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殺し屋と少女の物語
百はな
百はな

42.狩られる者達 IV

公開日時: 2023年11月22日(水) 11:36
文字数:5,071

AM 6:30


𣜿葉薫(ゆずゆはかおる)の起床時間である。


カチャカチャカチャ。


卵を掻き回す音がリビングに響き渡る。


ボールの中に溶いた卵、砂糖2杯と醤油を一回りし、再び混ぜる。


火を付け、フライパンに油を引き卵を入れる。

ジュー、ジュー。


フライパン返しで卵をひっくり返し、再び卵入れる。


「ふわぁ、おはよー薫。」


𣜿葉孝明(ゆずりはこうめい)は欠伸をしながら、弟の𣜿葉薫に挨拶をした。


「お、美味そう。」


パクッ。


𣜿葉孝明は、別皿に添えられていたウィンナーを口に運んだ。


「あ、兄貴!!弁当のおかず食うな!!」


「一個くらい良いだろー?」


「仕方ないなぁー。」


「薫の飯が美味いから悪い。あ、仏壇の水変えてくるわ。」


そう言って、𣜿葉孝明は手慣れた手付きで水を変えた。


線香に火を付け、目を閉じて両手を合わせた。


仏壇の前には、𣜿葉孝明と𣜿葉薫の両親の写った写真が置かれていた。


「兄貴、朝飯出来たよ。」


「お、サンキュー。」


食卓に並べられた2人分の朝食を目の前にし、2人は椅子に座った。


𣜿葉孝明は窓の外に視線を向けら眉間に皺を寄せた。


「ん?どうしたの?」


「いや、何も。いただきまーす。」


「変なの、いただきまーす。」


2人は手を合わせ、食事を始めた。


「兄貴、野菜は残すなよ。」


「の、残してないよ。」


「嘘付くな。」


「はい…。」


「クック…ッ。」


𣜿葉孝明の顔を見ながら、𣜿葉薫は笑いを溢した。


「いつもありがとな、薫。飯作ってくれて。」


「な、何?急にそんな事、言い出して。」


「たまには良いだろ?こう言うのも。」


コーヒーに手を伸ばし、𣜿葉孝明はカップを口に付けた。


「どこか行くの?」


「え?」


「兄貴が優しくなる時は、どこか行く時だ。」


「薫、俺はどこにも行かないよ。お前を置いて行くもんか。」


「…なら、良い。」


不貞腐れている𣜿葉薫の頭を優しく撫でる。


「不安にさせたならごめん。今日の夕飯は何が良い?外に食いに行こう。」


「え!?い、良いの!?じゃあ…、焼き肉!!」


「ハハハッ!!分かったよ、腹空かせとけよ。」


「うわー、楽しみだなぁ。カルビ食べたい。」


「好きなだけ食えよ、薫。」


「へへ、外食なんて久々だなー。」


嬉しそうにしている𣜿葉薫を、𣜿葉孝明は優しく見ていた。



物陰から、𣜿葉孝明と𣜿葉薫のマンションを覗き込んでいる男達がいた。


「ここか?例のJewelry Pupilのガキがいる家は。」


「あぁ、頭の言うとおりな筈だ。後、数分したら𣜿葉が出て行く。その時に家にー、ゴフッ!?」


グシャ!!


1人の男の後頭部から血が噴き出した。


「な、何だよ!?お前等!?」


困惑する男の目の前にいたのは、眼帯を嵌めた六郎と右耳から頬に掛けて火傷の傷がある一郎だった。


六郎の手には鉄バットが握られ、先端には赤黒い血がベットリ付着していた。


「あー、やっぱり。アイツの言う通りだったね。」


ブンッ。


鉄バットに付着した血を払い除け、六郎は男を視界に入れた。


「テメェ、この糞女がっ…、ガハッ!?」


ゴンッ!!


一郎は男の頭を掴み、壁に思いっ切り叩き付けた。


「汚い声で、コイツの事を罵倒するな。糞野郎が。」


「うぐっ!?」


ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ!!


ピクッと男の体が反応した後、男の意識は無くなった。


「お兄ちゃん、あたしの事で怒ったんだ。可愛い。」


「調子に乗るんじゃない。」


「はぁい。」


「𣜿葉兄弟の護衛が俺達の任務だ。弟君には借りがあるからな、分かってるのか?」


一郎の言葉を聞いた六郎は、黙って頷いた。


「分かってる、これも嘉助(かすけ)の計画だしね。」


「辰巳さんの方には、三郎と四郎、モモちゃんが同行しているようだ。」


「モモちゃんが!?な、何で…?」


「モモちゃんの友達が、椿の奴等に拉致されたんだ。初めての友達を助けたかったんだろう。四郎が付いているから大丈夫だと…、どうした?」


黙っている六郎の様子がおかしいと思った一郎は、顔を覗き込んだ。


六郎の表情は暗く、唇の色も青くなっていた。


「ユマ?」


一郎は六郎の本名を呼び、肩を優しく抱く。


「モモちゃんが…、椿の所に行っちゃうのはダメ…。アイツは、モモちゃんに酷い事する筈だよ…。」


「ユマ…。大丈夫だ、お前だって四郎の事は良く知ってるだろ?」


「四郎はボスの命令には絶対に従うし、任務に失敗した事ないよ。椿は…、アイツの持ってる薬は本当にヤバイ。薬を回収しないと…。」


「ドラックの成分は不明、どこで生成されているのかも不明だ。椿会の奴等が作ってるには違いないが…。」


一郎は暫く考え込み、スマホを操作する。


「もしかしたら、Jewelry Pupilが関係しているかもしれんな。」


「え?Jewelry Pupilの…?」


「これ、見てみろ。」


スマホの画面を見た六郎は、驚愕した。



倉庫内ー


「やっぱり、辰巳君に守られてるんだね。薬が壊された。」


薬の効果が出ない九条美雨を見て、椿は呟いた。


「守られてる?どう言う事や?」


二見瞬はそう言って、椿に尋ねた。


「言葉の通りだよ、美雨ちゃんの身体から赤い棘が生えてる。薬の成分を抜き出したんだ。」


椿の言う通り、九条美雨の体から赤い棘が生え、ポ

タポタと血が落ちていた。


「まさか、辰巳君がJewelry Wordsの能力を使いこなせてたんなんてなー。これじゃあ、薬は効かないな。」


「何だよ、それ!?じゃあ、どうしたら良いんだよ!?」


「僕はね、美雨ちゃんの目が欲しいだけなんだよね。」


「は、はぁ?!話が違うだろ!?美雨のパートナーにしてくれるんじゃなかったのかよ??!」


蘇武は大きな声を出し、椿に反論する。


「これは無理じゃないんか?美雨ちゃんだって、辰巳君に…。」


「うるせぇ!!!」


ガシャーンッ!!!


近くにあった空瓶を叩き割った蘇武は、空瓶を持ち上げた。


「あは、あははは!!辰巳を殺しちまえば良いじゃないか?!俺は、俺はぁぁ…。俺は美雨を愛してるんだよ!?」


「本当にヤバイ。コイツ、頭おかしいよ。」


「うるせぇぞ、糞ガキが!!?」


「パキッ。」


舐めていた飴を噛み砕いた双葉は、蘇武を睨みながら手を広げた。


ドクンッ!!


その瞬間、蘇武の心臓が強く脈打ち苦しみ出した。


「あ、あが、ガハッ!!」


「コイツ、殺ろす。双葉の事、糞ガキって言った。」


「あ、あ、ああ、あ、あが…。」


「死ね、死ね。」


双葉が手のひらを握ろうとしたのを、二見瞬は止めた。


「双葉、やめや。」


「やだ、殺す。コイツ、双葉の事を馬鹿にしたもん!!」


「双葉。」


「っ…。」


二見瞬がギロッと双葉を睨むと、双葉は手を下ろし涙目になった。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。き、嫌いにならいで…、瞬。ごめんなさい、ごめんなさい。」


ポロポロと涙を落としながら双葉は、何度も謝罪する。


「嫌いにならへんよ、俺の言う事を聞いてくれんなら。」


「聞く、聞くから…、捨てないで…。」


「捨てへんよ、双葉。ほら、落ち着きや。」


「うぅ…、うぅ…。」


「よしよし。」


二見瞬は泣き止まない双葉を抱き上げ、背中を優しく撫でた。


「ゴホッ、ゴホッ!!」


「お前も双葉を刺激すんなよ、痛い目に遭うで?また。」


「ゴホッ、ゴホッ、わ、分かったよ。」


「お前に辰巳君は殺せへんやろ?」


「あ?」


「椿、コイツにアレ飲ませたら?」


二見瞬の言葉を聞いた椿は、ニヤリと笑う。


「あぁ、まだ飲ませてなかったな。」


椿はポケットから、キャンディーの絵柄が描かれたカプセルを取り出した。


「蘇武、壊れるならとことん壊れろ。」


「な、何をすっ…、ウグッ!?」


「おら、飲めや。」


蘇武の口の中に思いっ切りカプセルを入れ、口を手で押さえた。


ジタバタと暴れていた蘇武の体は、ガタガタと震え出した。


「あがあがあがあがぁぁあぁぁぁあ!!」


倉庫内に蘇武の叫び声が響く。


その光景を、九条美雨はボヤけた視界で見ていた。


「辰巳…、来たらダメ…。」


九条美雨は小さな声で呟いた。


車内ー


四郎達は車で九条美雨が囚われている倉庫に向かっていた。


「椿の殺し屋達は殺したのか、三郎。」


助手席に座る辰巳零士が、運転している三郎に問い掛けた。


「あー、殺せてないね。なんせ、警察が来たからね。」


「警察?」


「まぁ、あんだけ銃声がしたら通報が入るでしょ。だから、九条家組に乗り込んだ組員のほとんどは逮

捕されたよ。数人しか残ってなかったけどね。」


四郎は2人の会話を黙って聞いていた。


警察と言う言葉を聞いて、四郎はとある男が頭の中に過った。


賭博場にいたとある警官の男の事である。


「雪哉さん達には何も警察は聞いて来なかったのか?」


「何にもなかったよ。聞かれないようになってたから。」


「どう言う意味だ?」


四郎はそう言って、三郎に尋ねた。


「Jewelry Wordsの能力でね、到着した警察官の思

考を変えたんだ。ボスと俺の事はまるで、見えていない感じでね。」


「警察の中にも、Jewelry Pupilがいるのか?」


「いるよ、子供じゃないけどね。その人は俺達側の人間だよ。嘉助がそう言ってた。」


「嘉助か動いて警察が到着し、お前がこっちに来れたのか。」


「正解。」


四郎の中で益々、嘉助と言う男に対して謎が増えた。


「何故、嘉助がそこまで動く。お前に協力を求めて、椿の行動を止めようとしてる。一郎達の事もそ

うだ、今はどうなってんだ。」


「一郎と六郎の傷はね、薫君のJewelry Wordsの能力で治したから大丈夫。2人は今、椿に狙われてる薫君の護衛をしてる。嘉助がそうする理由は、単純だよ。」


三郎はそう言って、カーブを曲がった。


「復讐だって、椿を殺す為にね。」


「バレないものなのか?椿に。」


「今の所はね、椿にJewelry Wordsの能力が掛かってるみたいだし。もう、着くよ。」


目の前には大きな古びた倉庫が見えて来た。


倉庫の周りには高級車が何台も止められ、男達が屯(たむろ)っていた。


四郎達に気付いた男達は、武器を手に取り集まり始めた。


「あーあ、雑魚ばっかり集めちゃって。」


「俺が行く。」


そう言ったのは、辰巳零士だった。


「分かりました、俺と三郎は辰巳さんの邪魔にならないようにします。」


「あぁ。」


刀を持って車から降りた辰巳零士を男達は囲った。


その数はおよそ20人。


「お前が辰巳零士か?呑気に来やがったか。」


「邪魔だ。」


「あぁん?テメェ、誰に口き…。」


ズシャッ!!


男の頭が地面に落ちた。


切断された首から大量の血が噴き出した。


「は、は?」


「い、今…。コイツの…。」


返り血を浴びた辰巳零士を見て、男達は絶句した。


「辰巳さん、美雨ちゃんといる時と違う…。」


「そりゃあ、そうでしょ。俺達が知ってる辰巳さんはこっちの姿だよ。」


車内から見ていたモモは思わず、声を出していた。


モモの言葉を聞いた三郎は、銃弾を入れながら答えた。


「俺達も降りるぞ。モモ、俺から離れんなよ。」


「うんっ!!」


四郎の言葉を聞いたモモは、ギュッと四郎の服の袖を掴んだ。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


「や、やめっ、あがぁぁぁぁぁ!!」


辰巳零士は次々に男達を斬り倒して行く。


ブシャアアアア!!!


「な、何なんだよっ、コイツ!?」


「こ、こんなヤバイ奴だなんて、聞いてねぇよ!?」


「そりゃあ、残念だね。」


「え?」


車から降りた三郎は、男の頭に銃口を突き付け引き金を引いた。


パァァアン!!


「ひっ、ひぃ!?」


「四郎ー。コイツ等、素人みたいだよー。俺達の手伝いは必要なさそう。」


「だろうな。」


「ゴフッ!!」


四郎は落ちていたレンガを拾い、男の顔を殴り付けた。


グチャッ。


ゴンッ!!


「仲間がいやがったぞ!!コイツ等をやっち…っ、

グハッ!!!」


大きな声を上げた男を辰巳零士は、背中を斬り付けた。


「うるせぇな、さっきから。ごちゃごちゃ騒ぎやがって。殺すぞ。」


「「っ…、?!」」


辰巳零士がそう言って、周囲を睨み付けると男達は静まり返った。


「お前等、俺を殺しに来たんだろ。なら、殺される覚悟で殺しに来い。殺してやる。」


カチャッ。


刀を構え直した辰巳零士は、言葉を放った。


だが、男達は誰も動こうとしなかった。


それ程までに、辰巳零士から放たれているプレッシャーが大きいのだ。


「鳥肌立った…。」



「辰巳さんは美雨にだけだ、あんな優しい顔するのは。」


「美雨ちゃんが…。辰巳さんを変えたんだね。」


キィィィ…。


四郎とモモが話していると、倉庫の扉がゆっくりと開いた。


「見つけたぞぉぉぉ…、辰巳ぃぁあぁあ!!!」


涎を垂らしながら蘇武は、空瓶を辰巳零士に投げ付けた。


パリーンッ!!


辰巳零士は即座に空瓶を斬り倒し、蘇武を睨み付けた。


「お嬢を返して貰うぞ、糞野郎。死んで詫びろや、蘇武。」


「ギャハハ!!?死ぬのはおまえだぁぁぁああ!!」


落ちていた銃を手に取った蘇武は、辰巳零士に向かって引き金を引いた。


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