あまいもの

ぱるむ
ぱるむ

夕焼け

公開日時: 2021年11月30日(火) 17:27
更新日時: 2021年11月30日(火) 17:28
文字数:1,260

空が茜色に染まる放課後。私は白い息を吐きながら、全速力で走っていた。

「お疲れい!」

私は満面の笑みで、自転車を押す幼馴染の背中に激突した。

「…相変わらず元気だな。」

背中に激突された彼はジトリと私を見つめた。その切長の目にドキリとする。赤くなる頬を空の所為にして、彼の自転車のカゴに私の荷物を突っ込む。

「おいおい、俺はお前の荷物は運ばんぞ。」

「後ろ、乗せてくれるでしょ?」

私はいつも彼の自転車の後ろに乗せてもらっている。溜め息を吐き、やれやれこれだからお前はとでも言いたげに、

「しゃーねーな。」

と言ってくれた。

「へへっ。ほんとは嬉しいくせに。」

「誰がお前なんかを乗せたがんだ。ただ重いだけじゃねーか。」

「何ー!?」

いつもみたいに言い合いを始める。すると、彼の友人である目敏い男子達が、こちらに来た。

「お?夫婦喧嘩か?お熱いねぇ。」

案の定私達を囃し立てる。彼は反論する。

「なッ…誰がこんなのと!」

こんなの…そうだよね。分かってる。ただ、私の気持ちとは裏腹に言葉はするすると口を突いて出て来る。

「おっとぉ?こんなのとは良い度胸してるじゃん。私みたいに可愛い子、すぐ持ってかれちゃうぞ?」

戯けてみせる。皆が笑ってくれる。彼の笑顔が見れるなら、私は幸せだ。

「ほら、乗れ。」

なんだかんだ言いながら、結局乗せてくれる。そんな何気無い優しさに胸がキュンとする。

「なぁ、お前さ、自分で自転車乗らねーの?」

何の屈託もなく彼は聞いてきた。

「うん。乗らない。怖いもん。」

「怖いって…子供か。」

「子供じゃないから怖いんだよ。」

夕闇が迫る空を見上げ、呟いた。彼はその真意を理解してないようだった。それで良い。それが良い。ぎゅっと彼に抱き着いてみる。彼の背負うリュックが壁となって、体温が感じられない。

「うわっ…っと。あぶねーな。急に抱きついてくんじゃねーよ。」

「だって落ちちゃうもーん。」

「…ったく。」

曲がり角を曲がれば家に着いてしまう。まぁ、彼の家はすぐ隣なんだけど。それでも淋しいのは淋しい。私は、ぴょんと自転車から降りた。ただ、彼は今さっき来た道を戻って行こうとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ。どこ行くの?」

すると、彼はキョトンとして言うのだった。

「どこって…塾。」

「…受験?」

私達は受験生ではない。でも、難関校を受けるなら、準備していてもおかしくない。

…別々になっちゃうのかな。

「ああ。偏差値高い学校行きてーし。」

ぐちゃぐちゃの感情をぜんぶ飲み込んで、平静を装いながら、

「そ。甘いもん食べて頑張れよ!」

と、彼の背中をバシバシ叩く。

「叩くなよ。痛え。」

さすがに露骨だったかな。別にいいけど。


「ただいま」

誰もいない家に帰る。自室に入ったとたん、疲れがどっとおそってきた。

「…てか、わざわざ送ってくれたのかよ。」

今になって気づく。

「子供…か。」

子供じゃないから、こわい。

君の後ろが取られることが。

どこにも行かないから。はなさないでね。

「あまいもの…死ぬ程あるんだろうな…」

こっそり彼のリュックにいれた手からは

あまくて

にがい


チョコレートのにおいがした

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート