日も傾き始めた頃、オレとメイドたちは湖畔へ下りていった。

　昨日、異世界宅配便で届いたオレの私物の中にキャンプギアが入っていたのだ。

　因（ちな）みにキャンプギアとはキャンプ道具の総称である。

　オレはキャンプ好きの親の影響を受け、幼少の頃からキャンプに親しみ、大人になってからも仲間とグループでキャンプに行ったり、ソロキャンプに行ったりした。

　この世界に転生するまでは多忙でキャンプに行く時間も取れず、年に1～2回しか行けなかったが、この世界ならたっぷり時間もあるし、誰にも邪魔されず思う存分キャンプが楽しめる。

　オレは湖畔キャンプが一番好きで、よく行ったものだ。

　この湖岸は良く締まった白砂で、少し岸から離れると砂礫（されき）となり、ちょうど良い間隔で木も生えているから、キャンプにはうってつけのフィールドだ。

　この辺りを少し整地して芝生でも植えれば最高のキャンプ場になるだろう。

　慣れた手付きでドーム型のテントを張り、その横に大きめのウィングタープを張る。

　タープの中にキャンピングチェアとテーブルを設置して、少し離れたところに焚き台を置いて完成だ。

　バーベキューコンロはないが、大きめの卓上七輪に備長炭で火を熾して、牛肉や魚介類、野菜などを焼くのがキャンプの楽しみのひとつだ。

　メイドたちが用意してくれた食材の中には、何処（どこ）で調達してきたのか、ホタテのような2枚貝やロブスターに似た大海老まであった。

　早速焼き始めると何とも言えない炭火焼きの良い匂いが辺りに漂ってきた。

　傍に控えている専属メイドたちは興味深げにオレの仕草を見ている。

　美味しそうに焼けた牛肉を口に運ぼうとすると、「ゴクっ」と生唾を飲む音が聞こえてきた。

　振り返るとメイドのレナだった。

「食べるかい?」

「い、いいんですか?」

　そう言って嬉しそうにオレの隣に寄ってきて美味しそうに肉を頬張った。

　メイドロイドもこうしてみていると普通の女の子と何ら変わりはない。

　メイド長のソニアは、その様子を見ながら少し怪訝（けげん）そうな顔をしているが、オレが許可をしたので何も言わずに黙って見ている。

「ルナとレナ、ソニアもこっちにおいでよ、お腹減ってるんだろ」

　食材はたっぷりあるし、他の2人のメイドも食べたそうだったので、ソニアも入れて皆んなで食べることにした。

　皆んなで椅子に座りテーブルの卓上七輪を囲む。

「炭火で焼いた肉は格別に美味（うま）いね～」

「これでビールがあれば最高なんだが」

　そう言うと、待ち構えていたようにソニアがビールサーバーを出してきて、冷え冷えのビールをジョッキに注いでオレに渡してくれた。

「こうなると思って椅子を取りに行った時に一緒に持ってきました」

「ソニア、グッジョブ！」

　そう言いながら、オレはビールを流し込んだ。

「く～、堪（たま）らんね～」

　炭火で好きな食材を焼いて食べ、ビールで流し込む、しかも可愛い女の子に囲まれてオレの機嫌が悪い訳はない。

　メイドたちにとっては初めての体験であったが、皆んな美味しそうに頬張っていた。

「今度、メイドたち全員呼んで、ここで焼肉やろうか」

「でも、仕事のある者もいるので全員は難しいのでは？」とソニアが口を挟む。

「たまにならいいじゃない、親睦も兼ねてさ」

「ご主人さまが、そう仰るのでしたら、そのように致しますが」

　ソニアは渋々了承した。

　メイドたち全員で焼き肉パーティー、実に楽しそうな企画だ！

　いつの間にか陽は落ちて、空に浮かぶ雲が夕焼けで真っ赤に染まっていた。

　そして徐々に幻想的な深い青へと変わるマジックアワーの時間となり、腹一杯に食べた俺たちは焚き火のそばに移動した。

　この城の周囲は、ほとんど森なので薪の確保には不自由しない。

　汎用ドロイドが、これでもかと言うくらい、たくさんの薪を用意してくれた。

　焚き火台に、薪を焚（く）べながら、勢いよく二次燃焼で燃え上がる炎に癒やされる。

「なんか、こっちに来てから癒やされっぱなしだな～」

　オレがそう言うとレナが聞いてきた。

「元の世界では、どのような生活だったんですか？」

　少し考えてからオレが答える。

「そうだな～、ここでは考えられない位、毎日が目まぐるしく忙しい生活だったよ」

　オレは前世のことをメイドたちに話した。

　大型都市開発プロジェクトの設計チームのリーダーに抜擢されて、何日も帰れなくて、会社に泊まり込んで朝から深夜まで働いていたこと。

　十分に食事の時間も取れずいつも疲れていたこと。

　自分の好きな仕事だったし、やりがいはあったけど、精神的にも肉体的にも、かなりキツかったのは間違いない。

　でも与えられた仕事をチーム全員でやり遂げた時の達成感、充実感、あれはこの世界で、今の環境では味わえないだろう。

「まだ、そんなに経っていないのに、なんだか懐かしく感じるよ」

「お仕事、そんなに大変だったんですね」

　レナは元の世界のオレのことに同情してくれたようだ。

「いや、でも転生して、こちらの世界に来れて、オレは幸せだと思うよ」

「キミたちみたいな可愛い子たちに囲まれて、自分の好きなように生きて行けるしね」

　そう言って、笑いながら隣に座っていたレナの頭を撫でてやった。

　こんなことをすると、やれセクハラだ、パワハラだと言われそうだが、少なくともここにはそんな言葉はない。

　それから約1時間メイドたちとアレコレお喋りしてお開きにした。