次の日は、早朝から釣りに出た。
朝もやの中、湖にカヌーを出すのは、とても気持ちがいい。
まだ朝日も登り切る前だったが、魚が活性化する時間帯だ。
「イレグイじゃん」
竿を出せば、面白いように魚が釣れる。
せいぜい1時間も釣れば、クーラーボックスは満杯となった。
今朝は特別釣りがしたかった訳じゃなく、こうでもしないとポイントが稼げないから来てみただけだが、新鮮な朝の空気を深呼吸して朝日を浴びるのは、とても爽快だ。
「眠かったけど、来て良かったな」
そう言ってカヌーの舳先を岸辺へ向けてパドルを漕ぐ。
湖岸ではソニアとレナ、ルナ、リナが待機している。
「ご主人さま~」
休み明けの3人のメイドは元気いっぱい手を振っている。
「今日はどうでしたか~」
ルナが釣果を聞いてくる。
「今日も釣れすぎだよ、ここの魚たち警戒心がな無さすぎる」
湖岸に着くと、みんなが手伝ってくれてカヌーを砂浜に引き上げてくれた。
新鮮な虹鱒はメイドたちの手で厨房に運ばれ食材となる。
その場でステータスを確認してみると、今日の分のLPが100ポイント減り、釣りの分が20ポイント加算されていた。
そのままダイニングへ行き朝食をとる。
今朝は和食、ご飯に味噌汁、焼き魚、お新香に納豆まである。
「やっぱり和食だよな~」
「この世界でも和食が食べられるなんて、オレは幸せだ」
このハイレベルな生活ができて1日LP100ポイントで済むっていうのは、逆にお得かも知れない。
「ご主人さま、ご飯のお代わりはいかがですか?」とリナが聞いてくれた。
「リナ、ありがとう」
「それじゃ、もう一杯いただこうかな」
ご飯が美味しすぎて、このままでは太ってしまう。
何か運動しなきゃ。
幸いなことに、このリゾートにはジムが完備されているので、あとでランニングマシンかエアロバイクを1時間くらい漕いでおこう。
食後は散歩を兼ねて温泉の掘削現場に向かった。
進捗はどうだろう。
オレの姿を見てローレンが走ってきた。
「カイト様、温泉の進捗でございますね」
「昨日から40mほど掘り進み、今は地下90mまで到達していますが、まだ温泉は出ておりません」
「そっか~、深くなると掘り進むのが遅くなって来るんだね」
「左様でございます、無理すると機材が壊れますので、ゆっくりと掘り進めます」
「了解、ところでオレの車はどうなった?」
「はい、カイト様の車は専用ガレージを作りまして、その中に移動しました」
「そうか、ローレンありがとう」
「もし、お時間がございましたら、これからガレージへご案内いたしますが、如何なさいますか?」
「ああ、そうだね、すぐに見たいから案内してもらおうかな」
女神が神テクノロジーで改造したと言っていた水素エンジンを見たかったし、お詫びに付けておいたよ~と言うオマケ機能も確認したかったのだ。
オレのあとに続いてソニアと専属メイド3人も付いてくる。
ガレージは農場へ続く道の途中に建てられていた。
エントランスからも歩いてすぐの距離だ。
ガレージは高さ3m、幅10m、奥行き7mほどの大きさで、もう1台くらい入りそうな大きさだ。
ローレンがスイッチを押すと半透明の電動シャッターは上部にスライドして屋根部分に格納された。
中にはオレの愛車とバイクが入っていた。
「ご主人さまの車、素敵ですね!」
メイドたちが歓声を上げた。
早速、ドアロックを解除し、ボンネットを開け、エンジンルームを見る。
女神はV型8気筒DOHC5.0リッター水素エンジンと言っていた。
5.0リッターと言えば、かなりのハイパワーエンジンだが、見た目はそんなふうには見えない。
運転席に乗り込みエンジンを掛けて見た。
セルの音がして小気味良いエンジン音がガレージ全体に響く。
しかし、5.0リッターのハイパワーエンジンとしては、かなり静粛性に優れている。
燃料が水と言う究極のエコカーは、環境にも優しいようだ。
さて、女神のオマケ機能というのはどこだろう。
それはすぐに見つかった。
「オマケ」と書いたシールが貼ってある。
「分かりやす!」
シールには小さな文字で何か書いてある。
「なになに?、ステルスモード…?」
早速、ボタンを押してみた。
だが、特に何も変化は感じられない。
「何も変化ないじゃん」
そう言って、外を見るとローレンが大声で何か叫んでいる。
何を言っているのか聞こえないので窓を開けると。
「ご主人さま、車が見えません、向こう側が透けて見えます」と言っていたのだ。
え、そんな馬鹿なと思い、車を降りてみると、開いた窓の部分から車内がみえるが、それ以外は透明で、向こう側が透けて見えるのだ。
「は~、ステルスってこういうことか」
「中からは普通に外が見えるけど、外からは車が透明で見えなくなるんだ」
「それにエンジン音など、中の音は外に聞こえないが、外の音は普通に中に聞こえる」
「ふむふむ、なるほどこれは使えるかも」
こちらの世界では目立つこと『間違いなし』のこの車であるが、この機能を使えば走行中、誰にも気づかれずに走れる。
「は~、なるほどね~」と独りごちていると。
オマケスイッチの横にオマケ2スイッチを発見した。
小さなシールで『オマケ2・レーダー』と書いてある。
ボタンを押して見るとフロントウィンドウ全面にレーダーが表示された。
最大で半径4キロ四方の生体反応と構造物が感知できるシステムらしい。
レーダーに映るリゾート内で動いている点はメイドたちであろうか。
ちなみにすぐ傍に見える汎用ドロイドはレーダーには映っていないので機械は感知できないと言うことか?
これがあれば、車外に出なくても、外の様子が分かるし使えそうだ。
ステルス機能はエンジンが掛かっていなくても有効で、車外にいて車が見えず探せない時は、ステルス機能のオン/オフをキーでリモート操作できるので問題ない。
因みに、後で分かったことだが、同じ機能はバイクにも付いていた。
昼からは1時間ほど、ドロイドたちの農作業を手伝った。
これも地道なポイント稼ぎのためだ。
ほどなく昼食の時間となった。
今日は1階のダイニングに昼食を用意したそうだ。
行ってみると、すぐにメイドが昼食を運んでくれた。
昼食はトマトソースの上に海老や魚介がたっぷり乗った熱々茹で立てのペスカトーレとバーニャカウダ風の野菜サラダだ。
ペスカトーレは唐辛子が効いて少し辛いが、納得の美味さだ。
じっくりと味わいながら、最後はコーヒーで流し込む。
つい食べすぎてしまったが、今日はその分、汗を流す予定を組んでいる。
その後、ジムに行ってエアロバイクで1時間ほど汗を流す。
一人で使うにはもったいないくらい充実した設備がここには揃っている。
シャワーで汗を流してから、残った時間をどう過ごそうと考えた。
自分の車でドライブに出掛けたいが、異世界だし、まだ一度も敷地の外に出たことはない。
リゾートの壁の向こう側がどうなっているか興味はあるが、何か問題が起きる可能性もある。
こういう時はローレンに相談して見るのが一番だ。
「車に乗って少し敷地の外へドライブに行きたいんだが、問題ないだろうか?」
「特に問題はないかと存じます」
ローレンはアッサリと承諾した。
「ただし、街道で人に遭遇する可能性も御座いますれば、ステルスモードはオンのまま走行されることをオススメします」
「分かった、じゃあ、これからドライブに出かけてくるよ」
「ハイ、ハイ、ハ~イ」
うしろで誰か手を上げている。
「ご主人さま、それに乗ってみたいです」
見ると専属メイドの3人が目を輝かせて、手を挙げている」
なんと、その後ろにはソニアまで。
普段は冷静沈着なソニアだが、たまにこんな感じで、お茶目な一面を見せる。
「分かった分かった、乗せるから騒ぐな!」
「わーい、やったー」
メイドたちは歓喜の声を上げた。
「それでは、私はここでお留守番させていただきます」
多分、ローレンも乗ってみたかったのだろう。
助手席にソニア、後部座席には専属メイドの3人を乗せて、オレがアクセルを踏むと車はゆっくり走り始めた。
今日は、このまま海まで行ってみるつもりだ。
城のゲートに向かい、警備ドロイドに門を開けてもらう。
「この車、名前あるんですか?」
後部座席からルナが聞いてきた。
「え、名前なんて無いよ」
「え~、なんか名前つけてあげればいいじゃないですか」とルナが変なことを言う。
今まで考えたこともなかったが、愛車なのだから、名前くらいあってもいいかも知れない。
オレは暫く考えて
「そうだな~、アウリープ号にしようかな」
アリウープと言うバスケットボール用語があるが、それの頭2文字を入れ替えてみただけだ。
「頭に浮かんだ言葉を、ただ言ってみただけだよ」
「アウリープ!いい名前ですね」
メイドたちは、この車の名前に賛成してくれた。
前世でアラサーだったオレが、若い女(オレに言わせればソニアも十分に若い)、しかも飛び切りの美少女を4人も乗せてドライブするなど、考えられないことだ。
ゲートを抜けて森に入ると、細い道が2kmほど続く。
森を抜けると整地された街道に出た。
ここは旅人が往来する道で比較的平らだが、舗装されているわけではない。
道にアウリープ号を停めてレーダーで周囲を探索すると、街道沿いに何人かの旅人が歩いているのが分かった。
アウリープ号はステルスモードのまま、ゆっくりと街道を走った。
何人かの旅人とすれ違ったが、彼らは突然物凄い突風が吹いたと驚いているに違いない。
この街道を、そのまま進行方向に進むとソランスター王国の王都フローリアに至るらしい。
街道の途中で海へ出られそうな細い道を見つけて左折する。
そのままゆっくり5分ほど走ると海岸へ出た。
砂浜に波が打ち寄せ、潮の香りがした。
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