MOMO

殺し屋と少女の物語
百はな
百はな

16.Jewelry Words の能力

公開日時: 2023年3月4日(土) 11:12
文字数:3,930

CASE 四郎


キキキキィ!!


俺はハンドルを乱暴に切った。


車内は大きく揺れ、モモが俺の腕に強くしがみ付いた。


後ろから付いてくる車は更にスピードを上げ前にいる車達を次々とぶつかりながら抜いて来る。


ドゴドォン!!


キキキキィ!!


「ッチ、どこまで付いて来る気だ。」


ブブ!!


耳に嵌めているインカムが振動した。


俺は素早くインカムの電源を入れ、ハンドルを持ち直した。


「もしもし、四郎?一郎と六郎は少し遅れて到着するみたい。向こうも足止めを食らっちゃってるみたい。」


「分かった。適当に撒く。」


「了解、僕もちょっと、厄介な事に巻き込まれてあんまり連絡取れなくなるから。」


七海はそのままインカムを切った。


厄介事に巻き込まれた?


合流すると聞いて一郎達にも手が回っていると言う事か。


「四郎っ、右から近付いて来るっ。」


後ろの車が無理矢理、右側に入ろうとしていた。


俺は窓を開け、トカレフTT-33を構え運転している男の頭と前輪のタイヤに向かって銃弾を放った。


プシュッ、プシュッ!!


ブシャ!!


キィイイー!!


銃弾は男の頭とタイヤを貫き、車がスリップした。


1人を排除しても次々と追って来る数が増えて来る。


「鬱陶しいな。」


ブゥゥゥゥン!!


俺は更にスピードを上げ車から距離を離す。


ブゥゥゥゥン!!


「四郎っ、私も美雨ちゃんみたいに出来たら…。」


モモはそう言って、泣きそうな顔をした。


「はぁ、お前は美雨とは違うんだから比べても仕方ないだろ。」


「え…。」


モモはショックを受けた顔をし真っ青になって行った。


俺はモモを抱き寄せ、左側の窓を上げ弾き金を引いた。


プシュッ、プシュッ!!


キィイイ!!


放った銃弾はタイヤに当たりクルクルと回りながらスリップしていた。


モモの耳が真っ赤になっている事に気付いた。


「し、四郎…っ。」


「あ、悪い。」


俺はそう言って、モモを離した。


バックミラーに目を向けると、次々と追って来る車が増えているのが分かった。


増援をしたみたいだな。


完全に狙いはモモか…、ここまで分かり易いなんてな。


「何で、比べちゃいけないの。」


「は?」


「私と美雨ちゃんは同じJewelry Pupil なのに、四郎の為に使えてない。」


モモはスカートをギュッと握りながら言葉を放った。


「美雨ちゃんと辰巳さんが羨ましい…。私もあんな風に出来たら四郎に大事にされるのに。」


あの光景をモモは羨ましがってんのか?


辰巳さんと美雨の関係はそう簡単になれる物じゃない。


「俺とモモはまだあの2人になるのは無理だ。辰巳さんと美雨は一緒にいるのが長いから信頼関係が築けてんだ。」


運転をしながら俺は話を続ける。


「俺とモモはまだ知り合って数日しか経ってないし、信頼関係が出来てないのが当たり前だ。」


モモは黙って俺の話を聞いている。


俺がこんな風に誰かを慰め始めるような言葉を言えるなんて思ってもなかった。


ましてや、今から言う言葉を言うのも信じられない。


「だから、ゆっくり作っていけばい、良いんじゃねぇの。」


「本当?」


「あ、あぁ…。」


「本当に、本当?」


「だ、だからそう言って…。」


ガシャーン!!


急に追い掛けて来ていた車が数台、転倒していた。


「は、は?」


何が起きたのか分からなかった。


モモの髪がふわふわと浮いていて、モモが指を刺し

た車が次々と転倒し始めた。


「今、モモがやったのか?」


「心が満たされて行くの。」


「え?」


「四郎が私の為に言ってくれた言葉が嬉しかったの。心がポカポカしてふわふわするの。」


モモのJewelry Words の力が強まったのか?


俺がモモを励ますような言葉を言ったから?


モモは次々に車を転倒させて行く。


その姿は恐ろしさを感じさせた。


モモは嬉しそうに頬を赤らめながら関係ない車まで

転倒させ、車同士がぶつかり爆発した。


ドゴォオオオン!!


モモは見境なしに次々と車を転倒させる。


「おい、モモ。」


モモは俺の声が聞こえてないようだった。


「キャァァァァァァア!!」


「く、車が爆発したぞ!!」


「誰か救急車を呼べ!!」


外から聞こえてくる悲鳴越えと爆発音。


黒い煙が街の中を炊き込めさせた。


ポタポタ…。


モモの鼻から鼻血がポタポタと流れ落ちていた。


モモは鼻血にも気が付いていなかった。


コイツの頭の中は一体、何が支配してんだ。




モモが起こした爆発騒動に巻き込まれていたのは、

辰巳零士と九条美雨だった。


追手を撒いて車を走らせていると、四郎達が走っている道路に入っていた。


ドゴォオオオン!!


黒い煙の中から転倒した車が、辰巳零士と九条美雨が乗っている車に向かって飛んで来た。


辰巳零士がハンドルを切ろうと瞬間、九条美雨が両手を握り目を瞑った。


ガシャンッ!!!


飛んで来た車が赤い鎖に絡まり動きを止めた。


「お嬢?!まさかJewelry Words を使ったんです

か!?」


「辰巳…、褒めてくれる?」


九条美雨は潤んだ瞳で辰巳零士を見つめた。


辰巳零士は九条美雨がこの言葉を言ったのか分かっていた。


Jewelry Pupil は心を許した相手から褒められる、


愛を表現して貰える事でJewelry Words の力が強まる。


モモのJewelry Words の能力が強まったのも、四郎がモモを喜ばせたからだ。


Jewelry Pupil は喜びを感じる程、Jewelry Words の能力が開花される。


だが、それは九条美雨の体にも大きく影響する。

辰巳零士はその事を恐れていた。


九条美雨のピンクダイヤモンドから逃れない。


愛を囁かずにはいられなくなる。



九条美雨を大事に思っているからこそ、ピンクダイヤモンドのJewelry Words の能力が開花する。


「お嬢、俺の為にありがとうございます。」


「辰巳…。これって、モモちゃんの…?」


「お嬢が考えている事が正解みたいですね。」


ブゥゥゥゥン!!


停車している辰巳零士の車の横に二郎と五郎がバイクを停車させた。


「辰巳さん、お久しぶりです。遅れてすいません。」


血がべっとり付いたフルヘイスを外したのは二郎だった。


「二郎か、お前等の方にも追手が来てたんだろ?」


「はい、それよりもこの爆破は?」


「モモちゃんのJewelry Words の影響らしい。」


「モモちゃんがこの爆破を?!」


二郎は辰巳零士の言葉を聞いて驚いていた。


「モモのJewelry Words って、こんな凄かったのか?」


五郎の言葉を聞いた辰巳零士は言葉を続けた。


「暴走してる可能性は高い。まだ、モモちゃんはJewelry Words を使い慣れていない。それを止めれるのは四郎しかいない。」


「四郎がモモちゃんを…?どう言う意味…ですか?」


「モモちゃんが四郎を好きだからだよ。」


辰巳零士はそう言って、九条美雨の頭を撫でた。



CASE 四郎



キィィイイ!!


俺は車を避けつつ、停車出来そうな場所を見つけ車を止めた。


「おい、モモ!!やめろ!!」


モモの肩を揺らし声を掛ける。


だが、モモは何の反応も見せずに外にいる車に指をさそうとした。


俺はモモの頬を少しだけ力を入れて叩いた。


パシッ!!


「しっかりしろ!!」


「っ!?」


ハッとしたモモは目をまんまるくさせて、瞬きをし

た。


「し、四郎…?」


「はぁ、やっと気付いたか。」


「わ、私……何を?」


モモは状況が理解出来ていなかった。


「とにかく落ち付け。追手も全員、死んだから。」


「死んだ…?四郎がやったの?」


「…、あぁ。」


モモがやった事は伏せておいた方が良いと判断した俺は、適当に答えた。


「私、何かしたよね?じゃないと、この状況…、おかしい。」


「Jewelry Words を使い過ぎて鼻血が出たんだよ。」


「それだけ?」


「あぁ。」


「嘘、嘘。私、前にも…こんな事をした事が…。」


モモは頭を押さえながらブツブツと言葉を続けた。

前にも?


「前にも、こんな事があった。あった、あった…。」


「お、おい。」


モモの意識がブツっと切れ俺の胸の中に倒れ込んで来た。


「おい、モモ!?」


意識が無くなっただけ…か。


「Jewelry Words の能力って…、一体どうなってんだ?」




「はぁ…、はぁ…、死にたくない、死にたくない!!」


四郎達を追っていた男は爆破の中から逃げ、裏路を走っていた。


「な、何なんだよあのガキッ。化け物だろ!?」


ドタドタドタドタ!!


「どこに逃げるつもり?」


男の前に黒いテディベアを持った少女が現れた。


栗色のツインテールヘアーを靡かせ、色白な肌にお人形のような見た目の少女。


少女の瞳はクリソベリルキャッツアイと言う宝石の瞳を持つJewelry Pupil であった。


男は少女の姿を見ると腰を抜かし、カタカタと体を震わせていた。


「あ、あああぁ…。」


「この役立たず。」


「も、申し訳ありません!!つ、次はちゃんと…っ。」


「嘘。そんな事、一つも思ってないくせに嘘ついた。」


「う、嘘なんて言ってません!!」


男はそう言って、頭を地面に擦り付けた。


少女は男に近寄りクリソベリルキャッツアイの瞳

で、男の顔を見つめた。


「嘘吐きは生きてる価値はない。」


少女がそう言うと、男は心臓を押さえバタバタと足を動かした。


口から白い泡が溢れ男の動きが止まった。


「双葉(ふたば)様!!」


双葉と言われた少女の後ろから黒いスーツを着た男達が現れた。


「お怪我はございませんか!?」


「うん、大丈夫。それよりもあの男、裏切り者だから殺した。後の事はお願い。」


「か、かしこまりましたっ。」


「双葉様、若頭が探していました。すぐに戻って下さいますか?」


その言葉を聞いた双葉の表情が明るくなった。


「本当!?早く帰る!!」


「向かえに来たよ双葉。」


双葉に声を掛けた男の存在に気が付いた双葉は男に抱き着いた。


ガバッ!!


「今日は早かったね!!遅くなるかと思ってた!!」


双葉と男は楽しそうに会話をする。


「帰ろうか双葉。」


「うん!!」


双葉を抱き上げた男は黒いスーツを着た男に囲まれながら裏路を後にした。


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