで失ったら…。」


俺は乱暴に、那津の頭を撫でた。


ワシャ、ワシャ、ワシャ!!


「うわっ!?春!?」


「俺はお前を置いて、死なない。お前と俺は、2人で最強だ。守ろうぜ、チームも莇も。」


「あぁ。」


俺達は拳を合わせた。


これが、最後になるとは思ってもいなかった。


敵対してるチームと、俺達のチームは本格的な潰し合いになった。


大きな倉庫に両チーム集まった瞬間、殴り合いが始まった。


ドコッ!!


バキッ!!


俺は次々に、向かって来る敵のチームの奴等を殴り飛ばす。


「グハッ!!」


「ガハッ!!」


「邪魔だ。」


数が多過ぎるな…。


那津の方は大丈夫そうだが、莇はまだ喧嘩慣れしていない。


「おらああああ!!ガハッ!!」


殴りかかろうとした敵チームの男に、蹴りを入れる。


「春さん、ここは任せて、那津さんの所へ!!」


「あぁ、頼む。」


この場を仲間に任し、那津の所に向かった。


その時だった。


血相を変えた莇が、こっに向かって走って来た。


「春!!兄貴が、兄貴が!!」


嫌な予感がした。


莇の頬や手に、血が付着していた。


ドクンッ。


心臓が痛いくらいに脈打った。


俺は急いで、那津の元に向かった。


「那津…?」


俺目の前で、体から沢山の血を流してる那津が、倒れていた。


那津の背中に突き刺さったナイフ、カタカタと震える眼鏡の男。


「お、おれは…、悪くない!!悪いのは、コイツだ!!」


「テメェ、ふざけんじゃねーぞ!!兄貴を刺したのは、お前だろ!?兄貴、兄貴!!しっかりしろ!!」


「っ!!」


「ゴフッ!!」


俺は眼鏡の男を殴り飛ばした。


「や、やめっ、ゴブ!!」


ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ!!


バキッ、バキッ、バキッ、バキッ!!


自分の拳が潰れるまで、眼鏡の男を殴り続けた。


「兄貴っ!!兄貴!!くっそ、止まれ、止まれよ!!」


莇は自分の服を脱ぎ、那津の背中を押さえる。


「は、る…。」


「っ!!那津!!」


眼鏡の男の胸ぐらを離し、那津の元に向かった。


「那津、しっかりしろ!!病院に行くぞ、急げば間に合う!!」


「春…、初めて会った日の事、覚えてるか?」


「今、そんな事、話してる場合じゃねーだろ!?」


「聞いてくれ…。俺はお前を見た時、手を掴んでやらなきゃって、思った。掴まないと、どこかに行っちゃいそうで…、放っておけなかった…ゴホ

ッ!!」


ビチャッ!!


那津の口から、血が吐かれた。


「兄貴!!もう、喋るなよ!?傷口が開くよ!!」


「春…、莇。2人は俺の生き甲斐で、大切な存在だ。莇にナイフが刺さらなくて良かった。」


「兄貴…、やだよ。死ぬなよ、兄貴…。やだ、やだよ。」


莇の目から、ポロポロと涙が溢れ落ちる。


那津の体が、冷たくなって行く。


「那津、分かったから…!!病院にっ!!」


「春…、チームと莇を頼む。」


「っ!?那津?那津!!!!しっかりしろ、那津!!!」


目を閉じた那津は、どれだけ体を揺らしても起きなかった。


体は冷たく、生暖かい血だけが流れた。


「那津さん?嘘だろ…、那津さん!!!」


「死ぬなよ、那津さん!!!」


チームの仲間も那津の周りに集まり、大きな声を出して泣いた。


敵のチームの奴等は、いつの間か倉庫を出て行った。


那津を殺した事に耐えれなくなったようで、足速に

倉庫を出て行ったんだろう。


俺達は急いで救急車を呼び、那津を連れ、病院に向

かった。


だが、搬送された病院先で、那津が死亡した事を告げられた。


「那津さん、那津さん!!!」


「嘘だって、言ってくれ!!!」


「那津さん…、死なないでくれよ!!!」


那津が眠る病室の中で、俺達は泣き続けた。


那津を失った俺達は、自然と溜まり場にも集まらな

くなった。


那津の家族と俺だけの小さな葬儀が行われた。 


聞いていた通り、那津の両親は涙一つ流さなかった。


2人は茶封筒の中身を見て、ニヤニヤしていた。


何だ?


何を笑って…。


「春…、あの封筒に大金が入ってんだ。兄貴を刺した野郎の親父が、渡して来たんだ。この件を黙ってろって、言って…!!」


莇はそう言って、床を叩いた。


コイツ等…、有り得ない。


人を殺しておいて、金で…、解決しようとしてる。


許せねぇ、那津を殺した奴も、その親も許せねぇ。



その日から、俺は那津を刺した男を殺す計画を立て始めた。


眼鏡の名前は泉淳(いずみあつし)で、泉病院の1人息

子だった。


親の金を使い、散々悪い事をして、親父に尻拭いをさせていた。


親も親で、金で解決させ、息子を甘やかしていた。

殺してやる。


2人まとめて殺してやる。


俺はフード付きのパーカーを着て、ナイフを隠し持ち、泉淳の家の近くを張り込んだ。


その先の未来なんて、どうでも良い。


キィィィ。


パタンッ。


夜、20時頃、泉淳の家の前に車が止まった。


あれは…、泉淳の父親。


「それでは、明日までによろしく。」


誰かに電話してるな。


まずは、この糞親父から殺す。


コイツが居たら、泉淳はまた自由になる。


俺はナイフを握りしめ、泉淳の父親の背中に向かって、ナイフを突き刺さした。


グサッ!!


「あ?ゔっ!?」


「死ね、那津の仇だ。」


「何だ、おまっ!?ぐっ!?」


グサッ、グサッ、グサッ、グサッ、グサ!!!


俺は泉淳の父親が動かなくなるまで、ナイフを刺した。


だだ、無心のまま、ナイフを刺した。


キィィィ。


パタンッ!!


俺の前に黒い高級車が止まった。


そして、降りて来たのは眼帯をした男だった。


「おい、泉を殺したのはお前か?」


「そうだけど、何?」


「へぇ、大した腕だ。どこかの殺し屋か?」


「違う、俺は那津の仇を取りに来た。コイツの息子を殺しに来た。先に父親の方を殺した。」


「ほう、だが…。泉淳はここにはいないぞ。」


男の言葉を聞いて、俺は驚いた。


「どう言う事?」


「君の言う、那津を刺した事に病んでしまった泉淳は、親戚の家に引っ越したそうだ。だから、ここに来てもいない。」


「アンタ、泉淳の居場所を知ってんの。」


「俺の仕事は、そこに転がってる男の身柄の確保だよ。残念ながら、居場所までは分からないな。」


「そう、コイツはご自由に持ってって。俺は泉淳を探して、殺す。」


俺の言葉を聞いた男は、フッと軽く笑った。


「お前、行く所はあんのか。」


「ないけど。」


「俺の所に来い。」


「は?何で。」


「殺し屋にスカウトだ。泉淳の事も、俺の所で調べれば良い。俺はお前が欲しい。」


この男は、何を言ってんだ?


殺し屋にスカウトだと?


「俺と来い。」


その言葉は、那津が俺と初めて会った時に言った言葉だ。


何で、この男が…。


その言葉を言うんだよ。


「俺と来いよ、俺はお前が欲しい。」


「本当に…、泉淳を探してくれるのか?」


「あぁ、お前の望むようにする。」


「分かった。行くよ、アンタと。」


「フッ、乗れ。」

俺は男に言われたまま、車に乗り込んだ。



これが、俺…。


いや、僕が二郎になった経緯である。


泉淳を殺す為に、僕は雪哉さんに拾われた。



目を覚ますと、兵頭会本家のソファーで眠っていたようだった。


「懐かしい夢を見た…。五郎…、いや…、莇。お前の為なんだよ。那津との約束を守る為だ。」


僕はテーブルに置いた煙草を取り、口に咥え火を付けた。

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