ヘヴンズデビル

ナカシマハルカ
ナカシマハルカ

第二話

公開日時: 2020年9月1日(火) 08:00
文字数:1,861

なんとか知っている道にたどり着き、ようやく乙女坂を登り終えた頃には、既に入学式開始十分前。


急いで駐輪場にバイクを停め、指定された場所へと向かう。


すると、中世ヨーロッパに出てきそうな建物が、桜の木々に囲まれて現れる。


壁は全て蔦に覆われていて、その隙間から意匠の凝った柱や壁が除いていた。


まるで写真で見たパルテノン神殿の様。


僕は小走りで受付に近づくと、赤い腕章を付けた女生徒からパンフレットを受け取り、大きな扉を開く。


中は座席が下の舞台に向かって傾斜しており、映画館や劇場のつくりと同じだった。


僕は指定された座席に着く。周りを見ると袖を通したばかりの制服を来た女の子達が、折り目正しく座り、入学式が始まるのを待っていた。


男子生徒も何人か居るのが見えたけど、ぽつぽつと女子生徒の合間に見えるだけで、本当に一握りなようだ。


僕が息を整え終えた時、講堂の明かりが絞られ、司会席にスポットが当たる。


そこには髪をおかっぱにして、ハーフリムの眼鏡を掛けた、如何にも規則にうるさそうな女生徒がマイクを握って立っていた。


彼女の左腕には、受付の生徒が付けていたものと同じ赤い腕章。


ただ違うのは、副会長、と役職名が金の刺繍で入っている。


恐らく、あの赤い腕章は生徒会役員だけが着用することが認められたものなんだろう。歴史のある学校は違うな。


一人納得していると、スピーカーから凛とした声が流れてくる。


「只今より第百二十一回入学式を開催します。まず初めに、神代山高校生徒代表、生徒会会長、飛針世羅さん、お願いします」


 副会長がマイクを下ろすと、下座にスポットライトが当たり、一人の女生徒が現れる。


 そして僕は、彼女目を奪われてしまった。


光を受けて美しく輝く金色の髪。それを束ねて大きな三つ編みにし、女性特有の曲線を描いた背中に美しく垂れ下がっていた。


舞台中央に置かれたマイクの位置まで来ると、すっと顔を正面に向ける。


 その顔は彫りが深く、目鼻立ちがしっかりと整っており、ここに居る生徒達の中ではずば抜けて可愛い、いや、美しかった。


 僕は会長に目が釘付けになる。これほどの美貌の持ち主に僕は今まで会ったことはなかった。


 どうやらそれは周りの生徒も同様で、彼女が正面を向いた瞬間、周囲から感嘆の声が上がっていた。


「皆様、この度はご入学おめでとうこざいます、この学校は――」


 会長は祝辞を述べ、この学校の沿革や成り立ちを説明し始めるけれど、彼女の容姿を網膜に焼き付けることに精一杯で、何を話しているのかさっぱり頭に入ってこなかった。


「――最後に、我が高校をより良く発展させていく仲間、生徒会役員を募集しております。皆様の参加を心よりお待ちしております」


 たおやかな動作で頭を下げると、上品な立ち居振る舞いで下座に消えていく。


 その途端、会場からざわめきが上がる。


 耳を済ませると皆、会長の容姿についてや、生徒会に入るにはどうすればよいかなど話し、時折黄色い歓声も上がっていた。


 かく言う僕も、すっかり会長に魅せられてしまっていた。


 そんな美しい人が、自らの手や足となる部下を探している。


 ならば自分が生徒会に入って……。


 なんて妄想をしていると、水を差すような咳払いと、少し不機嫌な声がハウリングしかけたスピーカーから聞こえてくる。


「えー、会長は役員を募集しておりましたが、参加にあたっては書類審査、勉強や体力テスト等を厳正に行い、それに合格できた方だけが正式に生徒会役員として参加することができます。ちなみに各人に課された一ヶ月ごとの目標をクリアしていけなければ、その時点で役員として除名される可能性もございますので、皆様ご覚悟の上、生徒会役員に声をかけていただくか、五日後に開催される生徒総会でエントリーをお願いします……」


 厳しい基準にどよめく講堂内。一年生達はお互いに顔を見合わせ耳打ちし、がっくりと項垂れていた。


「……また、最近では美乃黒市の治安は悪くなり、夜間街で出歩く生徒や、他校の、特に男子高校の不良グループが学校や駅周辺に出没し、そういった連中と関係を持つ生徒もいるといった話もあります。学生の本分である勉学を忘れ、欲に溺れるような方は言語道断ですので、良く検討の方をお願い致します……それでは、理事長お願いします」


 副会長が怒気を孕みながらそう話すと、生徒たちは水を打ったように静かになる。


冷え切った空気の中、今度は初老の女性が舞台にあがると、厳かに祝辞を述べ始めた。


次第に式は元の厳かな空気のもと進行していく。


けれど僕は式が進んでいくごとに、熱い気持ちが滾っていった。


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